1. トップ
  2. 看護記事
  3. 症状から探す
  4. 摂食・嚥下障害
  5. 摂食・嚥下障害患者の食事
  6. 第10回 摂食嚥下障害の臨床Q&A 「ムセがあったり誤嚥のおそれがある患者さんの食事時の姿勢は?」

【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第10回 摂食嚥下障害の臨床Q&A 「ムセがあったり誤嚥のおそれがある患者さんの食事時の姿勢は?」

  • 公開日: 2016/2/22
  • 更新日: 2021/1/6

本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。


認知症のため食事介助が必要な高齢者。食事時にムセを認めるなど嚥下機能の低下を疑うので食事時の姿勢に注意するよう指示を受けている。食事時の姿勢で気を付けるべきポイントは?


嚥下機能の低下した人にとって、安全に食事を摂るためには食事の形態はもちろん、食事を摂る際の環境を整えることがとても大切です。そのなかでも、姿勢の設定は、誤嚥のリスクに関わるだけでなく、症例によってはスムーズな摂取を助ける重要な要素です。そのなかでも今回は、頸部とリクライニング位についてお話しします。

はじめに気を付けたいこと

嚥下動作という点からは、四肢体幹の安定よりも気を付けたいポイントに「頸部がリラックス(異常な筋の緊張がない)する姿勢をとる」ことが挙げられます。

具体的には、「軽く顎を引く、うなずく程度」の姿勢が良いとされています。

頸部の筋は、頭を支える役割があるのと同時に嚥下動作を担う役割があります。つまり、頸部の筋が緊張してしまう、あるいは過度に前屈・後屈してしまうと嚥下に影響がでてしまいます。

真上を向いたまま唾液を嚥下してみましょう。普段の唾液嚥下と違いかなり嚥下が難しくなるのが実感できると思います。

体幹が左右に傾き、バランスを保つために頸部の筋が緊張している姿勢、あるいは、頸部が後屈している姿勢などは、スムーズな嚥下動作を妨げ誤嚥のリスクを高める原因となります。

頸部が極端に傾いていないか、過度な前屈・後屈がないかに注意しましょう。セラピスト(ST,PT,OT)が勤務している施設では、姿勢の調整について相談するのも大変有効です。

摂食嚥下障害におけるリクライニング位の意義と注意点

嚥下障害への対応として最も有名な姿勢がリクライング位ではないでしょうか?きっと皆さんも一度は耳にされたことがあると思います。このリクライング位ですが、嚥下障害症例に対して推奨されるのは、次のメリットがあるからです。

1.リクライニング位のメリット

  1. 誤嚥のリスクが軽減される:図に座位とリクライニング位の違いを示します(図1)。人の頭頸部を側面から見ると、気管は前方に、食道は後方に位置しています。リクライニング位をとることで、口腔から咽頭へ流れ込む食塊は咽頭後壁を伝って流れ落ちやすくなるため、直接気管に入ってしまうリスクを軽減することができます。
  2. 食事の送り込みを助ける:リクライニング位をとることで、重力を使って口腔から咽頭への食塊の送り込みを補助することができるため、送り込みが障害されている症例、例えば、アルツハイマー型認知症のような口への溜め込みが頻繁に起きてしまうような例では特に有効です。

リクライニング位における嚥下解説図

リクライニングをしない場合(座位)、食塊は咽頭の通過時に気管に流入しやすいが(左)、リクライニングさせることより、食塊は重力を利用して咽頭に流れ込みやすくなるだけでなく、咽頭後壁を伝って移動するため誤嚥しにくくなる(右)

図1 リクライニング位における嚥下

2.リクライニング位のデメリット

  1. 自食が難しくなる:リクライニングの角度がつよくなるほど(仰臥位に近くなるほど)、当然身体と食事(食器)の距離は遠くなっていきます。リクライニングの角度によっては、自食が実質的に不可能になります。
  2. 咽頭へ流れるコントロールが難しくなる:リクライニングさせることは、重力を利用して口腔から咽頭への送り込みを補助する反面、食物(食塊)を口腔内に保持することが困難になります。つまり、自分の意図しないタイミングで、意図しない量の食物が咽頭に流れ込んでしまうリスクが高くなり、その結果誤嚥しやすくなる可能性があります。この場合は、水分にはとろみを付与して流れ込むスピードを調整するなどの対応が必要です。

リクライニング位の角度は「30°」?

リクライニング位は大変有効な姿勢調整法なのですが、ではどの程度リクライニングさせるのが適切なのでしょうか?

この「角度は何度が適切か」という点については、「30°リクライニング位」という記載をよく見かけます。

実はこの30°リクライニング位が適切であるのは、厳密には、「脳卒中後の症例で嚥下造影検査(VF)を行った時」の研究結果です。これは言いかえると、どんな症例でも30°がベストなのではないとも言えます(もちろん30°リクライング位が有効で適切な症例はたくさんあります!)。

しばしば、この「30°」という角度を厳守することにこだわってしまう人がいますが、対象とする症例によっては、そこまで厳密でなくても問題ないケースが多いです。

実際に筆者は、もっと角度を起こした姿勢でも全く問題のない(=ある程度幅があってもよい)症例、あるいは完全に仰臥位にすることで誤嚥が改善する(=30°でも誤嚥してしまう)症例などを多く経験しています。

このようにリクライニング位は、メリットとデメリットがあります。大切なのは、メリットとデメリットのバランスを考えた上で、実際に患者さんに用いるのか、また用いる場合はどれくらいの角度に設定するかを症例ごとにしっかりと評価した上で検討することです。

【この連載の他記事】
* 第20回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「どう対応する? ムセがひどくて食事が進まない患者さん」
* 第4回 誤嚥と誤嚥性肺炎の予防―不顕性誤嚥を例に
* 第13回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「窒息を回避するには?」

この記事を読んでいる人におすすめ

カテゴリの新着記事

食事介助に関する看護計画|嚥下機能が低下してきている認知症患者さん

認知症による嚥下機能低下から食事介助が必要な患者さんに関する看護計画  認知症は血管性、アルツハイマー型、レヴィー小体型などの原因によって病状の進行度合いは異なるものの、脳の活動低下に伴うさまざまな症状が発症し社会生活に支障が生じていきます。今回は認知症の進行に伴い嚥下機能

2023/11/29

アクセスランキング

1位

SIRS(全身性炎症反応症候群)とは?基準は?

*この記事は2016年7月4日に更新しました。 SIRS(全身性炎症反応症候群)について解説します。 SIRS(全身性炎症反応症候群)とは? SIRS(全身性炎症反応...

250839
2位

心電図でみる心室期外収縮(PVC・VPC)の波形・特徴と

心室期外収縮(PVC・VPC)の心電図の特徴と主な症状・治療などについて解説します。 この記事では、解説の際PVCで統一いたします。 【関連記事】 * 心電図で使う略語・用語...

250751
3位

【血液ガス】血液ガス分析とは?基準値や読み方について

血液ガス分析とは?血液ガスの主な基準値 血液ガス分析とは、血中に溶けている気体(酸素や二酸化炭素など)の量を調べる検査です。主に、PaO2、SaO2、PaCO2、HCO3-、pH, ...

249974
4位

人工呼吸器の看護|設定・モード・アラーム対応まとめ

みんなが苦手な人工呼吸器 多くの人が苦手という人工呼吸器。苦手といっても、仕組みがよくわからない人もいれば、換気モードがわからないという人などさまざまではないでしょうか。ここでは、人工呼...

250017
5位

サチュレーション(SpO2)とは? 基準値・意味は?低下

*2019年3月11日改訂 *2017年7月18日改訂 *2021年8月9日改訂 発熱、喘息、肺炎……etc.多くの患者さんが装着しているパルスオキシメータ。 その測定値である...

249818
6位

アプガースコア(アプガー指数)

【関連記事】 ●新生児仮死における低酸素虚血性脳症の重症度分類|Sarnat分類 ●小児救急におけるトリアージと適切なアセスメント ●第1回 無痛分娩の麻酔の適応、方法、禁忌、外来での説...

248441
7位

陰部洗浄の目的・手順・観察項目〜根拠がわかる看護技術

*2020年4月16日改訂 関連記事 * おむつ交換のたびに陰部洗浄は必要? * 膀胱留置カテーテル 陰部洗浄・挿入・固定のコツ * 在宅療養におけるオムツ使用と陰部洗浄について知...

249675
8位

心電図の基礎知識、基準値(正常値)・異常値、主な異常波形

*2016年9月1日改訂 *2016年12月19日改訂 *2020年4月24日改訂 *2023年7月11日改訂 心電図の基礎知識 心電図とは  心臓には、自ら電気信...

250061
9位

吸引(口腔・鼻腔)の看護|気管吸引の目的、手順・方法、コ

*2022年12月8日改訂 *2022年6月7日改訂 *2020年3月23日改訂 *2017年8月15日改訂 *2016年11月18日改訂 ▼関連記事 気管切開とは? 気管切開...

250001
10位

導尿の看護|手順やカテーテルの種類など

導尿とは?  何らかの原因で自力での排尿が困難な場合、尿道口からカテーテルを挿入し、人工的に尿を排出させることを導尿といいます。 【関連記事】 ●持続的導尿とは? 知っておきたいポイント...

308684