【連載】500人のギモン&お悩み徹底解決

よそよそしい敬語の悩み

解説 雨宮惠美

保健・医療・福祉サービス研究会 接遇トレーナー 教育コンサルタント


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看護師のコミュニケーションとマナー


「医療サービス」という言葉が当たり前になっている現在、患者さんへの接し方で悩むケースが増えています。
今回は、読者から寄せられた接遇・マナーに関する質問の中から、敬語の使い方に関する質問にお答えします。


Q 患者さんに対して敬語を使うと、どうしてもよそよそしい感じになってしまう気がします。親しみを込めた言葉遣いはどこまで許されるのでしょうか。

A「親しみ」と「なれなれしさ」を区別したうえで敬語の基本を身に付け、相手や場面に合わせた対応をしましょう。

患者さんには敬意を伴った親しみをもって接する

 「敬語」は相手を敬う気持ちを表す言葉です。人と接する仕事に就く人は当然使うべきものといってよいでしょう。医療・看護もまた人に接する仕事です。しかも、接する相手である患者さんとより強い信頼関係を築かなければならないだけに、そこには「親しみ」も求められます。特に、看護師は患者さんとの距離が最も近い立場であることから、丁寧さだけでなく、きちんと心を通わせる必要があります。このように、医療現場での接遇には、一般的なサービス業よりも一段階上の接し方が求められることになるのです。

 しかし、「親しみ」は決して「なれなれしさ」ではありません。家族や友人に対するようにくだけた言葉や態度で接することが親しみだと勘違いしてはい ませんか。どんなに長いつきあいになったとしても、患者さんは家族ではないのです。職業上のかかわりには、許されない態度や言葉遣いがあることは念頭に置いておきましょう。


 患者さんに対する親しみの表現には、相手に対する敬意を伴っていることが大前提となります。そして、その敬意を示す表現方法の代表格が敬語なのです。しかし、敬語にもいろいろな種類があるので、個別性に配慮しながら、上手に使い分けることで、親しみを込めることは十分可能となります。

敬語の使い分け方を知っておく

 敬語には、大きく分けて、丁寧語、尊敬語、謙譲語の3種類があります。

 このうち丁寧語は、いわゆる丁寧に話す「~です」「~ます」で終わる話し方や、美化語といって、主に言葉に「お」や「ご」をつけて上品な言い回しにする表現を指します。

 一方、尊敬語は相手を敬う気持ちを示す表現で、相手の動作について話すときに使うものです。患者さんは、人生の大先輩であることが多いため、最も多く使用される言葉だと思います。

 反対に謙譲語は、自分を低めることによって、相対的に相手を高める言い方で、自分の動作について話すときに使います。両者 の使い方を間違えると失礼になるので、十分に注意しましょう。

 また尊敬語にはランクがあります。「特別な形」「一般的な形」「親しみをこめた形」の3種類があり、「~れる・られる」と語尾を変化させる親しみをこめた形が、敬語ではいちばん身近に使われるものです。例えば、初めて会った患者さんには特別な敬語または一般的な敬語を使い、長い間かかわりのある人には、親愛の情を表すために「~れる・られる」の形を使うなど、相手と場合によって適切に使い分けることができます。

 また、院内ではやむを得ず他人の面前で患者さんと話をしなければならないこともあります。そうした場面では、周りの目や耳も十分に意識して、誰が聞いても気持ちのよい応対をすることが必要です。患者さんは、自分を助けてくれる医療従事者を心から尊敬しています。医療者側も、患者さんに対してきちんと敬意を示すことで、お互いに尊敬し合った豊かな人間関係が築けるでしょう。

正しい形を学ぶことは、その心を学ぶこと

 敬語を使用するといっても例外はあります。急を要する場面も多い医療現場では、常に敬語を主体にした応対が無理なケースが少なくありません。その際には、平常時と緊急時(非平常時)の切り替えをしたり、臨機応変な態度で臨むケースがあってもよいと考えます。

 緊急搬送時や急変時などはもとより、認知症の患者さんについても非平常時であると考えてよいでしょう。認知症患者さんの世界に入っていくことを優先し、呼称なども、相手が反応しやすいものを慎重に選ぶようにします。しかし、「おじいちゃん」「おばあちゃん」などの「ちゃん呼び」は、よほどの例外を除いて避けるようにします。

 看護師の皆さんのなかには「看護は心が大切だから、形にはこだわらない」と考える人もいるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか。どんなに相手を思う心があっても、それを相手に伝える方法がなければ、思いは伝わらないのです。

 「形から入る」つまり、形から整えていくことによって、次第に心も伴ってくるようになるものです。「正しい形を学ぶ」ことは、その心を学ぶこと、つまりホスピタリティの精神を自分のなかに植えつけていくプロセスでもあるのです。特に新人の場合は、早い時期に敬語と言葉遣いの勉強をすることをお勧めします。笑顔を忘れず、きれいな言葉遣いで仕事をしていると、自然と余裕が出てきて、立ち居振る舞いや動作も丁寧になってくるはずです。

 言葉には、その言葉自体が本来、望んでいる口調があります。「その言葉が最も美しく響く口調」をものにするには、素直な気持ちになることがいちばんだということを忘れないでほしいと思います。

笑顔のトレーニングも忘れずに

 人と接するときに大切なのは、「私はあなたに心を開いていますよ」というサインを示すこと。その最も端的な表現法が「笑顔」です。職員の明るい笑顔で迎えられる患者さんは、それだけで安心した気持ちになるものです。

 アメリカの言語学者アルバート・メーラビアンは、人間の交わすメッセージの93%は、視覚情報や聴覚情報など非言語的なものだと指摘しており、中でも顔の表情など視覚によるものは全体の55%を占めるといっています。笑顔がいかに大切なものか、この数字からもわかるでしょう。

 笑顔に自信のない人は、毎朝、鏡を見て、自分に笑顔で「おはよう」と言ってみることから始めましょう。毎日続けていけば、自然によい笑顔になってきます。職場では、目があったら職員、患者さんを問わず、自分から率先して笑顔であいさつすることを心がけることが大切です。

 次回は、「患者様と呼ぶのに違和感がある」というお悩みに解答します。

(『ナース専科マガジン』2010年5月号より転載)

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