【連載】看護・医療の今を知ろう!

第2回 食物アレルギーの新たな治療「経口免疫療法」

取材 海老澤元宏

日本小児科学会専門医、日本アレルギー学会専門医・指導医。

食物アレルギーの治療の原則は、「正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去」1)にあります。しかし最近、原因食物を摂取して積極的に耐性化を誘導する新たなアプローチ法が注目されています。今回は、食物アレルギーの子どもたちの食物除去の解除を目的とする経口免疫(減感作)療法を取り上げます。


目次


原因食物の摂取によって食物アレルギーを抑える

食物アレルギーの子どもをもつ保護者の多くは、原因と診断された食物を除去する生活が長い人では数年続きます。

しかし最近、食物アレルギーの治療法として、原因食物を除去するだけではなく、むしろきめ細かな観察のもとで原因食物を摂取することによって食物アレルギーの寛解を誘導する、あるいは重篤なアナフィラキシー症状を抑えるという新しい治療の開発が始められています。

国立病院機構相模原病院で臨床研究を行う小児科医の海老澤元宏は、この治療法を進める動機についてこう説明します。

「乳幼児期に食物アレルギーを発症し、小学校に入学する時点でも依然として原因食物の摂取によってアナフィラキシー症状が誘発される子どもがいま す。その子どもは食べることに対して恐怖心をもちます。もちろん外食はできませんし、給食の時間は一人だけ別の部屋で食べさせられたり、弁当を持参したり、給食の時間だけ母親が付き添わなければならないケースもあります。

社会生活の不自由さから、子どもはさまざまな心の傷を負うことになるわけです。そう した状況の子どもたちを治療するため、『経口免疫(減感作)療法』を2年ほど前から始めました」

深読みkeyword:経口免疫(減感作)療法

花粉症のアレルゲンを注射で体内に少しずつ注入するというように、原因物質に接触させることによって耐性を獲得させようというアレルギー治療の一つ が免疫(減感作)療法。経口免疫(減感作)療法は原因食物を摂取し、耐性化を誘導するのが狙い。

海外でも有効性の報告がなされているが、標準化された適応 や方法はなく整備が待たれる。現状としては、相模原病院のような独自の取り組みと症例数の蓄積が行われている段階である。

治療は入院治療と外来治療の組み合わせで

免疫(減感作)療法とは、アレルゲンに少しずつ慣らしていくことによって、耐性の獲得や症状の改善を目指す治療法をいいます。海老澤さんらが取り組むのは、牛乳や卵といった原因食物をあえて計画的に摂取するやり方です。

治療は、牛乳と卵の食物アレルギーをもち、アナフィラキシー症状を誘発することが確認されている学童期の子どもを対象に、まずは春休みや夏休みなどに集中的に入院免疫(減感作)療法《急速法》が行われます。

「これまで約60人に実施していて、この夏休みに治療を予定している人数を含めれば100人以上になります。治療効果としては、ほぼ全員について、微量の摂取ではアナフィラキシー症状が誘発されない状態にすることが可能になると考えています。中には完全に治癒した子どももいますが、自然治癒と比べて優れたデータなのかを検証する必要があります」

まずは入院治療で安全性を確立

入院期間は同院の場合6~9日間で、使用する食品には加熱卵白乾燥粉末や牛乳乾燥粉末などを用い、量が多く摂れるようになって安全性を確認した後、加熱鶏卵や牛乳そのものへと切り替えていきます。

「鶏卵に関しては、卵黄のほうがアレルゲン性が低く、卵白(加熱)に反応していることが多くなります。また、生に比べると加熱したものはアレルゲン性が低下します。通常、卵については加熱した全卵1個が摂れることを目標にしています。牛乳に関しては、鶏卵よりも治療中に症状が出やすいのですが、細心の注意を払い、万全の体制をもって摂取量を増やしていきます」

摂取回数は現在さまざまな方法を試し、安全な方法を確立することを目指しています。

免疫(減感作)療法の方法

免疫(減感作)療法の方法

(柳田紀之・今井孝成・海老澤元宏:食物アレルギーに対する経口減感作療法の標準化、日本小児アレルギー学会誌、24(1)、p.41、2010.より引用一部改変)

さらに外来治療の二段構えで対応

急速法に加えて、その後、外来免疫(減感作)療法《緩徐法》を行う二段構えが、同院での治療の特徴です。外来治療中は1カ月ごとに受診します。増量方法は入院治療と同じですが、摂取回数は1日1回(朝)となり、それを1~2年間継続します。

「急速法は入院で行うので、もともとアナフィラキシーを起こすような人の初期の導入には安全性を確保できます。その後は在宅、外来での緩徐法で行っていきます。アナフィラキシータイプの患者さんにはこの2つの組み合わせの対応がよいと考えています」

安全かつ効果的に耐性獲得を目指す

入院治療中から、その後の外来治療時の安全性についてイメージすることは重要です。 「例えば、牛乳を飲んだあと運動したり自転車に乗ったりしてお腹を揺すると、その結果、アレルギー症状が出ることが結構あります。

ですから、外来での治療に移行する前には、牛乳を飲んですぐに運動しても症状が出ない量を確認し、自宅でも安全性が確保されることを確かめています」

入院治療から外来治療へと移行する時期、あるいは乾燥粉末から食物そのものへと切り替わっていく時期が最も注意を要する時期にあたります。この時期を乗り越えることによって子どもたちの食物アレルギーによるアナフィラキシーは改善の方向に向かうのです。

食物負荷試験でより科学的なアプローチに

経口免疫(減感作)療法は、もともと少量摂取でアナフィラキシーを起こしていた人に、逆に原因食物を少しずつ摂取してもらう逆説的なアプローチです。同院では手探りでスタートしましたが、科学的なアプローチという姿勢を貫いています。それを担保するのが食物負荷試験です。

「食物負荷試験は診断のために行う試験の一つです。同時に、経口免疫(減感作)療法を実施するにあたって、食物に反応する量、つまりアナフィラキシー症状を誘発する量をきちんと確認する試験でもあります。中には、食物負荷試験を行わずに食べて治したと報告している人がいますが、自然治癒と比べてどれだけよいのか科学的に検証する必要があります」

ちなみに、食物負荷試験が保険診療で点数化されたのは入院が2006年から、外来が08年からですが、科学的な診療を推進するために海老澤さんらは その意義を院内外へ発信。それが功を奏し、現在は全国の小児科の専門医の研修施設513施設の約半数において一般診療として実施されています。

深読みkeyword:食物負荷試験

血液検査(血中抗原特異的IgE抗体検査、CAP、RASTなど)や皮膚テストによって食物アレルギーがわかっても、実際にどの食物が摂取でき、どの食物は摂取できないか判断するのは不可能である。その判断を行うのが食物負荷試験である。そして、食物負荷試験は食物アレルギーの診断のためであるとともに、治療効果の判定、除去食の解除の際にも実施される。

例えば、パンなどの加工食品の中に牛乳は25cc程度までは含まれている。したがって、25cc までならアナフィラキシー症状が出ないことがわかれば、加工食品は食べられることになる。こうした判断が食物負荷試験を通してなされる。

経口免疫(減感作)療法をシステムとして提供する

経口免疫(減感作)療法や食物負荷試験でも、チーム医療の意義を忘れてはいけません。食物アレルギーの診断や治療ですから、専門医だけでなく、看護師、管理栄養士などの協力体制が不可欠です。

「食物アレルギーという診断がついた時点で栄養指導は必須です。経口免疫(減感作)療法が始まると管理栄養士がメニューを考えますが、摂取量の間違いがないかどうか、管理栄養士、病棟看護師がチェックします。当然、病院が抱える管理栄養士の数ではここまで対応できませんので、我々は食物アレルギー専門の管理栄養士を雇って、対応しています」

看護師による情報提供が安全な治療体制の鍵に

「また当院の看護師は、アナフィラキシー症状などの重篤な症状の把握や対処法について専門知識をもち、合併するアトピー性皮膚炎のスキンケアをお母さん方に指導しています。経口免疫(減感作)療法の前提となる食物負荷試験にもいつも立ち会い、症状の把握などをしてくれています」

安全性が確保されているとはいっても、通院治療中に運動やウイルス感染などをきっかけに予想外の症状が出るケースがないわけではありません。したがって、緊急時の電話対応や救急時の処置方法についても保護者へ事前説明がなされます。子どもや保護者が安心して治療に取り組めるための対策です。

経口免疫(減感作)療法がより安全に、そして効率よく治療効果を高めるには、こうした「システム」として提供されることが非常に重要なのだと海老澤さんは強調します。

臨床型分類

臨床型分類

*慢性の下痢などの消化器症状、低タンパク血症を合併する例もある。
*すべての乳児アトピー性皮膚炎に食物が関与しているわけではない。

●即時型症状
原因食物摂取後、通常2時間以内に出現するアレルギー反応による症状を示すことが多い。
●食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FEIAn/FDEIA)
特定の食事と運動の組み合わせで初めて症状が出現するタイプで、原因食物を摂取後2時間以内に激しい運動をした場合に、じんま疹から始まり呼吸困難、ショックに至る。
●口腔アレルギー症候群(OAS)
果物や野菜による口腔内の症状(接触じんま疹)。症状出現時間は5分以内のことが多い。

(「食物アレルギーの診療の手引き2008」検討委員会(研究代表者 海老澤元宏):厚生労働科学研究班による食物アレルギーの診療の手引き2008、p.2.より引用一部改変)

(「ナース専科」マガジン2010年9月号より転載)


引用・参考文献

1)「食物アレルギーの診療の手引き2008」検討委員会(研究代表者 海老澤元宏):厚生労働科学研究班による食物アレルギーの診療の手引き2008.
2)柳田紀之・今井孝成・海老澤元宏:食物アレルギーに対する経口減感作療法の標準化、日本小児アレルギー学会誌、24(1)、p.39-46、2010.
3)海老澤元宏・林典子:食物アレルギーの最近の考え方、食生活、104(03)、p.14-19、2010.

次回からは、医療メディエーションについてお伝えします。

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