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【連載】大切な人を亡くす子どもへのケア

第10回 客観的情報を伝える医師の役割(後編)

  • 公開日: 2011/9/20

在宅ホスピスの医師として、患者さんを看取る子どもを含めた家族にかかわってきた川越厚さんが「客観的情報を医師が伝える」ほうがよいと考えるに至った、もう一つのエピソードを紹介します。


子どもに客観的情報を伝えた方がよいと思うわけ

親の病気について、一般の人が子どもに説明するのには限界があります。客観的情報は、医師から説明し、子どもの理解や反応を親が受け止めていくのがよいと考えています。

私がこの考えに至る前に、子どもへの伝え方を考えさせられるきっかけとなった事例があります。今から15年ほど前、まだ患者さん本人にも、がんを告知しないことがごく普通だった時代の話です。

事例[2]──反抗期のさなかに母親の末期がんが発見される

30歳代後半の女性が、第二子の女児を出産後間もなく、肺がんが見つかり、すでに脳に転移していました。神経症状も出ており、残された予後もわずかで、患者さんも夫も大変動揺していましたが、その事実を小学校4年生の長女Bちゃんにどう伝えるかが問題となりました。

実は、Bちゃんはそれまで一人っ子だったのが、母親の妊娠を機に親の愛情が赤ちゃんに向いてしまうことを恐れ、反抗的な態度をとっていました。それは、母親の病気が判明してからも変わらなかったのですが、父親は、Bちゃんにも母親の病気については隠さないと決めていました。それで、どのような形で伝えたらいいかを相談に来たのでした。

もしうまくいかなければ、残される父親との信頼関係が結べず、取り返しのつかない事態になる可能性もありました。基本的には事実を伝えるという方向になりましたが、私も経験がなかったので、どのように伝えるべきかを考えていました。

そのような中で母親が自ら、自分が間もなく死んでしまうことを娘の部屋で告げました。話を聞いた直後は動揺して号泣していたBちゃんも、それ以後、母親の手伝いや妹の世話をするようになったのです。父親もその様子にホッと胸をなでおろしました。

「そんなに早く死ぬなんて思ってもいなかった!」

ところが、直腸にも転移していた母親は、トイレで大量の下血をし、そのまま亡くなってしまったのです。子どもに事実を告げてから1カ月後のことです。

葬儀も済んで落ち着いたころに、私はグリーフケア訪問でお宅に伺って、父親に様子を聞いてみました。Bちゃんとは良好な関係を築いてはいるが、時折、「お母さんががんだったことは教えてもらったけど、あんなに早く、あっけなく死んでしまうとは聞いていなかった」と、責められることがあると聞かされたのです。しかし父親自身は、「母親が間もなく亡くなることはきちんと伝えてあった」と話していました。

つまり、子どもには、その言葉が耳に入っていなかったのです。「間もなく」という言葉が漠然としていて、理解できなかったのでしょう。ホスピス関連の本には、「余命に関してははっきりと言わない」としているものもあります。これは、余命の予測は不確かだからでしょう。しかし、医師であれば、自分の患者さんの状態を診断すれば、はっきりと分かるはずなのです。

余命がいくばくもないと伝えても、家族の耳に入らないことはよくあります。そのため、例えば、1年先の計画を立てたりすることもあります。しかし、それでは、患者さんの命がある今のうちにやるべきことをやらずに、後で後悔することになってしまいます。

このケースを通じて、私は、余命ははっきりと伝えるべきだと考えるようになりました。

例えば、臨死期の数日間は、子どもも学校を休ませ、側にいられることが大切でしょう。その余命を告げることができるのは、医師だけなのです。今やるべきことから家族の関心が逸れてしまい、後で問題になりそうだと感じるときには、あとどれくらいの日数が残されているかを適切に伝え、きちんとした計画を立てられるようにすることも、医師の役割です。

親が亡くなった後、子どもにどうかかわるか

親を失った悲しみは時間を置いてからあふれでることも少なくありません。多くのホスピスでは、亡くなってから1カ月後に訪問したり、命日に遺族に声をかけたり、遺族会などを行っています。その際に、子どもと話をするようにして、「どんなお母さんだった?」「お父さんは優しかったんだろうね」などと、ポジティブな声かけをしています。そして子どもが、残された家族とどのような関係にあるのか、生活はよりよい状態にあるのかを把握していきます。

ただし、患者さんのご家族を含めたケアとして、在宅ホスピスのようなかかわりを一般病院に求めるのは、現状では無理だと言わざるを得ません。病院は患者さんの家ではないため、家族本来の姿が見えてこないからです。

とはいえ、家族のことで患者さんに問題が生じているとなれば、かかわっていくことになるでしょう。それでも、医師が中心となるのは、さまざまな制約により現実的ではありません。このような中では、看護スタッフがいかにかかわれるかがポイントになります。病棟では看護師が24時間患者さんを見て、患者さんの生活を支援します。だからこそ、問題をキャッチし、支えていくことができるのです。

家族からの要望を看護師がキャッチしたら、病気の説明については医師が得意ですから、子どもが理解できるように伝えるよう、医師に依頼していただきたいです。一般病棟の看護師にも、子どもへのかかわりに興味をもっている人が増えているようなので、今後は今以上に取り組まれるのではないかと期待しています。

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