【連載】大切な人を亡くす子どもへのケア

第13回 子どもの心に寄り添う心理療法士の役割(前編)

監修 廣岡佳代

訪問看護パリアン訪問看護師 聖路加看護大学看護実践開発研究センター客員研究員

執筆 白石恵子

九州がんセンターサイコオンコロジー科 心理療法士(臨床心理士)

心理療法士は、子どもを含めたさまざまな心の反応に関する知識と心理的アプローチの技術を身に付けた心の専門家です。

病気の親をもつ子どもに対しては、まずは主治医や看護師からの依頼を受けて、子どもの理解の仕方やかかわり方をスタッフにアドバイスするほか、状況に応じてカンファレンスで今後のかかわりについてスタッフと話し合ったり、患者さんの子どもと直接会うといったかかわりを行います。


心理療法士が大切にしているもの

[1]子どもたちとの信頼関係を作ること

子どもたちはそれぞれの年齢に応じた言葉を使ってコミュニケーションをとっていますが、大人に比べると言葉での表現ははるかに未熟で、気持ちを表現することは非常に困難です。

そのため子どもに会ったときは、言葉以外のメッセージを観察し、その子から自然に出る表現から今の心理状態を知るようにしています。子どもたちそれぞれを、より正確に理解することで、次第に心を開いてくれるのです。

[2]そっと側にいる姿勢

医療スタッフは何かをしてあげたいという気持ちが強く、何もせずに子どもたちと一緒にいるだけでは不安になりがちです。しかし、子どもたちにとっては、「誰かが側にいてくれる」という感覚があるだけで心強いものですし、その静かな時間は子どもが考えていることを引き出すために大切なものです。

[3]子どもの物語を読むこと

大切な人が亡くなるときも、子どもたちはそれぞれに生活を送っています。子どもにとって学校での行事や部活・友達との約束などは、大切な人のことと同じくらい重要なものもあります。

また思春期には素直になれず、心にもないことを言ってしまうこともあります。一人ひとりがどのような生活をしていて、その中で大切な人の死というものがどのような位置づけとなっているのかを知ることで、サポートをしやすくなります。

[4]死別体験を否定的なものとしないかかわり

子どもたちの中では、病気や死は「忌むべきもの」で口に出してはいけないと捉えられていることが多く、周囲の大人もしばしば同じ感覚でいます。もちろん、大切な人が病気になって亡くなることは、計り知れないくらい悲しい出来事です。

しかし死別には肯定的な要素も含まれています。彼らの大切な人は、子どもたちのことを気にかけ、病気に負けないように一生懸命に闘い、いろいろなメッセージを残していきます。それを感じることは子どもたちにとって貴重な体験であるともいえます。

医療スタッフ自身が、そのような感覚をもってケアにあたることは、死別が引き起こす混乱による苦痛を緩和し、死別体験の肯定的な面に子どもの目を向けさせ、成長を促すと考えられます。

事例1──母への作品作りで思いを表現した3姉妹

患者:40歳代女性で、肺がんのAさん
家族構成:夫(40歳代)、長女(小6)、次女(小4)、三女(小1)
かかわるきっかけ:病棟看護師より、「夫が子どもたちのことで悩んでいるので話を聞いてほしい」と依頼あり。Aさんの病状は、すでに残りの時間は日単位と予測され、会話もままならない状態であった。主治医とプライマリーナースから今までの経過とかかわりについて話を聞き、その後、夫と面談を行う。

夫より、「もうすぐ亡くなる妻を目の前にし、そのことだけでも余裕がなく、子どもたちのことをどうしてあげたらいいのか分からない。寂しい思いをさせていると思うけど、つい忙しくて怒ってばかり。病気のことや死期が迫っていることも伝えないといけないが、どうしてよいのか分からない。亡くなった後のことも心配、男親一人で子育てできるのか。自分が病気になったらどうなるのかなど考えてしまう」と、ひとしきり今悩んでいることや子どもたちの状況などを聞いた。

元来しっかりしている夫であるため、今の危機的状況において一時的に心理療法士が子どもたちのサポートを引き受け、夫の負担を軽くすることが必要と思われた。子どもたちには、夫より「学校の保健室の先生みたいに、病院にも子どもとお話をする先生がいて、会いたいと言っているよ」と伝えてもらい、面会に来たときに会うこととなった。

経過――創作活動を通じて子どもの心へアプローチする

「お母さんが病気になるとお父さんも子どもたちも心が苦しくなるし、病気のことって難しいから分からないこともたくさんあるよね。私は病院の中で子どもたちと一緒にお話ししたり遊んだりしながら、大切な人が病気で苦しいときは子どもたちと一緒にいろいろ考える人だよ。お母さんのことで心配なことでも、学校の話でも、おうちで大変なことでも、どんなことでもよいので気軽に話してね」とあいさつをした。

子どもたちに何が好きか尋ねると、「絵を描くのが好き」「折り紙が好き」などと話をしてくれた。さっそく画用紙やクレヨン・色鉛筆・折り紙を準備し、「何でも好きなものを描いたり作ったりしていいよ。何かしたいことがあったら手伝うから言ってね」と声をかけ見守っていると、それぞれ思い思いの絵を描いた。

三女は何を描こうかと少し悩んでいたので、「何かお母さんが喜ぶものでも描いてみる?」と伝えると、「夜一人で病院に泊まるのが怖いだろうから、夜寂しくないように動物を描く」と言った。筆者は黙って一時見守っておき、概ね完成する頃にそれぞれの絵に対する思いを聞いた。長女や次女は自分が得意な絵、楽しそうに遊ぶ女の子を描いて、「上手に描けたからお母さんに見せる」と話した。3人とも病室に絵を飾って帰った。

子どもたちとは、面会に来たら筆者が必ず会いに行くという約束をした。3人の様子はカルテに記載し、病室にいるときは絵を媒介に声をかけるとコミュニケーションが取りやすいことをスタッフに伝えた。

「今日は何をしようかな」と笑顔で近づいてくる。「病室の雰囲気が暗い」という話になり、季節の花であるコスモスの切り絵を提案した。三姉妹で協力し大きいコスモスを2つ、小さいコスモスを3つ作って画用紙に貼った。まるで家族5人を表しているように思える作品となった。

家でお父さんがよく怒る話やお手伝いをしている話、本当は家でお母さんと話がしたいから「病院に会いに来るのは嫌」なこと、前の外泊のときの話、学校の行事などについて話した。

(『ナース専科マガジン』2010年12月号より転載)

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