【連載】フィジカルアセスメント症状別編

【尿失禁の看護】 尿失禁の種類・原因とアセスメント

解説 山内 豊明

名古屋大学大学院医学系研究科 教授 医学博士/看護学博士/医師/看護師/保健師/米国・登録看護師、診療看護師

尿失禁は生死にかかわる重篤な疾患ではないためか見過ごされがちです。
しかし人間としての尊厳やQOLに大きな影響をもたらす症状であり、とても重要な看護のテーマです。

患者さんにこのような症状が見られた場合、適切にアセスメントをし、QOLの向上を目指しましょう。そのためにもメカニズムやどうアセスメントをしていけばよいのかを知っておくことが大切です。


【目次】


まずは、これを知っておこう!

人間の尊厳やQOLに影響を及ぼす尿失禁

排尿にかかわる異常には排尿困難、頻尿、排尿時痛などの症状があります(ナース専科マガジン2009年7月号参照)。そしてもう一つ、忘れてはいけないのが「尿失禁」。自分の意思では排尿コントロールができず、尿が漏れ出てしまう症状です。

尿失禁は決して珍しいことではありませんし、治療が可能で治癒するケースも多いのですが、見過ごされがちな一面があります。患者さんにしてみれば羞恥心を伴うためになかなか訴えられないし、患者さんの訴えがなければ医療者が気付くことが困難であり、生命危機に直結する重篤な疾患ではないことが多いため見過ごされがちです。

尿失禁であることに気づいたら適切な対応を

しかし、排尿は大切な生命の営みの一つであり、人間としての尊厳やQOLに大きな影響をもたらします。
また、尿失禁を適切に処置しないと、膀胱や腎臓など尿路系感染症を招きやすくなりますし、寝たきりの患者さんやオムツ使用の患者さんは、漏れ出た尿が皮膚を刺激して皮膚発疹や褥瘡を起こしやすくなります。身体の動きが不自由な患者さんや高齢の患者さんの場合には、急いでトイレに行こうとして転倒する恐れもあります。
受け持ちの患者さんの疾患が何であれ、尿失禁の気配を察知したら、自尊心や羞恥心に十二分に配慮しながら介入し、解決や改善につなげましょう。

排尿のメカニズムと尿失禁

尿失禁は排尿のメカニズムのどこかに問題が生じている

腎臓に流れ込んだ血液を濾過して生成された尿は、尿管を通って膀胱に一時的にためられ、一定量に達すると尿意を感じて排泄されます。
1日あたり生成される尿量は1~2Lといわれており、膀胱は約200~500ccの尿を貯留することができます。ただし、どのくらいまで貯留できるのかという、膀胱の許容量には個人差があります。
膀胱がいっぱいになると膀胱壁が刺激され、その情報が脊髄から排尿中枢へと伝わります。通常は、すぐにトイレに行って排尿しようとか、もう少し我慢しようとか、排尿を自分の意思で決めることができます。
膀胱の一番下の内尿道口には尿道括約筋という筋肉があり、普段はこの筋肉が縮んで尿道を閉鎖しているため、尿が膀胱から漏れないようになっています。
トイレに行って排尿準備が整い「排尿しよう」と意思決定すると、大脳が膀胱反射中枢に指令を出し、この括約筋が緩み、尿が膀胱から尿道に流れ出てきます。同時に、膀胱自身の筋肉も収縮して尿を押し出すばかりか、腹壁と骨盤の筋肉も収縮して膀胱への圧力が高まるので、たまっていた尿が勢いよく排出できるのです。
自分の意思とは関係なしに尿が漏れ出てしまう尿失禁は、膀胱の一時貯留から排出までのメカニズムのどこかに問題が生じていると考えられます。

尿失禁の5つの種類

尿失禁はその症状から大きく5つに分けられます(下表)。

種類 特徴 主な原因疾患
腹圧性尿失禁 咳やクシャミのような、腹部に力を入れた時に起こる 経産婦、加齢、骨盤底筋の筋力低下など
溢流性尿失禁 尿道が何らかの原因により狭くなったりすることで、排尿が障害され膀胱に尿が貯留し、起こる。残尿感がある、排尿困難なことが多い 前立腺肥大症、前立腺がん、尿道閉鎖、子宮や直腸の術後など
反射性尿失禁 尿意を感じることなく、不随意に膀胱が収縮・尿道が弛緩し、排尿される 脊髄損傷、脊髄腫瘍など
切迫性尿失禁 尿意を感じるとトイレまで我慢ができないことで起こる。頻尿、非常に強い尿意を感じたり、水の音や冷たいものに触っても尿意が誘発されることがある 脳卒中、脳腫瘍、脊髄損傷、多発性硬化症、パーキンソン病、膀胱炎など
機能性尿失禁 運動機能の低下や失行、認知症などによって起こる 認知症、運動機能の障害、脳の障害など

腹圧性尿失禁

咳やクシャミなどちょっとしたことで腹部に圧力がかかる動作で生じる尿失禁です。尿失禁に悩む女性で最も多いのがこの症状です。女性の場合、男性に比べて尿道が短い上に、膀胱や尿道、子宮など骨盤内の臓器を支える筋肉である「骨盤底筋群」や靱帯が弱く、しかも子宮や膣は、妊娠したり子宮筋腫などの疾患で子宮が大きくなると、膀胱や尿道を圧迫するような位置関係になるので尿が漏れやすくなります。

溢流性尿失禁

尿道が何らかの原因で狭くなってしまうことがあります。すると、尿の流れが妨げられ、腹圧をかけても排尿できずに、膀胱に尿が大量に貯留されてしまい、尿が溢れ出てしまうタイプの尿失禁で、いつも少しずつ尿が漏れ出ています。排尿に時間がかかるのに、わずかな量しか排尿できなくて残尿感があり、何度もトイレに行く頻尿を伴うのが特徴です。

反射性尿失禁

脊髄損傷や脊髄腫瘍があると、膀胱に尿がたまっているという情報が排尿中枢に届きません。そのため尿意を感じたり、自分の意思で排尿コントロールすることができません。このような状態にあると、膀胱に貯留している尿の多い少ないに関係なく、膀胱が反射的に不随意に収縮して、尿が出てしまいます。

切迫性尿失禁

尿意を感じるとトイレまで我慢ができず、間に合わずに尿が漏れてしまうタイプです。脳卒中、脳腫瘍、脊髄損傷、多発性硬化症、パーキンソン病など、神経回路がダメージを受けて膀胱が脳の指示どおり動かなくなるために生じます。また、膀胱炎、膀胱がん、膀胱結石、尿道結石など泌尿器に炎症が起き、知覚神経が過敏になって生じる場合や、これといった原因がないのに冷たいものに触ったり、水の音を聞くだけで尿意が起こってしまう“過活動膀胱”と呼ばれるタイプもあります。

機能性尿失禁

排尿機能は正常にもかかわらず、運動機能の低下や認知症などが原因で起こるタイプの尿失禁です。尿意を感じても運動機能の低下により間に合わないケースや認知症があると、排尿にかかわる判断ができません。そのため、尿意を感じたままに排尿してしまう場合や、失行によりトイレまで行ってもどうしたらよいのかわからないなど、うまく脱衣ができずに、結果的に排尿してしまうことがあります。

尿失禁の症状分類から原因を精査しよう!

それぞれに原因が異なるので、患者さんの尿失禁が分類のどれに該当するのかを精査していくことは、原因に応じた治療やケアをするための有益な手がかりとなります。
患者さんからの主観的な情報のほかに、検査や観察などの客観的な情報も加味すると、より正確に尿失禁の原因をアセスメントできます。
尿失禁を引き起こす原因としては、急性膀胱炎、慢性膀胱炎、神経因性膀胱、前立腺肥大症、脳血管障害、アルツハイマー病、脳血管性認知症、脊髄損傷などのさまざまな疾患や、女性特有の出産や加齢などによる骨盤の筋力の低下が考えられます。既往歴からこうした原因が隠れていないか、確認しましょう。

尿失禁のアセスメントと看護のポイント

問診で症状を分類して原因を精査する

患者さんに問診を行い、尿失禁の症状を分類して原因を精査しましょう。ただし、ほかの患者さんの耳に届かない場所で聞き取るなど、細やかな配慮が望まれます。

発症の時期やきっかけを聞く

「いつごろから尿が漏れるようになりましたか?」

■こんな質問で絞り込もう

「尿漏れが始まったころに婦人科系や直腸の手術を受けたりしましたか?」
「前立腺肥大症といわれたことはありませんか?」
「高血圧や腎臓病、心臓病などの薬を服用していますか?」
「出産後から気になり始めましたか(女性の場合)?」
「徐々に気になるようになりましたか?」

■アセスメントのヒント

女性の場合は出産が契機となって尿失禁が生じることが少なくありません。

子宮や直腸の手術や前立腺肥大症が原因となる場合もあります。

服薬中の場合は、利尿作用のある薬かどうかも確認しましょう。

失禁が徐々に気になるようになった場合には、加齢による症状とも考えられます。

尿失禁の様子を聞く

「トイレに行きたいという感覚(尿意)はありますか?」

■こんな質問で絞り込もう

「トイレに行く途中や、トイレで下着を下ろしているうちに間に合わないことが多いですか?」
「クシャミや咳が出たり、重いものを持ち上げるなど、おなかに力を入れた拍子に思わず漏れ出てしまう感じですか?」
「排尿後もなんとなくすっきりしなくておしっこが残っている(出切っていない)感じがしますか?」
「おなかに力を入れないとなかなかおしっこが出ませんか?」
「尿意は我慢できますか?」

■アセスメントのヒント

尿意がなくて漏れ出てしまう場合は、反射性尿失禁が考えられます。

尿意があるのに間に合わない場合には、溢流性、切迫性、機能性の尿失禁と考えられます。

残尿感や排泄困難が伴うならば、溢流性尿失禁の可能性が高いでしょう。

運動機能や認知症などの徴候があれば、機能性尿失禁と考えられます。

脳卒中、脳腫瘍、脊髄損傷、多発性硬化症、パーキンソン病などの既往歴があれば、切迫性尿失禁の可能性があります。

腹圧がかかったときに失禁するのであれば、腹圧性尿失禁と考えられます。

尿意が我慢できない場合は、切迫性尿失禁の可能性があります。

原因をアセスメントする

尿失禁を引き起こすような基礎疾患がないかをアセスメントしていきます。

排尿行動を観察する

排尿回数や排尿状況、排尿時の行動を観察します。頻尿か尿閉状態か、また脱衣など排尿時に行う行動がスムーズにができているかを確認することが手がかりとなります。

認知症がないかを確認する

尿意を感じてトイレに行ったものの、どうすればよいのかわからない様子であれば、認知症や失行の疑いがあります。スケールなどを使って確認します。

可動域や運動機能に問題がないかを確認する

尿意を感じた際に間に合うようにトイレまで行けるか、排泄行動をスムーズに行えるのかなどを観察します。

原因疾患がないかを確認する

膀胱炎や脳卒中など尿失禁の原因となる疾患の疑いがないかを検査データなどから確認します。

アセスメントを看護につなごう

患者さんの生活を支援するという看護の視点に立てば、原因をアセスメントするだけではなく、尿失禁がQOLにどの程度、影響しているかについても知り、対処する必要があります。

このほかに、尿失禁のパターンを記録することも適切な看護につなげる大事な手がかりとなります。排尿の回数と時刻、排尿をコントロールできたかどうか、失禁したときに漏れる尿の量など、少なくても3日間以上の記録をとると、患者さんの日常生活支援に役立ちます。

尿失禁のタイプ、原因、パターン。こうしたさまざまな情報を総合的にアセスメントして、患者さんへの最適な看護につなげましょう。

尿失禁のタイプ別 看護のポイント

タイプ別の看護のポイントは次の通りです。

溢流性:前立腺肥大症が原因であれば手術による治療が必要となりますが、骨盤腔内手術後の尿失禁であれば自己導尿を行います。

反射性:尿失禁を起こす原因疾患をつきとめ、治療を行う一方、排尿訓練なども有効です。

腹圧性:骨盤底筋トレーニングでかなり改善できるので、患者さん自身が継続的に実践できるように指導します。

切迫性:膀胱炎など泌尿器科系の感染症が原因の場合は治療を行います。

機能性:患者さんの身体状況を考慮して、トイレの位置を変えたり、脱ぎ着しやすい衣服にする、どの段階で援助を行えばよいのかなど、日常生活支援の視点で尿失禁予防につなげましょう。

QOL改善に向けての細やかなケアを行う

原因疾患の治療や骨盤底筋トレーニングなど、それぞれの原因に応じた症状の解決や改善を図る一方で、もう一つ大切なのが適切な尿パッドの使用など、尿失禁そのものに対する具体的なケアです。

尿失禁対策として水分摂取を控えている患者さんも少なくありません。脱水症や脳卒中予防のためにも適宜水分を補給します。そして、失禁量に見合った尿パッドの使用、あるいは排尿パターンに即したトイレ誘導などを行います。尿が漏れる不安や失禁による不快感などの軽減に努めましょう。

また、陰部の清潔ケアにも配慮し、尿路系の感染症予防や皮膚疾患を予防するようにします。

まとめ

当該疾患ばかりに目を向けがちですが、日常生活の支援の中にも、重要な看護の課題が潜んでいることがあります。尿失禁もその一例です。

シーツ交換や着替えの介助の際に、患者さんが尿失禁を起こしていることに気付くことがあるのではないでしょうか?

看護師が気付く頃にはすでに患者さん自身が自覚し、悩んでいることも少なくありません。患者さんの自尊心や羞恥心に配慮しながら、介入するようにしましょう。

(ナース専科「マガジン」2010年10月号より転載)

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