【連載】女性のがんのケア

第16回 排尿障害に対する対処法

解説 佐々木尚美

がん・感染症センター 都立駒込病院 看護コンサルテーション室 皮膚・排泄ケア認定看護師

婦人科がんの術後に排尿障害が起こることがあります。この場合の排尿障害は、頻尿や尿漏れよりも尿意がない、尿を出しづらいなどの排尿困難が多く見られ、残尿により他の疾患を発症する危険性もあります。どのように対応すればよいのかを解説します。


Q 子宮頸がん等の術後に起こる排尿障害に対する対処法を教えてください。

A「尿意がない、出しにくい、残尿がある」のが特徴。残尿が続くと、尿路感染や水腎症など腎機能の悪化につながります。残尿のない排尿習慣の確立が大切です。

骨盤神経叢へのダメージが排尿障害の原因

婦人科がん術後の排尿障害は、子宮頸がんなどに行われる広汎子宮全摘出術後に起こります。この術式は、がんが浸潤しやすい靭帯(基靭帯、直腸腟靭帯・膀胱子宮靭帯)まで広範囲に切除するため、膀胱や直腸の動きを調節している骨盤神経叢にダメージが加わり、排尿障害の原因となります。

最近では、自律神経温存術が行われますが、神経は髪の毛のように細く、神経損傷リスクが高い非常に難しい手術です。

人間の排尿は、蓄尿時には膀胱が弛緩して尿道が収縮し、排尿時には膀胱が収縮して尿道が弛緩します。排尿は、膀胱と尿道が相反した動きで可能になりますが、これを調整しているのが、自律神経の骨盤神経(副交感神経)と下腹神経(交換神経)です。骨盤神経は畜尿時、下腹神経は排尿時に働き、自分の意思ではなく自動的に調整します。

ほかに、自分の意思で調整できる体性神経の陰部神経を加え、これら3つの神経が微妙にコントロールして、人間は尿を貯めたり、出したりできます。正常な場合、膀胱容量は350~400mLくらいで、150~200mL貯まると尿意を感じます。

残尿が原因でさまざまな症状を引き起こす可能性もある

排尿障害というと、頻尿や尿漏れのイメージですが、広汎子宮全摘出術のように骨盤内の神経が傷つくと「尿意がない、感じにくい」「尿を出しづらい」という排尿困難を生じます。排尿後は、完全に尿を排出できないので残尿となります。残尿が貯まると、少し腹圧が加わると失禁したり、残尿が原因で尿があふれだしてきたりします。さらに、古い尿に細菌が繁殖して、膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染が起こったり、水腎症から腎機能が悪化するなど、生命の危険があります。このように、残尿から生じる失禁(溢流性尿失禁)は、尿が我慢できないことで起こる一般の尿失禁とは違い注意が必要です。

当院では、広汎子宮全摘出術後は膀胱内カテーテルを留置し、7日目にカテーテルを抜き排尿(自尿)を確認します。カテーテル抜去後は、尿意がなくても3時間ごとに排尿を促し、手で下腹部を軽く押さえた腹圧性排尿を指導します。排尿後は必ず残尿測定をして量を記録します。カテーテル抜去直後は、トイレに行っても尿が出ない患者さんもいます。患者さんには、排尿時間、排尿量、尿意の有無、飲水量を記録するよう指導して意識づけます。徐々に残尿が減り、1回残尿量50mL以下が続けば、排尿機能が改善したと考え残尿測定は中止になります。

しかし、なかなか残尿が減らないこともあり、その場合は医師が薬物療法を検討します。排尿障害に使われる薬剤には、膀胱の収縮力を高めるコリンエステラーゼ阻害薬(ウブレチド(R)など)や、尿道を弛緩させるα1遮断薬(エブランチル(R)など)があります。退院後も続けますが、医師が排尿は確立できたと判断すれば、外来で中止することもあります。

術後数週間経ても、1回残尿量が100mL以上続いた場合は、改善に時間を要すると考え自己導尿を指導します。

排尿習慣の確率がポイント ただし状況に応じて柔軟に対応

排尿障害は、術前から医師が説明しますが、多くの患者さんが「一生治らないのでしょうか」と不安に感じます。しかし、当院の患者さんをみると、個人差はありますが多くは1年以内に改善しています。患者さんには「時間はかかりますが、お薬もありますし機能は少しずつ改善します」と伝えるようにしています。

退院指導のポイントは排尿習慣の確立です。尿意を感じにくいため3~4時間ごとに排尿を促し、尿を膀胱内に溜めないよう指導します。少しずつ尿意は戻ってきますが、術前に感じていたようなはっきりとした感覚ではないので、患者さんがイメージしやすいよう「お腹が張ってきたような感じ」「何となくトイレに行きたい感じ」などの表現で説明します。また時々尿が漏れるので、尿取りパットの使用を勧めますが、患者さんによっては失禁したくないと水分摂取を控えることがあります。しかし、体内の水分が不足しては尿になりませんので、1日1500ccを目安に水分摂取を指導します。

広汎子宮全摘出術後は、下肢のリンパ浮腫予防、抗がん剤治療による体調の変化、放射線治療後に排尿困難が強くなるなど、患者さんを取り巻く状況は変化します。患者さんは、排尿だけに目を向けていられませんし、「抗がん剤の日はトイレを気にしたくないので、カテーテルを入れて(留置して)ほしい」と、状況によって排尿パターンの変更を希望することもあります。看護師は、排尿の確立だけではなく、患者さんの状況に応じて柔軟な姿勢で支援することも必要だと考えています。

自己導尿を要する患者さんには

術後数週間たっても、1回の残尿が100mL以上の場合は、自己導尿が必要となります。その場合、入院中からパンフレットを利用し指導します。体位によって、カテーテルが入りづらい、尿道口がみつけにくいなど、うまくいかない人もいます。看護師は「できない理由は?」「どうやったらできるだろう」とアセスメントし、患者さんに応じた方法を一緒に考えながら指導することが大切です。ただし、認知機能や身体機能の低下から本人ができない、介助者がいないなどの場合があります。どうしても自己導尿が難しい場合は、膀胱留置カテーテルの対象となることもあります。

※次回は、ボディイメージの変容に関する問題について解説します。

(『ナース専科マガジン』2011年1月号より転載)

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