【連載】フィジカルアセスメント症状別編

【腰・背部の痛み】原因とアセスメント・看護のポイント

解説 山内 豊明

名古屋大学大学院医学系研究科 教授 医学博士/看護学博士/医師/看護師/保健師/米国・登録看護師、診療看護師

患者さんからの訴えでよく見られるものの一つが、この腰・背部の痛みです。腰・背部はひと続きの広い範囲なので、痛みがどこにあるのか確定することが大切です。また、腰・背部痛は、生命危機と直結する重篤な疾患に起因していることがあるので注意しましょう。


【目次】


まずは、これを考えよう!

骨、筋肉、内臓そして皮膚という4つの視点から考える

腰・背部はひと続きの広い範囲です。「背中が痛い」と訴えながら肩を指し示したり、腰を指し示したりする例も少なくありません。そこで、最初に、ここでは「腰・背部」を「首の下から腰まで」と限定しましょう。次に、この広いエリアを考えるときの分け方として、骨、筋肉、内臓そして皮膚という4つの視点に立ってみてください。この4つが痛みに関係してきます。
まず、骨から見ていきましょう。このエリアを縦に貫いているのが7個の頸椎と、12個の胸椎、5個の腰椎がひとつながりになっている背骨です。そして、それぞれの胸椎には左右1対の肋骨が連結しているので、12対の肋骨が、肺や心臓などの内臓を保護しているわけです。
これらの骨が、外傷による骨折や加齢に伴う変形、あるいは何らかの原因で炎症を起こすと、腰・背部に痛みが生じることがあります。
肋骨で保護されている肺や心臓の近くには、肝臓や膵臓、腎臓、胆のう、胃、食道など、さまざまな内臓が集まっています。これらの臓器が障害されると、そのサインとして腰・背部の痛みが現れることがあります。
例えば、背中側の下のほうには腎臓などの内臓があるので腎盂腎炎の場合に、胃の裏側には膵臓があるので膵炎などの場合に、背中に痛みが伝わることがあります。
また、肩、背中や腰などの痛みであるコリの情報と内臓の痛みの情報は、どちらも同じルートを通って脳へと伝えられます。そのため、脳が筋肉の痛みと内臓の痛みを取り違えてしまうという現象が起こります。心筋梗塞の発作で肩が痛いという放散痛も、その一例です。
腰・背部の筋肉には、首や肩からつながっている僧房筋や広背筋、腰椎を支えている大腰筋などがあります。不自然な姿勢を続けたり、筋肉を酷使するようなことがあったり、ストレスでも痛みが生じます。
さらに、身体の表面すなわち皮膚の疾患でも、痛みを生じます。

患者さんの訴えから原因リストを想定する

腰・背部の痛みを症状とする原因疾患は、大きく4つに分けられます(下表)。

腰・背部痛を引き起こす主な疾患

脊椎・整形外科系疾患に起因

骨や筋肉などに問題が起こっているため、痛みが生じるケースです。椎間板ヘルニア、ぎっくり腰、圧迫骨折、疲労骨折、坐骨神経痛などが考えられます。骨粗鬆症が既往にあると圧迫骨折を起こす確率が高くなります。特に高齢者の場合、くしゃみをしたり中腰になっただけでも発症する可能性があることを覚えておきましょう。

内臓疾患に起因

心筋梗塞、狭心症、腎盂腎炎、急性膵炎、その他が考えられます。腎・尿路結石では、結石が尿道を移動する際に感じる激しい痛みである「腎疝痛発作」が特徴的です。

皮膚疾患に起因

帯状疱疹では発疹が出る前の初期症状として腰・背部の神経に沿って痛みが現れることがあります。また、寝たきりの患者さんの場合には、褥瘡にも注意を払いましょう。

血管疾患に起因

大動脈瘤は、ほとんど自覚症状がないとはいえ、背中の痛みや胸の痛みを訴える場合があります。発生部位として最も多いのが腹部(腹部大動脈瘤)ですが、動脈があればどこにでもできる可能性があり、胸部大動脈瘤の場合は心臓の近くから背中までの部位に痛みを生じることがあります。また、大動脈解離では、上背部に痛みを感じることがあります。

緊急性の判断と原因を精査しよう

腰・背部の痛みは、一見、命に別状がなさそうですが、実は油断大敵です。前述のように心筋梗塞や大動脈瘤などの生命危機に直結する重大疾患が潜んでいる恐れがあるからです。
これまでに何度も繰り返し述べてきましたが、急な激しい症状が起こった場合は、緊急性の高い事態、あるいは重篤な疾患である可能性が大きいと考えられます。
また、命に別状はなくても激しい痛みを伴うので緊急に対応しなければならない疾患もあります。
緊急性の判断と対応の次の段階として、問診で原因を絞り込みながら、看護につながるアセスメントを行いましょう。

腰背部の痛みのアセスメントと看護のポイント

問診で原因を推定しながら精査する

バイタルサインの測定を行い、患者さんの状態を観察しながら、問診で聞き取りましょう。

発症ときっかけを聞く

「いつから痛くなりましたか?」

■こんな質問で絞り込もう

「徐々に始まりましたか? それとも急に始まりましたか?」
「動いた拍子に始まりましたか? ずっと同じ姿勢で寝ていましたか?」
「結石やぎっくり腰、椎間板ヘルニアと診断されたことはありませんか?」

■アセスメントのヒント

「急に激しく痛み出した場合には重篤かつ緊急性の高い可能性があります。」
「徐々に痛みを感じるようになった場合は経過観察となることが少なくありませんが、腹部大動脈瘤は徐々に痛みを感じるケースもあります。」
「動いた拍子に痛みが始まった場合は、脊椎・整形外科系疾患の可能性があります。」
「結石、ぎっくり腰、椎間板ヘルニアは再発する可能性があるので、既往歴を確認します。」

問診で得た情報を手掛かりにアセスメントを進める

「どんなふうに痛みますか?」

■こんな質問で絞り込もう

「身体の奥から響くような痛みですか? それとも皮膚が痛みますか?」
「刺すような鋭い痛みですか? 鈍い痛みですか?」
「痛みはずっと続いていますか? それとも治まることがありますか?」

■アセスメントのヒント

身体の奥からの痛みの場合には、内臓疾患の疑いがあります。
ピリピリと皮膚の表面が痛む場合には帯状疱疹や褥瘡の可能性があります。視診で、患部を確認しましょう。
背部の鈍痛の場合には腎盂腎炎が、刺すような痛みの場合には腎・尿路結石が考えられます。

痛む部位を聴く

「どのあたりが痛みますか?」

■こんな質問で絞り込もう

「ずっと同じところが痛いですか?」
「痛む場所が変わっていますか?」

■アセスメントのヒント

痛みを感じる場所が腰のあたりなら、椎間板ヘルニアやぎっくり腰の可能性があります。
背中でも肩に近い上部であれば、心筋梗塞の放散痛とも考えられます。
時間とともに痛む部位が移動しているようなら、腎・尿路結石で結石が移動していると考えられます。
痛みが移動せず、身体の動きに伴って痛みが増強する場合には整形外科領域の疾患である疑いが濃厚です。

随伴症状について聞く

「何かほかに気になるところはありませんか?」

■こんな質問で絞り込もう

「熱はありませんか?」
「だるくはないですか?」
「足にしびれはありませんか?」
「トイレが近くなったり、おしっこが出るときに痛かったりしますか?」

■アセスメントのヒント

痛みに加えて熱がある場合には、腎盂腎炎などのようにどこかに炎症が起こっていると考えられます。
下肢にしびれを感じるようなら、ぎっくり腰、椎間板ヘルニア、坐骨神経痛、圧迫骨折などの可能性があります。
熱があり、頻尿や排尿時痛が伴えば、腎盂腎炎が疑われます。

問診で得た情報を手掛かりにアセスメントを進める

まずは、緊急性を判断できるような手がかりから集めましょう。

バイタルサインの確認

血圧の低下や脈拍の異常、呼吸状態などショック症状の徴候が見られないかどうかを確認します。

意識レベルの確認

緊急性の高い疾患の場合、最初は意識が清明であっても、急変する可能性があるので、継続的に意識レベルも確認します。

痛みの部位を見る

問診の際には、必ず問いかけながら、看護師が患部に手を置いて、痛む部位を確認しましょう。また、皮膚疾患の可能性もあるので、患者さんが痛いという部位の皮膚状態を確認します。発赤が見られたら、皮膚疾患や打撲の可能性があります。

チアノーゼ、冷汗の確認

ショック症状の徴候の一つなので、必ず確認しましょう。

アセスメントを看護につなごう

腰・背部の痛みの原因をアセスメントするのは、原因追及だけが目的ではなく、患者さんの身体からできるだけ早く痛む原因を取り除いたり、苦痛を軽減したりする目的も含まれます。
原因追及のみにこだわらず、アセスメントを看護につなげられるようにしましょう。ただし、緊急性の判断は速やかに行うようにします。

ショック症状が見られたら緊急対応を

特に身体所見でショック症状が見られたら、緊急対応が必要です。
急性膵炎などの内臓疾患の場合、診断が確定するまでは、痛みが原因特定の手がかりとなることが多いため、むやみに鎮痛剤を使用できません。医師に連絡すると同時に患者さんに対しては、診断が確定次第、治療や症状緩和ができることを伝え、不安を軽減します。こうした心理的配慮が身体苦痛をわずかながらも緩和させることでしょう。

患者さんの痛みが和らぐようなケアを行う

生命危機に直結しない場合でも、痛み自体が患者さんにとっては耐え難い苦痛なので、症状の緩和は重要な看護です。
この身体所見で褥瘡の可能性があると判断した場合は、栄養状態の確認、体位変換、使用している寝具の適否など、多方面から迅速に対応しましょう。
鎮痛剤を用いる場合には、投与から効果が現れるまでの時間を把握し、鎮痛剤の効果をアセスメントしましょう。痛みのスケールを用いて、投薬前を10とした場合、薬の効果が現れ始めるにしたがい痛みがどのように変わっていくか、患者さんに確認するのもよいでしょう。患者さん自身、鎮痛剤の効果を実感できると、心理的な不安が軽減します。
また、ぎっくり腰や椎間板ヘルニアなど整形外科領域の痛みの場合、急性期には炎症を抑えるために冷罨法を用いてもよいでしょう。炎症が治まれば、温冷どちらでも患者さんが心地よいと感じる方法を用いましょう。
圧迫骨折の場合には、安静が第一なのですが、無理な姿勢でいると「こり」や「はり」などの症状につながりやすいので、枕やクッションなどで安静臥床ができるように体位を保持するようにしましょう。

まとめ

腰・背部の痛みは、患部が広いだけではなく、原因疾患も多岐にわたるため、一筋縄ではいきません。
今回のテーマでは、皆さんが学生時代に学んだ解剖生理学が大いに役立ったのではないでしょうか? 学んだ知識、臨床体験で体得した知識や技術、これらを上手に駆使してアセスメントに役立てましょう。

(ナース専科「マガジン」2010年5月号より転載)

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