【連載】看護に役立つ生理学

第1回 浮腫とアルブミン

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

さまざまな病態によって現れ、褥瘡の発生や悪化の原因ともなりうる浮腫。日常の看護でも、最も頻繁に出合う症候のひとつではないでしょうか。

一口に「浮腫」といっても、その原因は多岐にわたり、臨床的にも急を要するものから経過を見てよいものまで、その意義はさまざまです。

仮に「浮腫をきたす疾患」といった長大なリストを見せられても、なかなか覚えきれるものではありません。
しかし、一見バラバラにみえる浮腫の原因にも、それらを貫く共通のメカニズムがあります。浮腫を深く理解して頭を整理することは、生理学の基礎知識を総復習することにもなります。

目の前の浮腫の患者さんの体の中で、どんなことが起こっているのか、可能なかぎり正確にイメージできるような看護師を目指しましょう。


【目次】


▼浮腫についてまとめて読むならコチラ
【浮腫とは?】浮腫のメカニズムと治療・ケア


なぜ浮腫は問題となるのか?

 浮腫とは、いわゆる「むくみ」が見られる状態です。多くは下肢に見られますが、上肢や眼瞼など、さまざまな部位に生じます。その仕組みについては後ほど詳しく解説しますが、臨床的に浮腫はなぜ問題となるのでしょうか?

 もちろん、患者さん自身が「体に水が溜まっている」と自覚して不快に感じる、という点は軽視すべきではありません。しかしそれ以上に、浮腫の背景には重要臓器(肝・腎・心など)の障害が隠れていて、速やかな治療を要することがしばしばあるため、日々の看護においても充分な観察が必要なのです。

 また体位変換などの看護上の工夫によって浮腫を改善できることも少なくありません。浮腫は褥瘡の重要なリスクファクターですから、浮腫を改善することは褥瘡予防にもつながります。

なぜ浮腫が褥瘡のリスクファクターとなるのか?

 浮腫によって褥瘡が生じるのは、一言でいえば「皮膚細胞の機能が浮腫によって低下し、脆弱になるから」です。

 なぜそうなるのか、なかなか簡単明瞭には片付かない問題ですが、褥瘡の一般的なメカニズム同様、血液から細胞への酸素供給が低下し、虚血をもたらすことが一因です。

 また後述のように浮腫の背景には低アルブミン血症があることが多く、それ自体が褥瘡のリスクファクターです。その詳細も不明ですが、アルブミンは皮膚細胞などにも存在しているため、低アルブミン時にはこれが動員されて細胞機能が低下しているという可能性もあります。

 いずれにせよ、これらの説明を理解しようと思っても、そもそも浮腫とはどういう状態なのか、どのような仕組みで浮腫が生じるのか、といったことが念頭になければイメージしづらいでしょう。

リスクファクター説明イラスト

 正常な皮膚では、外的刺激から守るバリア機能が働きます。上の図が下の図のように、浮腫により皮膚の細胞機能が低下し脆弱になると、バリア機能も低下してしまいます。

浮腫をメカニズムごとに分類してみよう

 それでは浮腫のメカニズムに踏み込んで行きますが、まず浮腫を理解するのに必要なポイントを以下に列挙します。

 1. 浮腫とは組織間液の増加である。
 2. 組織間液は細胞外液の一種である。
 3. 組織間液は膠質浸透圧の力を借りて静脈に汲み上げられる。

 これらの知識に自信のない人は、第2回末梢循環・浸透圧について知って看護に役立てようを読んで知識を補強してください。

 上のポイントをもとに素朴に考えれば、浮腫を見たときは、

(1)細胞外液そのものが増加しているか
(2)組織間液から静脈への「汲み上げ」が弱まっているのではないか

 と推測することができます。

 さらに(2)の場合、

(2)(a)その先の静脈の流れが悪くなっている(静脈圧が上がっている)か
(2)(b)静脈からの吸引力、つまり膠質浸透圧が低下している

 といった原因が考えられます。

 このような枠組みのもとで、浮腫をきたす具体的な病態を整理していきます。

ありがたくない体液調節機構

 (1)と(2)を明確に分けて説明しましたが、話はそう単純ではありません。

 私たちの体には、循環血漿量が減少したとき、尿量を減らして体液を貯留しようとする機構が備わっています。これは脱水や出血など、本当に細胞外液が減少したときには助かるのですが、上の(2)のような状況では困ったことになります。

 すなわち、この場合、血管外に逃げた細胞外液を血管内に引き戻さなければ、根本的な解決にはなりません。しかし、体は血管内だけを見て「細胞外液が減少した」と錯覚し、水を溜め込もうとします。その結果、細胞外液はますます増加し、一部は組織間液となって、浮腫は増悪することになります。

 実際、浮腫を認める多くのケースにおいて、実は組織間液だけでなく細胞外液全体が増加しているのです。

 つまり、背後にある細胞外液増加という病態の「氷山の一角」を、私達は浮腫という形で目にするのだ、と理解すべきです。したがって、原因は何であれ、一般的な細胞外液増加に伴う症状(体重増加、呼吸苦など)にも注意を払いながらケアを行う必要があります。

浮腫を来す3つの主な病態

細胞外液そのものの増加

 これは、もちろん大量の食塩を摂取したりすれば起こるかもしれませんが、腎が正常な調節機能を発揮できていれば、そうそう浮腫にまで至ることはありません。

 逆にいえば、腎障害が原因で浮腫をきたすことがあります。尿量が減少して体液が貯留し、組織間液も増加しているということですが、実際にはもう少し複雑な事情が絡んでいます。

静脈圧の上昇

 最も有名なものは心不全、特に右心不全です。全身の静脈は最終的に右心房に注ぎますが、ここでポンプ失調をきたしていれば静脈系は鬱滞し、そのしわ寄せが組織間液に及びます。

肝硬変では門脈が鬱滞し、浮腫と同様の現象が腹腔内で起こって腹水をきたします(腹腔液は細胞外液の一種です)。また、組織間液は静脈だけでなくリンパ管からも回収されますから、手術などでリンパ管が閉塞した場合にも浮腫をきたします(乳がんのリンパ節郭清による上肢浮腫が有名です)。

 以上のような明らかな病態がなくとも、例えば長期臥床・運動不足などで静脈の流れが悪ければ、下肢や圧迫を受けた部位を中心に、 しばしば浮腫が生じます。

膠質浸透圧の低下

 膠質浸透圧の大部分をアルブミンが担っているため、血漿中のアルブミンが低下する病態を考えればよいはずです。

 アルブミンは食餌に含まれるタンパク質を材料にして、主として肝臓で合成されます。これが低下するとすれば、「材料が減った」か、「工場が弱った」か、「どこかで捨てられている」か、といったところでしょう。すなわち、食餌摂取の低下や、肝機能障害、あるいはネフローゼ症候群(腎からタンパクが漏れる)といった病態が挙げられます。

 肝硬変の場合は、アルブミンの低下に加えて(2)(a)も起こり、ダブルパンチで腹水が生じます。

 次回は、組織間液がどんな仕組みで調節されているのかを解説します。

(『ナース専科マガジン』2010年6月号から転載)

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