【連載】看護に役立つ生理学

第27回 体温調節の熱産生・熱放散のメカニズム

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

ヒトの深部体温は37℃程度で、多少の変動はあるにせよ、極めて狭い範囲に保たれています。さまざまな状況の変化に乱されることなく体温が一定しているのは、生体が常に熱のバランスを取ってくれているからです。

今回は熱産生・熱放散のメカニズムを振り返ることにより、調節機構が合理的に作用していることを納得するのが目標です。


生体は熱放散と熱産生のバランスを取っている

私たちの体の中では常に熱が生み出されています。その量は状況によって大幅に変わりますが、通常は1 日に2000~3000kcal 程度であり、例えば2400kcal であれば、60kg の水の温度を40 ℃上げる熱量に相当します(60×40=2400)。

生体は水だけでできているわけではありませんが、仮にこれだけの熱量が体重60kg の人に蓄積すれば、同様の体温上昇をきたす計算になります。実際にそんなことが起こらないのは、体表から絶えず熱が放散されているためです。

体温が一定に保たれるためには、この熱放散と熱産生とのバランスが取れている必要がありますが、生体の活動状況や環境によって、体温は変化をきたす危険に常に晒されています。そこで私たちの体は、体温が上昇している(あるいは上昇しようとしている)ことを察知すれば熱産生を抑えて熱放散を促し、下降を察知すれば逆方向に調節する機構を備えています。

これを実現するためには、体温に関する現状を把握するための情報収集(インプット)の仕組みと、それをもとに実際に熱バランスを変化させるアウトプットの仕組みが必要です。そして両者を統合する「体温調節中枢」と呼ばれる部位が、間脳の視床下部に存在します。

以下では、通常の熱放散・熱産生がどのようにして起こっているかを見た上で、それを効果的に調節するにはどうすれば良いか、考えてみることにします。

自然現象としての熱放散

まず熱放散について考えましょう。「熱の移動」という現象そのものは、生物がかかわらずとも自然に起こることですから、生体は熱放散を行う/やめるという選択をすることはできず、できるだけ促す/抑える、という形で調節にかかわります。そこで、まずは物理現象として熱が伝わるメカニズムについて理解を深めましょう。

伝導と対流

熱の伝わる様式のうちでもっとも想像しやすいのは、「温度の異なる物体が接触しているとき、高温側から低温側に向かって自然に熱が移動する現象」、すなわち伝導でしょう。

これは体がベッドや椅子に接していれば起こりますが、空気との間にも生じる現象です。伝導によって暖められた空気は、体表の周りにまとわりついて層をなしますが、相対的に温度の高い部分が上昇してゆき、冷たい空気が順次体表にやってきます。

これを対流と呼び、空気が温度上昇によって膨張したことで、相対的に「軽くなる」ことが原因で起こる現象です。この対流により体表付近の空気は常に入れ替わるため、伝導が持続することになります。風が吹くことで空気の入れ替えが活発になれば、さらに熱放散が促進されます。

熱放散の経路(伝導・対流・輻射・蒸発)イメージイラスト

図1 熱放散の経路(伝導・対流・輻射・蒸発)

輻射

伝導は想像しやすい現象ですが、実は生体の熱放散の中心的な役割を果たしているとは言えません。より重要な経路は輻射(ふくしゃ)というメカニズムであり、これも日常的に経験する現象ではあるのですが、理解しにくいという人が多いようです。

図2のような「サーモグラフィ」を見たことがあるでしょう。これは測定対象である物体と測定器とが接触しているわけではないにもかかわらず、なぜか物体表面の温度が測定できています。考えてみれば不思議な話ですが、これは「すべての物体は電磁波を放出している」という物理学的な事実を利用しています。

電磁波にはさまざまな波長があり、X 線や目に見える光もその一種ですが、私たちの体が主として放出する電磁波は赤外線であり、サーモグラフィはこれを検知しています。この電磁波に乗って、たとえ途中が真空であっても、離れたところにある物体に熱が伝わる現象が「輻射」です。気温は同じなのに日陰よりも日なたのほうが暖かく感じる、といった経験は、太陽からの輻射熱が原因です。

私たちが自分の体から電磁波が出ていることを実感することは難しいですが、例えば冷たい壁に囲まれた部屋にいる人は、室温が低くなくても、輻射によって壁に熱が奪われてひんやりと感じる、といったことを経験します。実は、常温の環境における熱放散の半分以上が、この輻射によるもので占められているのです。

蒸発

伝導と輻射はその原理が大きく異なりますが、いずれも高温側から低温側に熱が移動するという共通点を持っています。すなわち、これらの原理によって熱放散が効果的に行われるためには、体の周囲の空気や付近の物体の温度が十分に低い必要があります。

通常、私たちはそのような環境にいますが、周囲が高温になるほど熱放散が不十分となり、伝導や輻射だけに頼っていては熱が体にこもってしまう危険があります。そこで活躍するのが、水分の蒸発による熱放散です。

発汗や不感蒸泄などにより体表に現れた水は、蒸発の際に気化熱を体から奪ってゆきます。これは非常によく知られた熱放散の様式ですが、普段から主役を担っているのではなく、運動時や暑熱時など、ほかの様式では熱放散が追いつかない状況になるほど貢献度が高まる、ということを押さえておきましょう。

サーモグラフィの一例写真

図2 サーモグラフィの一例。体表面の温度分布を色の違いによって表示している

熱放散の調節

以上に述べた熱放散のメカニズムをもとに、効果的に熱放散を調節する方法を導き出すことができます。誰もがすぐに思いつくのは発汗による調節でしょうが、これは蒸発による熱放散を促す作用であると言えます。

では伝導と輻射を促すにはどうすればよいでしょうか。これらの経路では、環境に比べて体表面の温度が高いほど熱放散量が増すため、熱放散を促したいときには体表面の温度を上げ、抑えたいときには逆に下げてやればよいのです。

そもそも体表面の温度は、深部温が血流によってどれだけ体表まで伝えられているかによって決定され、深部よりも数℃低いのが通常です。これを上下させるためには、体表の血管を拡張または収縮させ、深部から体表への熱の運搬を増減してやるという方法が有効です。

この調節に関連して最も日常的に経験されるのは、「寒さで鳥肌が立つ」、すなわち寒冷環境下で皮膚血管が収縮して体表温が下がり、結果として熱放散が抑制されるという反応でしょう。逆に、暑熱下では末梢の血管が拡張して体表温を上げ(つまり深部温に近づけ)、環境温とのギャップを広げて熱放散を促します。

より簡単に考えれば、深部の熱を外に放散したいなら体表まで引っ張り出してやればよく、放散したくなければ内にとどめておけばよい、ということです。

皮膚血管の収縮・拡張による熱放散の調節イメージイラスト

図3 皮膚血管の収縮・拡張による熱放散の調節

※次回は「体温調節にかかわる熱産生」について解説します

(『ナース専科マガジン』2013年2月号より転載)

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