【連載】看護に役立つ生理学

第20回 甲状腺と甲状腺ホルモン(T3とT4の違いとは?)

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

甲状腺ホルモンの臨床検査においては、「遊離T3・遊離T4」といった項目をよく耳にします。「遊離」(フリー、free、f、F などと書くこともあります)とは、「T」とは何なのか、またT3とT4の違いは何なのか。こういった疑問に答えるには、基礎的な甲状腺ホルモンの生理学にもう少し踏み込む必要があります。


【目次】


「ヨウ素」という必須元素

甲状腺ホルモンの第一の特徴は、その材料として「ヨウ素」(記号I、ヨードとも)という元素を必要とすることです。生体元素の多くは、体のあらゆる場所に存在して多彩な物質の材料となっていますが、このヨウ素は甲状腺にほぼ「専属」の元素と言っても過言ではなく、体内のヨウ素の大部分は甲状腺に集中しています。

生物の進化の観点からは、海水(ヨウ素を多く含んでいます)を濾過しているうちに、特定の臓器にヨウ素が蓄積しやすくなり、これが甲状腺の原型となって、やがてヨウ素をホルモンの材料として有効利用するようになった、などと言われています。ことの真偽はともかく、甲状腺ホルモンはヨウ素を「ほどよく装備する」ことで初めて生理活性を発揮します。

海産物の豊富な日本におけるヨウ素の平均摂取量は0.5~3mgと言われており、推奨摂取量(0.15mg)を大きく上回っています。このため、大陸の奥地ならいざ知らず、日本国内においてヨウ素の摂取不足が問題となることはほとんどありませんが、過剰摂取については注意を要します。

ヨウ素は大量に摂取すると機能低下を招くこともある

ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料とは言うものの、大量摂取するとむしろ機能低下を招きます。そのメカニズムは複雑で、ひとつにはTSHによる甲状腺への刺激がヨウ素過剰によって抑制されるという要因があります。

このため、特に甲状腺機能低下症の患者さんがヨウ素を過剰に摂取すれば、病態を助長してしまうおそれがあります。バセドウ病のような亢進症においても、過剰摂取が勧められるものではありませんが、適切な管理下でヨウ素製剤を投与することにより、亢進した甲状腺機能の安定化を図る方法が採られることもあります。

また、最近では放射性物質のヨウ素(I-131など)をよく耳にするようになりました。放射性ヨウ素は、化学的な性質に関しては通常のヨウ素と何の違いもありませんから、摂取してしまうとやはり甲状腺に集積し、被曝による甲状腺破壊や発がんが懸念されることになります。

被曝を防ぐための「ヨウ素製剤の予防内服」も有名になりました。これは、あらかじめ大量の(非放射性の)ヨウ素を内服してもらい、甲状腺という場を占有させておくことで、放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれる量を少しでも減らそう、というものです。もちろん、適切にデザインされた放射性ヨウ素を用いれば、甲状腺関連の検査や治療に応用できるということも覚えておきましょう。

Point 1

ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料。ほとんどが甲状腺に集まります。

甲状腺ホルモンの構造~T3 とT4 の違い

甲状腺ホルモンの基本骨格は、図3のような構造をしており、甲状腺(thyroid)にちなんで「サイロニン(thyronine)核」と呼ばれます。サイロニン核にはヨウ素原子の結合しうる箇所が存在し、図のように結合したものをそれぞれ「T3」・「T4」と呼びます。

つまり「T」はサイロニンの頭文字、3 や4は結合しているヨウ素の個数です。T3 とT4 は甲状腺ホルモンの主要な物質であり、両者の違いはたった1個のヨウ素原子の有無に過ぎません。

甲状腺ホルモンの構造~T3 とT4 の違いの図

ところが、この違いが全身臓器の受容体への結合のしやすさに大きな差を生み、結果としてT3 はT4よりもはるかに強い活性を持っています。しかし、甲状腺が分泌する時点では大部分がT4 であり、血中のT3 は肝・腎などにおいてT4 がヨウ素原子をひとつ失ってできたものがほとんどです。

その意味でT4はT3 の前駆体としての側面が強く、実働するホルモンとしてはT3こそが「本命」ですが、甲状腺機能(分泌能)を直接反映しているのはT4のほうであると言えます。

このようなT3 とT4 の関係を知っておくことで、主要な甲状腺疾患治療薬のメカニズムを深く理解することができます。甲状腺機能低下を補うために処方される合成ホルモン薬として頻用されるのはT4(チラージン(R)Sなど)ですが、体内できちんとT3に変換されて作用を発揮し、直接T3 を内服するよりもむしろ管理・調節が容易となります。

一方、バセドウ病の治療に用いられる抗甲状腺薬は、甲状腺ホルモンの合成経路のさまざまなステップを阻害しますが、その中には末梢でのT4 からT3 への変換を抑える作用を併せ持ったものが存在します(プロパジール(R)など)。

point 2

T3とT4の違いはヨウ素の数だけ。しかし、この違いが、ホルモンとして活性の強さの違いを生みます(T3>T4)。

甲状腺ホルモンの構造~T3 とT4 の違いの図②

実はT3 もT4 も、血中ではそのほとんどがタンパク質と結合しており、この状態ではホルモン活性を発揮することができません。ごくわずかにタンパク質から遊離したものだけが甲状腺ホルモンとして作用し、その割合はT3 で0.2%、T4 では0.02%程度に過ぎません。

病態把握のためには「総T3」「総T4」を測定してもよいのですが、測定技術の向上した現在では、ホルモン活性やTSH調節への影響をより直接的に反映する値として、遊離した区分だけを測ることが好まれています。

以上のように、甲状腺ホルモンはT3 とT4 との間、また遊離状態とタンパク結合状態との間に平衡関係が成り立ち、絶妙なバランスで最終的な活性が決定されています。下垂体からのTSH分泌を中心とした調節機構は、これらの複雑な平衡系の上に浮かんだ甲状腺ホルモンを相手に、ダイナミックに作用して恒常性を保っているのです。

point 3

活性を担うのは、遊離したT3/T4だけ。これを一定に保つために調節系が働きます。

「甲状腺腫」という言葉

甲状腺腫(goiter)という語は、原因にかかわらず単に甲状腺が腫大している状態を指す言葉です。甲状腺疾患は、炎症性/腫瘍性、あるいは機能亢進/低下にかかわらず、何らかの甲状腺の腫大を伴っていることが多く、ただその特徴が病態によってさまざまに異なります。従って、「甲状腺腫」という語だけから病態を推測することは困難です。

甲状腺に限らず、腺組織に由来する良性腫瘍を腺腫(adenoma)と呼びますが、甲状腺由来の腺腫は「甲状腺腺腫」と、もうひとつ「腺」をきちんと付けて区別します。最もわかりづらいのは「腺腫様甲状腺腫」という言葉です。

後半の「甲状腺腫」は単なる腫大を意味しますから、これは「腺腫に似た甲状腺病変」と言っているのと変わりありません。これは実際には「過形成」と呼ばれる病態で、病理学的に腺腫と似て非なる組織像を呈するものです。紛らわしい用語が多いですが、カルテを読んで勘違いすることのないようにしましょう。

甲状腺に関する物質の名前について

甲状腺(thyroid)に関係する物質の多くはthyro- という接頭辞を持っています。甲状腺ホルモンの骨格をなすサイロニン核に、ヨウ素(ヨード)が「トリプルで」、つまり3個結合したものが「トリヨードサイロニン」、すなわちT3です。

この命名法に従えば、T4は「テトラヨードサイロニン」と呼ぶのが適切ですが、化学構造が正しく理解されていなかった時代に命名された「サイロキシン」という名が現在も使われています。

なお、thyro-は英語では「サイロ」と発音しますが、「チロ」と表記されることも多く、例えば「チロキシン」は「サイロキシン」と同じ物質を指します。

※次回は、RBC、Hct、Hbから見る貧血のタイプについて解説します。

(『ナース専科マガジン』2012年4月号より転載)

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