【連載】高齢者の機能低下をアセスメント

【高齢者のせん妄】症状とアセスメント・ケアのポイント

解説 白取絹恵

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 認知症看護認定看護師

せん妄は一過性かつ急速に出現します。
患者さんの訴えと行動、身体症状の関連を捉えることが重要です。


目次


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せん妄とは? せん妄の症状と看護
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認知症・認知機能障害の看護ケア|原因、症状、アセスメントのポイント


せん妄はなぜ起こる?

どんな症状?

 せん妄とは、意識、注意、認知、知覚の変化が一過性かつ急速に出現する状態のことをいいます。その人のそれまでの機能レベルが突然低下する、いわゆる突然意識が混濁した状態といわれています。米国精神医学会によるせん妄の診断基準では、下表のA~Dのすべてを満たさなければならないとされています。

 せん妄の特徴的な症状というと、興奮、幻覚、つじつまの合わない言動、不眠など多彩な精神症状が前面に現れます。私たち看護師はこれらの症状にとらわれすぎてしまい、対症療法に徹してしまいがちです。しかし、今出現している症状は何が原因なのか、何がそうさせているのかを把握することが重要です。

 せん妄を見極めるポイントとして、

 1. 記憶障害の有無
 2. 見当識障害の有無
 3. 短時間での症状の出現
 4. 一日のうちでの症状の変動

 をチェックする必要があります。

せん妄に伴うのはこんな症状

 1. 意識・注意・認知・知覚が低下する
 2. つじつまが合わない言動
 3. 見当識障害

せん妄に伴う症状
(表 せん妄に伴う症状)

どうして起こるの?

せん妄にはたくさんの要因がある

 せん妄は、薬物の中毒、炎症、急性のストレス反応などが神経伝達物質を阻害し、さまざまな精神症状を呈するといわれていますが、まだ病態生理は明確にされていません。

 せん妄にはたくさんの要因があり(下表)、それらの要因が複雑に重なり合っていることが多く見られます。これらの要因を見てみると、高齢者が病気によって入院するということは、それだけでせん妄を引き起こす要因が複数存在することになります。

 例えば、高齢者が何らかの身体疾患によって入院し、手術を受けることになったとします。そうすると、「入院」という環境の変化や治療により、今までの生活リズムが乱れます。また、痛みや倦怠感などの身体的苦痛も少なからずあるでしょう。

 一方で、心理的にもストレスや、「自分は今後どうなっていくのだろう」という不安が生じることも考えられます。このような状況がベースとなって眠れない日が続き、心身ともにストレスが重なっていくのです。

 しかも、せん妄状態になってもそのストレスから解放されるどころか、見当識障害や記憶の欠損などが原因で、自分が今置かれている状況(禁食のため点滴をしている、安静のため歩くことができないなど)を適切に判断することができなくなります。

 そして、その状況を理不尽に感じると同時に、医療従事者や家族など周囲の人たちとの認識のずれから、より重圧がかかってしまう恐れがあります。

せん妄のたくさんの要因
(表 せん妄のたくさんの要因)

治療の基本は精神症状への対症療法だけではない

 術後せん妄は、通常1週間以内に消失することが多いといわれていますが、多要因であるため、期間や発症に関しても個人差があります。また、身体疾患との関連では、意識が朦朧とするなどの身体症状が先行するケースもあれば、先にせん妄の症状が出現し、その後に身体症状が出現するケースもあります。

 高齢者にとってせん妄の出現は、「こころ」だけでなく「からだ」も「助けて!」と叫んでいる状態と受け止め、早急に対応することが求められます。

 せん妄の治療の基本は、今出ている精神症状への対症療法だけではいけないといわれています。脱水、電解質異常などの身体疾患や薬物などが大きな要因となっています。そのため、前記した3つの因子(準備因子・誘発因子・直接因子)を思い浮かべ、その患者さんには何が考えられるのかをアセスメントし、精神症状への対症療法と併せて、ケアや治療が可能な因子に関しても介入していくことが重要です。

過活動型と活動減少型
(表 過活動型と活動減少型)

せん妄の観察とアセスメントのポイント

 アセスメントツールなどを利用してせん妄症状をいち早く察知できることが大切です。どのようなことを観察すればいいのかを解説します。せん妄症状を察知したら、早期に介入できるよう態勢を整えておくことも必要です。

せん妄は多要因で個人差がある

 せん妄は多くの因子がかかわって発症するため、「原因はこれ!」と特定できないものです。特に高齢者はより多要因であると同時に、個人差が激しいため、予防は難しいとされています。しかし、看護師一人一人がリスクファクターを念頭に置いて観察し、せん妄に至る前の小さな変化を察知して早期発見、対応することで、患者さんや家族の心身の負担を軽減することができます。

 せん妄は突然発症するものといわれていますが、それに至る前に何らかの「サイン」を出していることも多く見受けられます。私たち看護師は言葉に言い表せない経験値による「勘」によってそれらをいち早く察知し、せん妄状態を発見することがあります。それは興奮や幻覚という精神症状だけではなく、

 1. 患者さんの表情(目つきが変わった、話をしていても上の空のようだ)
 2. 説明しても何度も同じことを聞いてきたり、訴えたりする(尿道留置カテーテルが挿入されており、歩いてはいけない状態であるが「トイレに行きたい」と何度も訴えてくるなど)
 3. あまり話さない印象だった人が何となく多弁になっている

 など、何となく「いつもと違う」「何かおかしい」といった感覚で、それがせん妄の発症へと続いたケースも少なくありません。

 せん妄は重症化すると改善が遅れ、患者さんや家族により大きな負担を掛けます。せん妄を早期に発見し、早期に要因を除去すべく治療や看護介入をすることが、せん妄ケアの重要な視点となります。

アセスメントツールの使用も有効

 看護師の経験値が患者さんの異常を察知し、せん妄状態を見逃さず早期に介入できるようになるには、看護師の「勘」をせん妄のアセスメントにつなげられること、かつそれを看護師経験年数を超えて共通認識とすることが重要なポイントとなります。その方法としてせん妄をアセスメントするツールの使用が有効です。

 当センターでは、「せん妄ケアシステム」を作成し、アセスメントツールとして、せん妄のハイリスク状態や初期段階を敏感に察知することができる『日本語版ニーチャム混乱・錯乱スケール(以下、J-NCS)』を活用しながら、術後せん妄を早期に発見し、重症化させないためのケアを実践しています。

 J-NCSは3領域計9項目で構成されており、信頼性・妥当性ともに優れていますが、やや測定に時間を要することと、評価者の事前の訓練が必要です。しかし、使いこなしていくうちに、せん妄に至る小さな認知機能の変化を観察するための視点が育まれ、さらに点数の変化を基にカンファレンスで話し合うことで共通認識となり、それぞれが意識的に患者さんを観察し、早期に看護介入したり、適切な薬物の使用をアセスメントすることができるようになっていきます。

せん妄ケアシステム
(図 せん妄ケアシステム)

せん妄と認知症の違い

 せん妄をアセスメントする上で気を付けなければいけないのが、認知症の症状との鑑別です。

 せん妄と認知症の症状は類似しており、判断に迷うケースがしばしば見られます。しかし、双方の違いを理解していなければ、せん妄を「認知症になってしまった」「認知症が悪化してしまった」などと思い込み、治療がスムーズに受けられなかったり、家族も突然の患者さんの変化にショックを受けて悩むことも考えられます。

 せん妄と認知症の違いとしては、下記のように大きく3点が挙げられます。

 1. 【発症について】
せん妄は急激に発症、認知症は年単位で徐々に発症

 2. 【症状の変動】
せん妄は日内でも症状が変動、認知症は症状の変動なし

 3. 【可逆性・不可逆性】
せん妄は可逆性、認知症は不可逆性

せん妄のケアのポイント

 せん妄のアセスメントや観察の方法を知ったうえで、どのようにケアをしていけばいいのかを解説します。

患者さんを取り巻く環境を見直し調整しよう!

 まず、しっかりと認識しておかなければならないのは、何らかの病気で入院してくる高齢者にとって、病院という環境は「非日常」の世界だということです。

 ナースコールやポータブルトイレも、使い慣れない人にとっては「押してしまったらどうしよう」「臭いや音でほかの人に迷惑をかけないだろうか」などと、さまざまなことを考えてしまうものです。ただでさえストレスフルな環境に加えて、身体症状や病気に対する不安感などが重なって、より環境への順応性が低下します。

 ケアとして重要なのは、少しでも「日常」を取り戻せるように、患者さんの置かれている環境を見直し、せん妄発症の引き金になると考えられる要因をできる限り最小限にとどめることです。

具体的な環境調整のポイント

(1)適切な感覚刺激の提供

 音や光、人の気配などは時には心地よく、時に不快に感じるものです。入院環境を少しでも心地よいものにするためには、医療機器の音や医療従事者の足音などが睡眠を妨げていないか、誤認のきっかけになっていないかをアセスメントします。

 また、夜眠る際に真っ暗がよいのか、ほんのり明るい方が安心できるのか、自宅での情報を得ながら照明を調整します。もともと自宅で毎日新聞やテレビ、ラジオなどを見たり聞いたりしている人には、入院中も勧めてみることも有効です。

 視覚障害や難聴で眼鏡や補聴器等を使用している人には、継続して使ってもらうことによって誤認を防いだり、患者さん自身が必要な情報の的確な入手ができます。

 病室やベッド移動を最小限にすることも大切です。ただしこの場合、患者さんの声をよく聞くことが必要です。以前、廊下側のベッドにいた術後の患者さんが、ふと「私、牢屋に入れられているのかしら?」とつぶやいたのを看護師が聞き、外が見えるようにベッドを移動したところ、その患者さんはその後変わりなく入眠されたということがありました。

 むやみに移動することは避けた方がよいのですが、そのときに患者さんが何を感じているのか、そこに焦点を当てて考えることが重要です。

(2)生活リズムを整える

 制限が多い入院環境の中で、できるだけ本来の生活リズムを取り戻すために、まずは不動状態を避けることが大切です。例えば、食事のときには車椅子に座って食べたり、車椅子への乗車が困難な場合は、ベッドアップするだけでも患者さんの視界が広がり、ほかの物に対する興味がわいてきます。

(3)睡眠覚醒リズムへのケア

 夜間の不眠はせん妄を悪化させるだけでなく昼夜逆転の状態となり、その人の生活リズムまでも乱してしまいます。「夜寝ないから、昼間は起きていてもらう」──理屈はそうなのですが、眠気を無理に我慢させることは、患者さんにとって苦痛となります。声を掛けてみて眠気が強いようであれば、日中に30分程度の休息を取ることも必要です。

 休息の必要性をアセスメントするときに入院前の睡眠パターンを把握し、高齢であることを踏まえながら疲労感はないか、身体疾患の悪化はないか、睡眠薬を使用している場合は、薬効を持ち越していないかなどを多方面からアセスメントすることが望まれます。

 また、覚醒を促す際には、サーカディアンリズムをうまく活用するとよいでしょう。日中はカーテンを開けて自然光を入れ、外が見えるようにする、できれば日中の早い時間帯に日光を浴びることも有効だといわれています。

(4)基本的ニーズを満たす看護ケアの提供

 せん妄では興奮やまとまりのない行動の方に気を取られがちですが、基本的ニードを満たす看護ケアの提供こそ必要です。

 尿道留置カテーテルは本当に必要なのか、ポータブルトイレではなくトイレには行けないのか、食事はお粥・刻み食でなければいけないのか、歯磨きはベッドサイドでなければいけないのかなどを見直し、その人のセルフケア能力を活かしていくことが重要です。

(5)危険の防止

 せん妄の場合、なぜチューブ類が入っているのか、安静にしていなければならないのかが理解できにくい状況にあります。しかし、だからといって説明を怠ってはいけません。

 まずは、なぜチューブ類を気にするのか(チューブ類が体動を妨げていないか、固定部のかゆみやひきつれ感はないか)、なぜ歩こうとするのか(尿道留置カテーテルの違和感はないか、同一体位による苦痛はないか)をアセスメントし、患者さんが苦痛に感じている状況を改善し、その上で説明することが必要です。一方的な説明は、混乱を助長させてしまうので、患者さんの言葉や表情をみながら行うことが大切です。

 また、転倒の危険性が高いために歩かないようにするのではなく、日中だけでも付き添ってトイレまで歩行したり、散歩するなど、患者さんの体力に合わせて少しずつ筋力をつけ、歩くのに慣れるようにすることも重要です。

有効な現実見当識への支援を工夫する!

 時間や場所、人の見当識が障害されると、人は不安が増強し混乱します。リアリティオリエンテーションといわれる現実見当識の補強は、単にそれを理解してもらうだけでなく、現実見当識を理解することによって不安が軽減され、安心感を持ってもらうことが大きな狙いなのです。

 そのためには、「今日は何日? 何曜日?」などとあからさまに聞いたり、おもむろに「今日は○月○日です」と言うのは避けるべきであり、患者さんの自尊心を傷付けない配慮が必要です。

日常会話の中でさり気なく月日や時間を一緒に確認する

 「今日は○月○日ですね。もう秋ですね。○○さんが手術をしてから、もう○日経つのですね」
 「今何時でしょうね。もう○時なんですね」

なじみの人や物を感じられるようにする

 家族の顔や声など、患者さんのなじみの人間関係は、現実見当識を補強するための大きなきっかけになります。しかし、家族に協力を求める際には、なぜ家族の面会が効果的なのか、せん妄の説明と併せて話し、理解を得ることが重要です。

 また、看護師も「手が掛かるから付き添ってもらう」のではなく、家族がそばにいることで患者さんの安心につながることを認識しておくことが必要です。普段自宅で使用している時計や枕、家族・ペットの写真、孫が書いた絵、作った工作などのなじみの物も、それを見たり、使うことで、「いつもの自分」を感じられるようにします。

TVやラジオ、新聞などを活用する

 入院環境をあらためて見てみると、多くは注意して見ない限り、月日や時間がすぐに分かるようにはなっていないようです。特に集中的な治療が必要な時期は、医療従事者も気が回らないことが多く、その状態が急性期を脱した頃まで続いてしまうこともあります。

 そのような状態で「今日は何月何日、何曜日ですか?」と突然質問されたら、とまどってしまうのは仕方がないこと。日頃、新聞やTVで日付や時間を確認する人は多いので、それを病院でも取り入れるなど、少しでも「日常」を感じてもらえる工夫が大切です。

せん妄-在宅に向けての視点

 せん妄は、可逆的で原因となる要因が改善されますが、再燃を防止するために、患者さんや家族にどんな情報をどう伝えたらいいか解説します。


再燃を予防するためにできることを伝える

 せん妄は可逆性であり、身体症状が治療により改善されたり、退院によって慣れた生活に戻る、治療が終了して不安が解消されたなど、原因となる要因が改善されれば、元の状態に戻るケースがほとんどです。しかし、前述したようにせん妄を引き起こす要因に身体症状が大きく影響することから、再燃を予防するための方法について本人または家族に指導することが必要です。

 例えば、脱水症状は夏場に多く、特に高齢者は加齢による口喝感の低下や、トイレに行く回数が増えることを気にして、水分を控えることでそのリスクが高くなります。そのような場合は、患者さん本人をはじめ家族からも自宅での生活状況の情報を得ながら、コンスタントな水分摂取の方法について指導します。

 大切なのは、体調を整えることもせん妄の発症を予防する一つなのだということを理解してもらうこと。そして、万一せん妄症状が出現したときには、身体症状の存在を念頭に置いて早期に受診するなどの方法を伝えておくことです。

術後せん妄だと思っていた患者さんが脳梗塞を起こしていた事例

 70歳代後半の男性、Eさんは大腸の手術目的で入院。

 認知症の診断はなく、もともと日常生活は自立していて、術前オリエンテーションの内容も理解しており「すべて先生や看護師さんにお任せしています。自分なりに精いっぱいやります」と話していました。手術当日はICUに入室し、翌日に病棟に戻りました。

 しかし、術後2日目の消灯前あたりから「こんな所にはいられない。今すぐに帰るからタクシーを呼んでくれ」と点滴やドレーンを抜こうとする行為が見られ、看護師が制止すると、その手を強くつかみ殴りかかろうとしました。

 当直医に報告したところ、術後せん妄と診断。当直医より家族に電話で説明があり、身体拘束(緊急性)が実施されました。鎮静目的でハロペリドールの点滴が行われましたが効果はなく、激しい体動と興奮のまま朝まで経過しました。日中も同様の状態が続き、妻のことを妹と誤認したり、自分を外に連れ出すようにとしきりに話していました。

 せん妄症状に対し抗精神病薬が開始されたので、看護師は危険防止策を取る一方、離床を促したり、カーテンを開けて外を眺めてもらう、新聞を勧めてみるなどの工夫を毎日実施しましたが、せん妄の状況は一向に改善されません。

 ところが、術後1週間経過したとき、頭部CTを撮影したところ、脳梗塞を起こしていたことが判明。幸い小さい範囲であったため、すぐに治療を開始すると、まもなくせん妄症状も改善しました。

 今回のケースは術後と脳梗塞が偶発的に重なった特異的なケースかもしれません。しかし、せん妄にはこのような要素が多分に含まれていることを私たち看護師は念頭に置き、看護する必要があることを再認識させてくれたケースでした。

(『ナース専科マガジン』2011年2月号より転載)

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