【連載】血液ガスの基礎知識とアセスメント

pHとPaCO2とHCO3-との関係

解説 南雲秀子

湘南厚木病院 看護師長/米国呼吸療法士(RRT) / 保健医療学修士(MHSc) 日本呼吸ケアネットワーク 理事

pHは体の恒常性を判断するのに欠かせない指標です。pHはPaCO2とHCO3-によって調整されています。このPaCO2は換気により調節され、HCO3-は、腎臓により調節されます。今回からは密接にかかわっているpH、PaCO2、HCO3-をどう評価していけばよいのかを解説します。


【目次】


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pHって何?

 血液ガスのデータを見る場合、まずPaO2とPaCO2に注目する人が多いようです。もちろん、生命を維持するためには酸素化(PaO2)が最も重要ですが、体の細胞の働きを保つために重要なpHのバランスも忘れてはいけません。

 pHとは、水溶液中の水素イオン(H+)の濃度を示し、体内の血液の状態が酸性であるか、アルカリ性であるかを表しているものです。

 人間の血液は、化学的な中性よりもわずかにアルカリ性の7.40が中性となる性質をもっています。pHが正常値を外れると、酵素の働きや代謝に異常を生じます。そのため調節機能があり、pHは常に7.35~7.45に保たれるというわけです。

 このpH値に影響を与えるのが、PaCO2とHCO3-です。

 体内では有酸素呼吸により1日に12000~15000mmol程度の酸が産生され、H+が放出されています。そして、そのH+はすぐに二酸化炭素に置き換えられて体内に存在します。それが、酸を中和する「緩衝」機能であり、主に重炭酸イオン(HCO3-)によって中和されているのです。

PaCO2とHCO3-

 二酸化炭素は呼吸によって排出されるので、揮発性の酸といって、成人の1日当たりの排出量は15000~20000mEq/kg(体重)となっています。体の中に二酸化炭素が増えると、延髄の呼吸中枢を刺激して呼吸回数が増えます。こういったメカニズムによって二酸化炭素はコントロールされています。

 また不揮発性の酸はリン酸や硫酸などがあり、これは尿によって体外に排出されます。

 PaCO2は、動脈血中の炭酸ガス分圧のことで正常値は40torrです。静脈血中の二酸化炭素は、肺胞内の二酸化炭素との分圧較差によって静脈血中から肺胞内へと移動し、呼気となって体外へ排出されます。


memo:酸って何?

 酸とは水素イオン(H+)を放出できる物質として定義されています。体内ではCO2は酸として扱われていますが、この中にH+は出てきません。それでは、なぜCO2が酸として扱われるのかというと、CO2は水の中に入ると下の式の左から右の動きをします。このことからCO2が体内にある場合は酸として扱われます。

 また、酸性に傾いているときは右から左の動きが行われ、アルカリ性に傾いているときは左から右の動きがあります。これを緩衝作用といいます。
 
 CO2 + H2O ⇔ H+ + HCO3-


 もし、PaCO2量が上昇あるいは低下した場合には、換気量が調節されpHが保たれます。そのため、この値によって肺胞の換気量が分かり、PaCO2はとても重要なデータとなります。この値が高ければ低換気、低ければ過換気となります。

 HCO3-は体内のH+を受け取り、中和してpHを一定に保つ働きをする緩衝系物質──緩衝塩基の一つです。タンパク質など代謝によって産生される酸(不揮発性酸)は、主にHCO3-の再吸収を利用して腎臓から尿中に、1日50mEq/kgが排出されます。HCO3-の値は、体内の酸の量に影響を受けますが、調節は腎機能によって行われるので、腎臓の代謝機能を知ることのできるデータとなります。


memo:腎臓でのHCO3-の再吸収

 腎動脈から運ばれた血液は腎小体に入り、タンパク質以外の血漿が糸球体でろ過されます。このろ過された血漿から、1日に140~150Lの原尿が作られ、さらに原尿は尿細管へと運ばれます。尿細管では原尿に含まれる水やNa+などの電解質など95%が再吸収され、尿細管を通って腎静脈に戻ります。

 尿細管に運ばれたときHCO3-の濃度は24mmol/Lで、1日におよそ3600mmolのHCO3-が、運ばれてきます。この全てが、尿として体外に排出されると、ひどい代謝性のアシドーシスになってしまうわけですが、HCO3-は、近位尿細管でおよそ3000mmolが再吸収されます。また、このときに同じ量のH+が放出されています。
 
 残った原尿は、集合管で水分4%が再吸収され、腎静脈に入っています。そして残りの1%が腎盂へと移行し1日1.4~1.5Lが尿として体外に排出される事になります。
 
 HCO3-は、近位尿細管から腎盂に至る過程で体内のpHの状況に応じてさらに微調節され、pHバランスが保たれるようになっています。
 


PaCO2とHCO3-の代償作用

PaCO2とHCO3-はお互いにフォローし合っている

 実は、代謝と呼吸はpHバランスを保つために、どちらかに異常が生じた場合には、もう片方がそれを補う働きをしています。このpHバランスを保つための機能を、代償作用といいます。pHはPaCO2とHCO3-との比率で決まってくるので、PaCO2が増えればアシドーシスに、HCO3-が増えればアルカローシスというように、それぞれの値が変化すると当然、pHも変化します。

 しかし、人間が生存できるpHは6.8~7.8の範囲であり、正常値は7.35~7.45です。そこでPaCO2やHCO3-に変動があっても、それぞれが補完し合い、バランスを保ち生命を維持できるようになっています。

 例えば、低換気によってPaCO2が増加して呼吸性のアシドーシスになった場合、酸を中和するHCO3-も増加して、pHのバランスを保ちます。

 このHCO3-は、通常、近位尿細管で再吸収されるのですが、再吸収量を増やすことで、バランスが保たれるようになっています。逆に、HCO3-が減少して代謝性アシドーシスになった場合には、呼吸回数を増やしてPaCO2を減少させることでpHを正常に保ちます。

 もちろん、アルカローシスの場合にも同様で、アルカローシスの原因がPaCO2の減少にあれば、HCO3-の再吸収量が減少し、HCO3-が増加してアルカローシスになっている場合には、換気量を減らして、PaCO2を上昇させてバランスを保ちます。

 ただし、呼吸による代償であれば呼吸回数の変化などですぐに対応できますが、腎での代謝による代償には時間がかかるため、慢性の呼吸性アシドーシスには対応できても、急性の呼吸性アシドーシスや呼吸性アルカローシスにすぐに対応することはできません。

 呼吸性の異常が起こると同時に、代謝性による代償も機能しますが、腎機能による調節が十分に機能するには、日数を要します。このことから、pHの値に異常があり、呼吸性のアシドーシスやアルカローシスと判断した際に、HCO3-が代償しているかどうかで急性か慢性かが判断できます。


memo:PaCO2とHCO3-の変化

 代償作用として見た場合、アシドーシスやアルカローシスになるとPaCO2もHCO3-もpHバランスが保たれる方向に変化します。PaCO2は短時間(2~3分ほど)で大きく上下に変動しますが、HCO3-は短時間で大きく変動することはなく、その変化は1日に1~2mmol/Lほどです。

 HCO3-は緩やかに上下するということを念頭に置いておきましょう。


HCO3-による代償作用の例

 例えば、外来受診の際に診察すると、特に体調に変化は見られない慢性呼吸不全の患者さんの場合(図参照)、普通に徒歩で来院している人でも、SpO2を測ると90%程度しかないことがあります。

実例

 そのため200mほど歩くと息が苦しくなって一度休んでから歩いたり、階段も一気に上ることはできず、数段上っては休み、また上るという状態であることがよくあります。安定した状態でその患者さんの血液ガスをとるとPaCO2の値が高く、換気が悪いことが分かります。上手く換気ができずに、死腔が多くできていて常に呼吸性のアシドーシスになっているということです。

 しかし、pH値が正常範囲内にあるとしたら、それは腎臓からHCO3-を多めに放出することでバランスを保っていることが分かります。

 また、この患者さんがインフルエンザにかかり肺炎を併発するなどして、シャントや死腔が増え、低換気がひどくなるような状態になったとします。

 この患者さんは、インフルエンザにかかる前はpH値が正常範囲内ではありましたが、代償されてこの状態を保っていたと考えられます。もともと慢性呼吸不全で死腔があるのに、そこへ肺炎によってさらにシャントや死腔ができ、低換気症状が悪化してしまうと、慢性の呼吸性アシドーシスが代謝の働きによってpHバランスを保っていたのに、その働きではカバーできない程にアシドーシスが悪化して、pHが酸性に傾いてしまいます。

 このように、pHバランスが崩れ、pH値が異常になった場合には、何らかの処置が必要となりますが、pHバランスがとれているのであれば、PaCO2やHCO3-値が多少正常値から外れていても、緊急な対応を必要としない可能性は高いと考えることができます。

 pH値の異常で特に緊急な処置が必要となる症状の一つが、ケトアシドーシスです。主に糖尿病に起因するこのアシドーシスは、インスリン注射によってしか回復しません。意識障害を起こすこともあるので、早急な対応を必要とします。
このように、血液ガス分析で患者さんの全身状態を評価するときは、SaO2やPaO2、PaCO2だけでなく、pHとHCO3-にも注目することで、その全身状態をより深く評価できるようになります。

(『ナース専科マガジン』2010年4月号より転載)
※次回はアシドーシスとアルカローシスについて解説していきます。

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