【連載】CKD患者さんのケア

第1回 変わった! 腎不全看護~CKD(慢性腎臓病)という考え方

解説 鈴木理志

聖隷佐倉市民病院 腎臓内科部長

解説 内田明子

聖隷佐倉市民病院 看護次長

これまで透析看護に目が向きがちだった腎不全看護の分野に、新たに導入されたCKD(慢性腎臓病)の概念。

これが、今後の看護をどのように変えていくのか、これまでとの違いやこれからすべきことについて解説します。


透析患者数とともにその予備群も増加

これまで慢性腎不全は、Seldinの病期分類により

  1. 腎予備能力減少期(腎予備能低下)
  2. 代償性腎不全期(腎機能障害期)
  3. 非代償性腎不全期(腎不全期)
  4. 尿毒症期

に分けてその進行をとらえることが多く、一般的には「血清クレアチニン値2mg/dL以上」が持続していることを慢性腎不全の目安として判断していました。

しかし、クレアチニン値は性別や年齢によって変化することから、必ずしもそれがあてはまるとは限らず、血清クレアチニンが2mg/dL以下であっても腎臓に障害が生じるケースがないとはいえませんでした。

また、主な腎疾患は自覚症状に乏しいため、早い段階で患者さんが受診することも少なく、発見や治療開始が遅れてしまうことにより進行してしまい、腎臓の機能が低下し透析療法が導入されるケースも多くなります。

こうして一定以上腎機能が低下してしまうと、維持することはできても回復することはできません。そのため機能低下が進まないうちに治療することが重要となるのです。

2008年12月末時点で、慢性透析療法を実施している患者さんの数は28万2622人。前年よりも7503人増加しており、02年以降でみると毎年約7000縲怩P万人の幅で増えています。一方、08年に新たに透析療法を導入した患者さんは3万7343人を数えています。患者数と導入患者数の差は、透析患者死亡数によるものです。

糖尿病増加も一因

このように透析を受ける患者さんが増加している背景には、いくつかの原因があります。

その1つが、国民病といわれる糖尿病です。07年の厚生労働省国民健康・栄養調査によると、その患者数は約890万人で、その予備軍も含めると2210万人に及ぶと推定されています。

この糖尿病患者数の増加にともない、糖尿病性腎症による透析導入者が増えているのです。透析導入患者さんの主要原疾患の推移をみると、1998年には、それまで透析導入の原因疾患として最も多かった慢性糸球体腎炎に代わって糖尿病性腎症が第1位となり、現在では原疾患の4割以上を占めるまでになっています。

また、社会の高齢化やメタボリックシンドローム人口の増加も原因となっています。透析導入患者さんの原疾患として第3位(10.5%)に挙げられる腎硬化症は、加齢や高血圧性腎疾患が原因となることが多いため、高齢者やメタボリックの患者さんが増えることで、患者数の増加と症状の重篤化が見込まれます。これが透析導入の増加に結びつくわけです。

腎臓は代償機能が働くため、その機能が50%ほどであっても自覚症状がほとんど出現しません。そのため、全身倦怠感、夜間頻尿、動悸などの症状が出てくるようになったときには、すでに腎機能が低下していることが少なくありません。こういった腎臓の特徴から受診・治療が遅れることも、透析患者さんの増加につながっています。

このような透析患者さんの現状からみて、予備軍となる患者さんの数はさらに多く、その数を伸ばしていることが予測されます。

慢性糸球体腎炎

糖尿病性腎症が透析導入の最大原疾患になる前まで、最も多かった慢性糸球体腎炎。現在も第2位ではありますが、以前から透析導入患者数は減少を続けています。理由としては、検尿の普及による早期発見・早期治療や、薬物療法の成績が良好になってきていることがあり、この流れは今後も続くと思われます。

新たな概念として注目されている「CKD(慢性腎臓病)」

透析患者さんの増加を止めるには、腎機能が低下する以前に管理することが重要なポイントになります。そこで、今注目を集めているのが慢性腎臓病「CKD(chronic kidney disease)」という概念です。

CKDは、2002年に米国で提唱されたもので、尿異常の有無や検査データ(GFR : 糸球体濾過量)によって定義されており、原疾患は問いません。これにあてはまる人をすべてCKDとしてとらえることで、腎障害を早期の段階から診断し、介入を可能にしています(図1)。

世界的にみると、透析療法や腎移植を必要とする腎不全の患者さんが10年には210万人になろうかという現状のなか、その予備軍としてのCKD患者数は、わが国でも約1330万人と推計されています(07年12月現在:日本腎臓学会調査)。

CKDは心血管疾患(CVD)の重大なリスクにもなっており、全CKD患者数の約600万人がCVDにおけるハイリスク患者であるといわれています。

透析患者数やCVD患者数を増加させないためにも、CKD患者さんの腎障害を改善または進行させない取り組みが急務となっています。

CKDの定義

診断の複雑さから治療が遅れていた腎疾患

CKDの概念が登場する以前は、腎疾患はその診断の複雑さのため、専門医以外には非常に難解で、適切なタイミングでの専門医への紹介ができず治療が遅れてしまうという現状がありました。

例えば、慢性糸球体腎炎の1つに挙げられる「IgA腎症」を例にとってみましょう。

この疾患は腎臓の糸球体にIgAが沈着していることが確認されて初めて診断がつくため、その確定には腎生検が必要です。

しかし、光学顕微鏡上の組織病名では、「びまん性増殖性腎炎」「巣状糸球体腎炎」などと呼ばれることになります。

一方、たんぱく尿と血尿が続くという臨床経過からみると「慢性腎炎」という病名がつきます。

そして病態がさらに進行・悪化すると、血中たんぱく質が失われて体がむくみ、その名は「ネフローゼ症候群」となって、さらに悪化すると「慢性腎不全」と呼ばれることにもなります。

このように、1つの腎疾患であるにもかかわらず、どの側面からみたかによって疾患名や病名が多数存在することになり、それらを識別することはとても困難でした。多くの医師、医療者にとって、腎疾患はやっかいな疾患であったのです。

それだけに、どのタイミングで専門医と連携するかも、個々の医師のスキルや考えに任されており、尿たんぱくが2+の患者さんに対して何の説明もなかったり、クレアチニン値が1.8mg/dLあったとしても放置してしまうなど、適切な対応がなされないケースは少なくなかったようです。

しかし、CKDについての知識があれば、専門医以外の医師やその他の医療者でも、検査データから腎機能の状態をある程度判断することができます。

つまりCKDの概念が広く普及すると、腎疾患診断の難解さが解消されるだけでなく、腎障害や腎機能低下の早期発見が容易になり、適切なタイミングでの専門医との連携が期待できるようになるのです。

腎機能によって分けられる5つのCKDステージ

CKDは、腎機能の評価指数となるGFR(通常は推算GFR=eGFRを使用)により、病期が1〜5のステージに分類されます。

これまでなかなか発見されにくかった軽度の患者さんに対しても明確な診断基準が設けられており、軽度から重度までの幅広い患者さんが対象となっていることがわかります。

患者さんがどのステージに位置するか診断されたら、直ちに適切な治療に入ることが重要です。

CKDの概念により看護師のかかわり方も変化

CKDに対する治療の大きな目的は、腎不全への移行の予防と抑制にあります。

したがって治療は、リスクファクターへの介入や薬物療法、生活習慣の改善、食事療法などが中心になります。

特に、CKDは生活習慣に起因することも多いので、患者さんの生活にかかわる内容も多く、そのQOLを損なうことなく治療を行うためには、看護師が担う役割はこれまで以上に重要になるでしょう。

また、これまであまり看護の対象とされてこなかった一見健康そうな人──CKDでいえばステージ1に位置するような、症状のほとんどみられない患者さんに対しても、積極的にかかわっていくことが求められる点も、大きな変化といえます。

これまでの腎疾患に対する看護は、ほとんどが今まででいう保存期〜末期の腎不全患者さんが対象でした。CKDのステージでいえば4と5にあたる人々です。

それが、ステージ1〜5までのすべての患者さんを対象に看護を展開することになり、幅広い多様な看護が必要になるわけです。

これまで強かった透析看護のイメージを払拭して、新たにCKD看護という考え方で、ステージごとのケアを実施していくことが大切になります。

早期発見のカギは看護のなかにもある

本来であればステージ1〜2にあたると思われる人でも、そのほとんどは自ら受診に訪れることは期待できず、たとえ健診などで尿たんぱくがみられても、次の受診に結びつかないことが少なくありません。

それは、自覚症状がほとんどないためで、「身体的に異常があるとは思えない」「日常生活にはなんの支障もない」と、患者さん自身がその必要性を感じないからです。こういった潜在的なCKD患者さんは多く、同様に、ほかの疾患で受診している患者さんのなかにも隠れているかもしれません。

このような患者さんを掘り起こしていくためには、看護師の力が欠かせません。

というのも、予防も含めた包括的医療には、外来、病棟、透析センター、そして時には地域にまで、垣根を越えた他方面との連携が必要となり、こういった柔軟な動きは、看護師の得意とするところだからです。

そして、何よりも患者さんの最も近い存在として、患者さんとかかわることができるからです。

また、ほかの疾患治療で外来受診や入院している患者さんについては、検査結果に何らかの腎機能の低下を示すデータがないかどうかをチェックし、もしCKDが疑われるようなデータがあれば、それを主治医に提言していくことが大切です。

医師にとっては専門外のことが多く、必ずしもCKDへの理解が十分とはいえないことがあるためです。

これらは、患者さんが早期に発見されてからも同様です。

ステージ1〜2の段階では、地域の保健師やケアマネジャー、院外の看護師との連携が大きなポイントになります。

治療を必要としないことも多く、定期的な受診行動があれば外来看護師と保健師との連携によってフォローできると思われます。

縦割りになりがちな医療施設内での診療システムのなかで、看護師が横断的なネットワークを張り巡らせ、医師の死角を補うような広い視野に立って看護を展開することが、CKD看護では必要になるのです。

透析患者さんは「やらなくてすむなら、透析は受けたくない」「予防ができるなら、したかった」と言います。

早期発見、早期治療によって救われる患者さんがいるのですから、CKDという概念を看護師はしっかりと認識して、専門的支援・看護介入していくことが予防へとつながり、患者さんのQOLを支えていくことになります。

また、治療においても、生活療養が中心となるだけに、まさに看護の力が試される分野といえるかもしれません。看護師にとってもやりがいは大きく、その活躍が期待されています。

次回は、「腎臓の構造と機能」について解説します。

(『ナース専科マガジン』2010年2月号から転載)

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