【連載】すぐに使える移動・移乗テクニック

ベッドアップ時に起きた下方へのずれを引き上げる!

解説 熊谷祐子

現・自治医科大学看護学部 講師

援助をより効率的に、よりスムーズに行うための基礎理論として、基礎理論の2回目は「力の働く方向と大きさ」に関する原理を取り上げます。


まずは基本原理を押さえよう!

ここで紹介する技術をマスターすると、患者さんだけではなく看護師自身も余分な力を使わずに済み、ストレッチ体操を行った後のように身体が楽になります。力任せに行っている技術ではないことが証明されます。

その1 逆方向に掛かる力を利用する

椅子から立ち上がろうとするとき、私たちはテーブルに手を置いて力を入れ、身体を持ち上げようとします。これはテーブルを押す力を、押し戻す力として利用している動作です。

このように、物体に対して一定方向に力を加えると、逆方向にも必ず同じ大きさの力が働きます。このときの加えた力を「作用」、逆方向に生じる力を「反作用」といいます

作用・反作用の2つの力は、押せば押される、引けば引かれるというように、必ず対になっています。力の大きさは同じで、方向は正反対の同一直線上にあります。

例えば、水泳でターンをするときに壁をけって推進力を得たり、スケートリンクで手すりを引っ張ると同じ力で引っ張られたりするのも、作用・反作用の現象の一つです。

その2 力の合わさる方向を見つける

力が一直線上に働く作用・反作用の法則と同時に理解しておきたいのが、力の大きさと方向を示す「ベクトル」です。

2つ以上の力が働く場合、あるいは異なる方向に働く場合、力の作用する方向と大きさ(合成された力と等しい1つの力=合力)はどうなるのでしょうか。

この場合、作用する力の方向は、2つの力のベクトルを2辺とする平行四辺形の対角線で示すことができます。

合力の大きさについては、数学の三角関数を用いて求められます。

しかし、看護の場面で重要となるのは力の大きさよりも、どのような力がどの方向に作用するのか、ということです。

まずは、前述した平行四辺形の対角線に作用することを理解しておくことが大事だといえます。

2つ以上の力が作用した場合も考え方は同じで、最初に2つの力の合力を求めた後、そのベクトルと3つめの力のベクトルを2辺とする平行四辺形の対角線を求めます。

以降も同じようにしていけば、いくつの力が働いても作用する方向を知ることができます。

合力説明イラスト

なっとく! 上方移動のコツと技

患者さんの身体が食事の後、下方にずれてしまったとき、バスタオルを用いた2人掛かりの上方移動は、臨床でもよく見かける光景です。

看護師がベッドの両サイドに立ち、それぞれが患者さんの下に敷いたバスタオルの端を把持し、タイミングを合わせてバスタオルごと患者さんを持ち上げて上方に移動します。

その後、患者さんの頭の後ろに枕を当て、バスタオルのしわを伸ばすという方法です。

実はこの方法には、基本原理で述べた力の「ベクトル」が深く関連しています。

患者さんの身体を傾けないようにするには、2人が同じ力の大きさ・同じ角度で持ち上げなければなりません。

また、合力を大きくするには平行四辺形の対角線を長くする、つまり、持ち上げる角度を大きくすればよいことになります(イラスト)。

上方移動のコツと技説明イラスト

バスタオルを患者さんの身体の近くで把持するのも、持ち上げる角度を大きくし、できるだけ大きな合力を得るために行う工夫です。

しかし、この方法もかなりの力は必要で、看護師の身体には負担の掛かる動作です。

しかも、患者さんが不安定な状態での移動なので、安全・安楽なケアとはいえないでしょう。また、バスタオルのしわが褥瘡のリスクを高める危険性もあります。

実践方法

1 患者さんに「身体が下がっていますので上に上がりましょうか」と声かけをして、上方への移動を意識してもらいます。患者さんの両手は胸の上部で組みます。

[ラクらくのコツ]

動作を開始する前に、ベッドの高さが看護師の腰の高さにくるように調節しておきましょう。患者さんの身体をできるだけコンパクトにすることで、より小さな力で移動が可能になります。

2 看護師は患者さんの横に正面を向いて立ちます。立つ位置は患者さんの身体の中心。足は肩幅程度に開きます。

3 健側の膝を立てます。患者さんに「膝を立てた方の足底部でベッドを踏んでください」と声かけし、力を入れてもらいます。

[ラクらくのコツ]

 患者さんの足底に大きな力を掛けるには、膝を立てるときに踵をできるだけ臀部に近づけて、垂直方向へ力を加えられるように意識します。作用・反作用の法則によって、加えた力と同じ大きさの力で臀部を浮かせることができます。

4 患者さんの身体が浮いたら、肩とウエストの下に手を挿入して身体を支えます。看護師の手は、肘まで患者さんの身体の下に挿入します。

[ラクらくのコツ]

 このとき看護師の肘の角度は90度に。腕の角度が広すぎると身体を持ち上げることになります。

5 自分の両足のつま先をこれから動く方向に向けます。

[ラクらくのコツ]

 力のベクトルを意識して、足の向きはベッドと平行に、つま先を移動方向に向けます。効率的に重心移動を行うための準備です。

6 「身体を上に上げますね」と患者さんに声を掛けて、患者さんの身体を上方に移動させます。

[ラクらくのコツ]

力が働く方向を意識し、進行方向の足に重心を移動します。これまでの習慣から患者さんを持ち上げたくなりますが、水平にスライドさせる感覚で移動するのがポイントです。持ち上げると力の作用する方向と移動したい方向が異なってしまう上に、加えた力も分散してしまいます。

7 元の位置に戻ったら枕の位置などを調整し、患者さんが安楽な姿勢に整えます。

今月の“なるほど”ポイント

  1. 患者さんが足底部でベッドを踏んだ力と同じ大きさの力が返ってくるのを利用して、患者さんの身体を浮かせる。⇒作用・反作用の原理を使おう
  2. 患者さんの身体の下に挿入した看護師の肘の角度が90度になっていると、スムーズな水平移動ができる。
  3. 移動のタイミングで患者さんの身体を垂直方向に持ち上げない。
  4. 看護師は患者さんの移動先、つまり力の作用する方向を意識してつま先を向ける。
  5. ⇒力の大きさと作用する方向を見極めよう
  6. 患者さんが自力で行えることを判断し協力を得ることでリハビリにつなげる。

参考文献

1.ナーシングサイエンスアカデミー、ナーシングバイオメカニクスに基づく 自立のための生活支援技術

2.学習研究社、[完全版]ベッドサイドを科学する──看護に生かす物理学

次回は、「清拭時にも負担なく実践できる!ラクらくパジャマ交換」を紹介します。

(『ナース専科マガジン』2011年4月号より転載)

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