【連載】すぐに使える移動・移乗テクニック

車椅子移乗の看護・手順・注意点~患者さんの機能を活かして行おう!

解説 熊谷祐子

現・自治医科大学看護学部 講師

今回のテーマは、臥床している患者さんの「車椅子移乗」です。起き上がり→端座位→移乗までを基礎編で解説した基本原理を応用しながら実施していきます。


移乗で意識するのは「重心移動」と「動作の軌道」

車椅子移乗は、これまで看護師にとって力のいる看護技術の一つと考えられていました。
その大きな要因は、患者さんを「持ち上げて」「移動・移乗」させる動作にあります。

基礎編で述べてきたように、力を必要としない援助技術の基本原理は、「身体を小さくまとめ、力の大きさと作用する方向を分散させない」こと。

車椅子移乗でもそれは同じです。

患者さんを持ち上げなくても、重心移動によって力任せにならない移動は可能になります。

そして、重心移動と同じくらい大切なのが、自然な軌跡の動作を意識することです。
人が身体を起こしたり、立ち上がりの際は、身体は直線的ではなく緩やかにカーブした軌跡を描きます。
その動きをなぞるように身体を動かすことで、余分な力を掛けずに、患者さん・看護師両者の身体が楽になる自然な援助が実施できます。

重心を安定させるには

重心の位置は、姿勢や動きで変わります。重心を安定させる条件は

  1. 重心の位置が低いこと
  2. 支持基底面(物体を支え持つ面)が広いこと
  3. 重心線(物体の重心を通る垂線)が支持基底面の中にあること

の3つです。

では、体位変換時や荷物を持った場合はどうなるでしょう?

重心は自分と物の2カ所にあるため、当然不安定になります。

そこで、重心が1つになるように物の重心を自分の身体に近づけ、自分の支持基底面の中に重心線が通るようにします。

安定感が増し、感じる重さが軽減されます。

安定感が増し、感じる重さが軽減される持ち方実践写真

物と身体が離れると不安定で重く感じる

物と身体が離れると不安定で重く感じる持ち方実践写真

物を身体に近づけると安定して軽く感じる

実践方法

立位がとれない患者さん

1.初めにベッドの高さが車椅子とほぼ同じ位置かやや高めになるように調節します。車椅子のストッパーを必ず確認します。

[ラクらくのコツ]

車椅子よりベッドを高くすることで、患者さんを持ち上げることなく水平移乗させることができ、重心もとりやすくなります。片麻痺がある患者さんの場合はベッドの配置が可能なかぎり、車椅子を健側に置くようにします。


2.看護師と反対側の腕を巻き込まないように胸の上に乗せ、看護師の腕を頸部の後ろに挿入します。

[ラクらくのコツ]

後頭部のくぼみ(後頭部と肩の間)にVの字にした看護師の肘がくるようにすると、患者さんに違和感を与えることなく援助できます。


3.もう片方の手で患者さんの肩を手前に傾け、頸部に回した手のひらを肩甲骨の下部まで持っていきます。

[ラクらくのコツ]

ズボンも同じように、「大腿まで」、次に「膝まで」、そして「足首まで」というように3つのステップに分けると、スムーズに行うことができます。最後は、踵を包み込むようにして足首から外します。


4.「起き上がりますよ」と声を掛けて、弧を描くように上半身を起こします。

[ラクらくのコツ]

右手を患者さんの腕に添え、肘を支点としたトルクの原理を利用して身体を起こします。その後は、自然な起き上がりの動きを意識しながら座位まで持っていきます。このとき看護師は右足を引き、起き上がる方向に移動させて着地させます。重心の位置は左足から右足へと移ります。


5.患者さんの膝を曲げ、臀部を軸にして回転させて端座位にします。

[ラクらくのコツ]

接触している面積が小さい方が、摩擦が少なくスムーズに回転できます。


6.看護師の両膝で、車椅子に近い側の患者さんの下腿を挟み、両腕を患者さんのウエストに回します。


7.看護師の首に腕を回してもらい、患者さんをグッと引き寄せて起き上がらせます。

[ラクらくのコツ]

抱きかかえたとき、看護師と患者さんの胸がしっかりと合わさることが重要で、患者さんの重心線が自分の支持基底面の中に通ることにより、重心が1つになります。


8.自分の足の踵を軸にして、そのまま患者さんの身体をくるりと回転させます。

[ラクらくのコツ]

患者さんの身体が浮いても足幅を変えたり、移動してはいけません。足を動かすと挟んだ足が緩んで患者さんが動いてしまうため、1つになっていた重心がずれて重みが掛かってきます。歩く必要がないように、ベッドと車椅子の距離をしっかりと測っておくことが重要です。このとき、看護師の足は支持基底面が広がるよう肩幅くらいに広げ、地面から離さずに踵を軸にして回転させます。


9.患者さんを車椅子に座らせます。車椅子の後ろに回り、姿勢を整えます。

[ラクらくのコツ]

腋の下から看護師の手を挿入し、健側を上にして組んだ腕を引き寄せます。このとき足は前後に少し開き、重心を前の足から後ろの足に移動させる要領で行います。

立位がとれる患者さん(片麻痺あり)

1.立位がとれない場合と同様の手順で、患者さんに「起き上がりますよ」と声を掛けて、弧を描くように上半身を起こします。

[ラクらくのコツ]

患者さんに声を掛けることで、健側の機能を活かすように意識してもらいます。ベッドの配置が可能なかぎり、車椅子は患者さんが端座位になったとき、患者さんの健側にくるように置きます。


2.患者さんの膝を曲げ、臀部を軸にして回転させて端座位になります。足底が床に着くようにベッドの高さを調節します。

[ラクらくのコツ]

患者さんが持っている機能を活かすためにベッドの高さを整えます。


3.健側で麻痺側の手をつかむようにして看護師の首に腕を回してもらいます。健側の足を看護師の両膝で挟むようにして「立ちますよ」と声を掛け、患者さんに健側に力を入れてもらいます。

[ラクらくのコツ]

立ち上がりのときも自然な動きを意識して、真上ではなく前傾姿勢をとって重心を前へと移動させます。患者さんには、自分の足で立つことを意識してもらいます。


4.患者さんが倒れないように支えながら、挟んだ足の踵を軸にする要領で身体を回転させて、そのまま車椅子に座らせます。

[ラクらくのコツ]

回転して腰を落としたらそのまま車椅子に座れるように、車椅子とベッドとの距離を測っておきましょう。患者さんに健側の手で車椅子の手すりをつかんでもらうと安定感が出て、移乗しやすくなります。


5.患者さんを車椅子に座らせ、姿勢を整えます。

今月の“なるほど”ポイント

  1. 身体を回転させるときは、身体をコンパクトにするとスムーズに回転できる(慣性モーメント)
  2. 患者さんを支えるときは、できるだけ自分の身体を密着させて重心を一体化する。身体から離れると重心線が支持基底面から外れてしまい、重さを一層感じることになる
  3. 生活動作における身体の動きを意識し、その軌跡をなぞるように動かすと、無駄な力を必要としない

次回は小さな疑問に答えます!目からウロコの援助技術を解説します。

(『ナース専科マガジン』2011年4月号より転載)

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