【連載】知っておきたい! がんのリハビリテーション

第1回 がん治療におけるリハビリテーションの現状

解説 辻 哲也

慶應義塾大学医学部 リハビリテーション医学教室 講師

がんのリハビリテーションとはどんなものをいうのでしょうか。今回は、リハビリテーションの現状について解説します。


国民病といわれる「がん」へのわが国の対策は年々進んでいる

がんは、1981年に脳血管疾患に替わって日本人の死亡原因の1位となって以来、高齢化とともにその患者数増やしてきました。

これを受けて、わが国では、がんを疾病対策上の最重要課題としてとらえ、84年の「対がん10カ年総合戦略」策定から官学一体となった取り組みを進めてきました。

その結果、死亡率は徐々に減少傾向になってきています。

しかし、がんに罹患する人が減少しているわけではなく、むしろ罹患率は増加しています。

つまり、患者数は増えているものの、死亡する人が少なくなっているということです

現在は、2006年6月に成立、翌年4月から施行された「がん対策基本法」に基づいて策定された「がん対策推進基本計画」によって、さまざまな取り組みが行われています。

特に、がん基本法のなかで、これまで遅れをとってきた「がん患者さんの療養生活の質の維持向上」が明確に国の責務とされた影響は大きく、わが国でもがん対策において、精神心理面のサポートと症状緩和を目的とした緩和ケア、身体活動面の向上を目的としたリハビリテーション(以下、リハビリ)にも、ようやく関心が向けられるようになってきたのです。

この流れを受け、診療報酬の10年度改定では、「がん患者が手術・放射線治療・化学療法等の治療を受ける際、これらの治療によって合併症や機能障害を生じることが予測されるため、治療前あるいは治療後早期からリハビリテーションを行うことで機能低下を最小限に抑え、早期回復を図る取り組みを評価する」として「がん患者リハビリテーション料」が新たに算定されることになりました。

これは、今後の施設の在り方にも大きく影響を及ぼすことが考えられます。

がん対策基本法の基本的施策

がん治療におけるリハビリテーションの導入は欧米より30年の遅れ

それでは、治療の面ではどのような現状があるのでしょう。

がんの進行や治療の過程では、嚥下障害や発声障害、運動麻痺、筋力低下、拘縮、四肢の浮腫など、さまざまな障害が生じ、歩行やADLに制限が起こり、QOLの低下をきたします。

がんがこうした疾患であるにもかかわらず、これまでは手術や化学療法といった直接的な治療のみに取り組みが集中し、患者さんの生活やQOLには、ほとんど目が向けられていませんでした。

がん患者さんのQOLの維持向上を目指したリハビリの重要性については、認識が非常に希薄だったといわざるを得ません。

一方、欧米では既に1960年代から、リハビリががん治療の重要な一分野として位置づけられ、行政が施策を行ってきました。

70年代に入ると、国のがん機関でリハビリスタッフの育成や、がんのリハビリプログラムを作成するなどの動きが出てきました。

例えば、米国有数の高度がん専門機関であるMDアンダーソンがんセンターでは、19のケアセンターの1つに、緩和ケアとリハビリ部門が治療の柱として位置づけられています。

しかし、わが国ではリハビリ科を有するがん専門病院はまだ少なく、がん患者さんを多く受け入れる大学病院や地域基幹病院でも、積極的にリハビリを介入させている施設は決して多いとはいえません。

欧米と比べてまさに30年間の開きがあるといえるでしょう。

このような状況のなか、02年には、リハビリ科のある初めてのがん専門病院として静岡県立静岡がんセンターが開院。

07年度からは、厚生労働省の委託事業として「がんのリハビリテーション研修ワークショップ」が開催されています。

09年度からは分科会として、「リンパ浮腫研修委員会」も立ち上げられました。

また、文部科学省では、「がんプロフェッショナル養成プラン」によって、高度な知識・技術をもつ専門医やコメディカルなど、がんに特化した医療人材を育てる大学院のプログラムに対する支援を始めています。

それらのなかには、慶應義塾大学のようにがんリハビリを柱としているプランもあります。

静岡県立静岡がんセンターでの開設準備・臨床業務、そして、がんのリハビリテーション研修ワークショップなどに携わった経験から、私はかねてからリハビリの必要性を身をもって感じてきました。

ですから、がんのリハビリが注目されるようになったことは、とても喜ばしいことです。

がんのリハビリテーション研修ワークショップ

厚生労働省委託事業として07年度から、財団法人ライフプランニングセンターを実施団体に始まりました。その実施協力団体としてがんのリハビリテーション研修委員会(辻哲也委員長)が設立され、医師、リハビリ療法士(PT、OT、ST)、看護師がメンバーとして、セミナーを開催・運営しています。

対象は、全国のがん診療連携拠点病院の医師と看護師、リハビリ療法士で、各施設で指導的立場にいることを条件としています。

毎回100名ほどの参加があり、グループワーク、レクチャー、実演、実習など、研修は2日間にわたって行われます。

これまでに全国のがん診療連携拠点病院の約3割のスタッフが受講しました。

今回の診療報酬改定も追い風となり、研修会への申し込みは急増しており、受講倍率は10倍を超えるという状態になっています。

がんのリハビリには4つの段階がある

がんのリハビリは、がんという疾患に基づく障害と治療過程において生じた障害、さらに、治療中や治療後にみられる運動能力の低下・活動性の低下・廃用症候群など一般的な障害までを対象としています。

そして、疾患や患者さんの状態によって、下表のように大きく4つの段階に分けることができます。

がんのリハビリテーションの分類

第1段階「予防的リハビリ」

社会復帰や後遺症についての患者さんの不安に対する介入はこの段階から行います。

第2段階「回復的リハビリ」

術後や脳卒中発症後の機能回復訓練など通常のリハビリに近いものが多くなります。

この予防から回復にかけての一連のリハビリは、一般的な周術期リハビリの流れを考えるとわかりやすいでしょう。

第3段階「維持的リハビリ」

この段階の患者さんは、余命はある程度保たれ、元気であり、がんと共存している状態です。

第4段階「緩和的リハビリ」

末期のがん患者さんに対して、QOLを考慮した症状緩和を中心に行います。

がんの治療が一般的な疾患と大きく異なる点は、予定治療だということです。

つまり、障害の発生が予測できるため、予防的介入や早期介入が可能になります。

このような特性から、がんはリハビリを導入しやすい疾患であるといえるのです。

多角的視点で患者さんを支援する姿勢が必要

がんのリハビリの目的は、がんの進行と治療過程において受けた身体的・精神的制約を改善することで、患者さんが、それぞれの家庭やそれまで暮らしてきた社会に、できるだけ早く復帰することができるよう導いていくことです。

そういう意味では、一般的なリハビリとその目的は変わりません。

ほかのリハビリと違う点としては、原疾患の進行に伴う機能障害の増悪、廃用症候群などの2次的障害、生命予後などに特別の配慮が必要だということです。

予防的リハビリにおいては、合併症予防が主たるリハビリになります。

呼吸訓練や体力向上のための運動などの機能訓練だけでなく、患者さんのセルフケアを支えるための指導や、生活支援についての家族指導もここに含まれます。

骨髄移植を控えている場合などには、体力が高まれば免疫力が向上し、移植後の安定した経過も期待できます。

また、患者さんのセルフケア能力が向上すれば、早期の在宅復帰が実現でき、在院日数の短縮にもつながります。

さらに、精神的な支援も求められます。

例えば周術期の患者さんの場合、手術そのものに対する不安はもとより、術後にどんな後遺症が残り、どのように社会復帰できるのかということにも不安を抱いています。

ですから、術前にリハビリ的な観点から、機能回復をどのように進めていくかを説明することで、患者さんの不安の軽減を図ります

これは、回復的リハビリに対する意識づけ、動機づけにもつながります。

この段階で患者さんと面識をもっておくことが、術後リハビリにおいてもスムーズな早期介入を可能にします。

このようなことから、予防的リハビリと回復的リハビリは、看護師が積極的にかかわることのできる段階といえるでしょう。

がんと共存している維持的リハビリの段階においては、身体を動かして体力を維持していかないと、治療に影響を及ぼす可能性も生じてきます。

運動などを取り入れて活動的に生活しているほうが、生存期間が長いというエビデンスもあります。

そのため、この段階では残った機能を生かし、維持することを目的にリハビリを行います。

例えば、骨転移により痛くて起き上がれない患者さんに対しては、痛くないような起き上がり方のコツを指導します。

あるいは手すりや杖などの補助具を使って歩くなど、リスクを抱えながらどう動くか、残された機能を維持して、生かしていくことが重要です。

低負荷で頻回なリハビリプログラムにより、活動性を維持していきます。

維持的リハビリと緩和的リハビリには区切りがあるわけではなく、徐々に移行していきますが、余命半年未満となった段階を緩和的リハビリ期と考えてよいでしょう。

この段階では、患者さんの要望を尊重することが大切です。

例えば症状緩和を目的に入院した患者さんで、自宅復帰を望んでいるのであれば、それを想定して、残存機能でできる範囲のADL拡大、移動能力の向上を図ります。

余命が週日単位となり、全身症状が低下しつつある場合は、車椅子でリハビリ室に移動する、あるいはアクティビティを行うだけでも、気分転換になることは少なくありません。

作品を残すことが生きがいにつながることもあります。

また、疼痛、浮腫、呼吸苦などの症状緩和と精神的なサポートも大切です。

がんのリハビリにおいても、がん看護同様、患者さんを全体像でとらえるという多角的な視点が必要になってきます。

チーム医療で行うがんのリハビリ

がんのリハビリは、医師、看護師、リハビリ療法士(PT、OT、ST)、義肢装具士、MSW、臨床心理士、栄養士などの医療チームで行われます。特に病棟看護師は、治療担当医やリハビリ療法士らとカンファレンスを通して、緊密にコミュニケーションをとることが重要です。

しかし、十分なリハビリ療法士がいないという施設も多く、その場合病棟では看護師がリハビリを担うことになります。

また、スタッフがいても、1人の患者さんに対して1日にリハビリを行う時間は限られており、施設にもよりますが、休日にはリハビリが行われないことも多くなっています。

ですから、それ以外の時間で、患者さんの調子のよいときに、看護師がリハビリを行うことができれば、患者さんにも時間的にも有益だといえるでしょう。

基本的に、リハビリではリハビリ療法士が中心となりますが、施設の種類やマンパワーによって、リハビリ療法士と看護師における役割や時間配分が変わるのは当然のことです。

例えば、高リスクの患者さんに対してはリハビリ療法士が、低リスクの患者さんは看護師がなど、施設環境に応じて、看護師とリハビリ療法士との役割分担や連携方法、システムを構築していくことが大切です。

リハビリに関する知識を身に付ける

がんのリハビリの内容を理解すると、看護師にできることがたくさんあることに気づくと思います。

日常的な機能訓練をはじめ、例えば、患者さんの訴えを聞いてリハビリの必要性があるかどうかを判断できるのも、24時間患者さんをみている看護師だからこそです。

一時帰宅をしたいと思っている患者さんの気持ちや要望を日常の様子や会話からキャッチし、主治医に判断を仰ぎ、家族背景も加味したうえで、リハビリ療法士に情報提供をする──これらは、すべて看護師が調整できることです。

これによって、看護師のアンテナでとらえた情報が、在宅を視野に入れた訓練に結びつき、患者さんの希望を叶えることもできるのです。

がんのリハビリにおいて、看護師の皆さんに身につけてほしいのは、リハビリの必要性を理解するための知識です。

知識不足は、リハビリを遅らせたり、適切な指導を妨げたりすることの大きな原因になります。

造血幹細胞移植の患者さんについて、移植後に運動が必要であることとその根拠がわかっていれば、隔離室の中でも歩くように促したり、一緒に歩いたりするなどのリハビリができます。

また、術後の早期離床の重要性がわかっていれば、「この患者さんはまだチューブがたくさん挿入されているから動かしてはいけない」、あるいは「大変だから」と離床が後回しになることもありません。

また、機能訓練は、がん自体による局所や全身の影響、治療の副作用による身体障害に作用を及ぼすことも少なくないので、リスク管理の知識が必要であることはいうまでもありません。

こうした知識を得たうえで、リハビリ療法士など専門職の指導を受け、適切な方法でリハビリを実施することが大切です。

例えば、痛みのある患者さんを離床させる場合、まずはPTから動き方の指導を受けたり、一緒に動いてみて、コツを身につけたりするようにします。患者さんの病態に合わせて、PTとリハビリ内容の再評価を行いながら、進めることも必要です。

がんのリハビリには、看護師が日々できること、看護師だからできることがたくさんあります。がんのリハビリに対する認識と関心が高まってきている今、看護師の皆さんの今後の取り組みに期待しています。

(『ナース専科マガジン2010年9月号』より転載)

ページトップへ