【連載】基礎からまなぶ血液ガス

第3回 緩衝と代償のメカニズム

解説 飯野 靖彦(いいの やすひこ)

日本医科大学名誉教授

【目次】


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血液ガス分析とは?基準値や読み方について


緩衝とは

血液pHの急激な変動を弱酸と弱塩基のペアで抑える

 血液のpHは常に一定になるように、7.40±0.05ととても狭い範囲に調節されています。これを「酸塩基平衡」と言います。

 でも、どうしてpHの基準値は、こんなに狭い範囲なのでしょうか。それは、血液の内部環境が中性から弱アルカリ性に保たれていないと、細胞が働けないからです。

 通常pHは、強酸が加わればすぐに大幅に低下します。例えば、pH7.0の溶液に、塩酸を滴下したとすると、pHは一気に5.0くらいまで下がってもおかしくないはずです。

 ところが、人間は血液pHが7.20未満になると重症で死に至ることもあるので、そこまでの変動は起こりません。細胞機能を守るために、体内にある弱酸や弱塩基が新たに加わった強酸(あるいは塩基)のpH変化を弱めて、元の状態を維持しようと働くからです。これを「緩衝」と言います。

 前述したように、Hが産生されてもHCO3-と結合してHが増加しないようにしています。このときのHCO3-の働きが緩衝作用**です。

H+を緩衝する血液中の物質とは

 このように、血液pHの動きを和らげる働きをする物質のことを緩衝系と呼びます。

 緩衝系には、

 1. 重炭酸緩衝系:HCO3-
 2. リン酸緩衝系:HPO42-
 3. ヘモグロビン緩衝系
 4. 血漿蛋白緩衝系

 があります。

 どれも反応性の高いH+を血液中から取り除いていますが、主に緩衝作用をするのはHCO3-で、最も重要な物質と言えます。

 というのも、ほかの緩衝系が一度は結合したH+を再びH+として放出するのに対して、HCO3-はH+と結合してH2CO3になった後、H2OとCO2に分解され、呼気によってCO2を排泄することができるからです。

 また、HCO3は腎臓での産生、再吸収が可能です。そのためこの緩衝系の働きには、腎機能が正常であることが重要になります。


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代償とは

肺と腎臓の相互フォローで血液pHの変化を抑制する

 生体には、「緩衝」のほかに、もう1つpHバランスを維持するために機能する作用があります。それが「代償」です。

 代償作用とは、酸塩基平衡異常が起きたときに、血液pHの変化を正常に近づけようと、肺(CO2の排泄量)と腎臓(H+とHCO3の排泄量)が互いに調節を図る、生体の防御反応です。

 ここで、pHを求める重要な式「Henderson-Hasselbalchの式」を紹介しましょう。この式を使って実際に計算したり、数値を正しく覚える必要はありません。では、何が重要なのかというと、pHが何で規定されているかが一目でわかることです。

 計算に用いられる数字(6.1や0.03)は一定なので、pHを規定しているのは分母にあるPaCO2と分子のHCO3。つまり、pHは血液ガス中のPaCO2と、緩衝系のHCO3の2つの因子で決まるということです。

 HCO3とPaCO2がどのような関係にあるかは、必ず覚えておきましょう。

Henderson-Hasselbalchの式

代償反応は基本的酸塩基障害の鑑別ポイント

 それでは、式を使って考えてみましょう。過呼吸で体内のCO2が吐き出されると、PaCO2の値は小さくなります。

 分子のHCO3に変化がないと仮定すると、分母だけが小さくなるので、pHは7.40より高くなってアルカレミア(アルカリ性)になります。

 逆に、COPDのようにCO2が増加している状態では、分母であるPaCO2が大きくなるので、pHは7.40より低くなってアシデミア(酸性)になります。分子のHCO3だけが増減した場合も考え方は同じです。

 しかし、生体ではできるだけpHの変動を抑制しようとします。あとは比率の問題です。HCO3が下がったら、もう一つのpH規定因子であるPaCO2も下げればよいわけです。

 そこで、体は呼吸回数を増やしたり、深く大きい呼吸をすることでCO2を多く排出し、PaCO2を下げてpHの変化を小さくしようとします。代償作用はこうして互いに補正し合い、酸性あるいはアルカリ性に傾きかけたpHを正常に戻す働きをします。

 ただし、代償作用にも制限があります。

 HCO3が減少するアシドーシスに対しては、HCO3が1mEq/L減少するとPaCO2は1.2Torr減少します(HCO3は通常24mEq/L、PaCO2は通常40Torrなので、HCO3が23mEq/LになればPaCO2は38.8Torrになる計算)が、PaCO2の低下は最大15Torrまでで、それ以上の代償は行われません。

 完全には代償されないということを理解しておくことも大切です。

pHはHCO3-とPaCO2の比で決まる、説明図

呼吸による代償はすぐに、腎臓による代償は2段階でゆっくり起こる

 HCO3が減少してpHが低下すると、体はすぐに呼吸数の変化でPaCO2を減少させてpHを正常値に近づけます。HCO3が増加した場合も同じです。

 一方で、PaCO2の増減に対するHCO3の動きは少し複雑です。これは、腎臓でのHCO3再吸収が増加するまでに数日を要するからです。

 例えば、PaCO2が上昇すると、pHの低下(H+の上昇)がすぐに認められます。これに対して、まず重炭酸緩衝系が反応しますが、HCO3の増加による代償はあまり多くありません。

 数日かけて腎臓でのHCO3再吸収増加が起こり、ようやく正常値へと近づいていきます。

 このように、腎臓による代償には時間的経過が関係しているため、呼吸性酸塩基平衡障害(呼吸性アシドーシスや呼吸性アルカローシス)では急性と慢性でHCO3レベルが異なります。通常、その代償反応は6~12時間後から始まり、48~72時間でピークに達します。

 また、回復時も同じで、PaCO2が正常化した後も腎臓での代償作用は数日継続します。その間、HCO3は増加したままの状態になります。

呼吸性アシドーシスの発生と回復に見られる酸塩基の変化説明図

(『ナース専科マガジン2012年10月号』より転載)

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