【連載】疾患別 検査値の看護への活かし方

【急性心筋梗塞】検査値の看護への活かし方

解説 山田俊幸

自治医科大学臨床検査医学 自治医科大学附属病院 臨床検査部 教授

解説 谷島雅子

自治医科大学附属病院 救命救急センター 救急看護認定看護師

検査値が何を示しているのか、また検査データを踏まえてどのような看護を行えばいいのか、実際のデータをもとに読み解いてみましょう。今回は、「急性心筋梗塞」です。


事例

入院中の患者さん(男性、89歳)、主訴・症状は以下のとおりでした。

胸痛

検査データ[胸痛発作から2時間後]

血液一般検査

  1. RBC(万/μl):517
  2. Hb(g/dl):10.9
  3. Ht(%):36.5
  4. MCV(fl):70.6
  5. MCH(pg):21.1
  6. MCHC(g/dl):29.9
  7. RDW(赤血球容積粒度分布幅、%):20.4
  8. WBC(/μl):15700
  9. Plt(万/μl):230

生化学検査

  1. AST(U/l):34
  2. ALT(U/l):19
  3. LD(U/l):230
  4. CK(U/l):154
  5. T-Bil(mg/dl):0.38
  6. TP(g/dl):7.0
  7. BUN(mg/dl):39
  8. Cr(mg/dl):1.87
  9. UA(mg/dl):7.9
  10. Glu(mg/dl):222
  11. Na(mEq/l):136
  12. K(mEq/l):4.1
  13. Cl(mEq/l):98

免疫血清検査

  1. CRP(mg/dl):0.3

簡易定性検査

  1. トロポニンT:陽性
  2. H-FABP:陽性

検査値の読み方のポイント

胸痛が持続していることを考えると、急性心筋梗塞の疑いが強いと考えられます。これを踏まえて検査値をみていきます。

血液一般検査では、WBC(白血球数)が15700/μlまで増加している点に注目します。WBCの増加は感染だけではなく、組織の損傷によって起こる炎症も示します。心筋梗塞は心筋組織が壊死する疾患ですから、その傷害によって炎症を起こしていると考えられます。

生化学検査では、心筋に関連する酵素であるAST、LD(乳酸脱水素酵素)、CK(クレアチンキナーゼ)をみていきます。ASTは34U/lと基準値内ですがやや高め、LDは230U/l、CKは154U/lと、ともに基準値内でやや高めの数値となっています。

炎症マーカーであるCRPについては、0.3mg/dlと激しい炎症を示す数値ではありません。そのため、CK以外の心筋マーカーで、より心筋に特異性の高いトロポニンT、H-FABP(心臓型脂肪酸結合蛋白)を検査しました。いずれも陽性反応が出たため、心筋が傷害を受けていることがわかります。

ここで注意が必要なのが、検査項目によって異常値の出現時間には違いがあるということです。心筋マーカーでは、H-FABPが1~2時間後、トロポニンTが2、3~6時間後、CKが4~8時間後、ASTとLDが6~12時間後に、それぞれ数値の上昇が始まります。

炎症マーカーについても同様で、WBCは侵襲の直後、一方CRPは6~12時間後、場合によっては24時間後というケースもあります。

従って、この時点で基準値内である項目も、時間の経過とともに上昇することが考えられます。ただし、WBC、CRPは、心筋マーカーと異なり、傷害の部位を示す項目ではありません。

診断のポイント

患者さんの症状・主訴から、緊急度の高い急性心筋梗塞の可能性を第一に鑑別を進めます。急性心筋梗塞の診断では、左記生体検査のほか、心電図検査(12誘導心電図)、動脈血液ガス検査、胸部X線検査などを行います。

胸痛発生=心筋梗塞の発症と考えると、この症例での血液検査や生化学検査の値は発症2時間後のデータとなり、これから数値が変化する可能性があります。それらを念頭に置いても、WBCが高値であること、トロポニンTとH-FABPが陽性を示していることから、心筋が傷害を受けていると判断できます。

さらに、心電図検査でST上昇という心筋梗塞に典型的な波形がみられたため、これらを総合して、急性心筋梗塞であると診断することができます。これが、発症直後に搬送されてきた患者さんだとしたら、トロポニンTが陰性であることも考えられます。

しかしその場合でも、ほかの検査結果と総合的に考えれば、急性心筋梗塞の可能性を除外せずに、正確な診断をすることができます。

診断・経過観察時に必要なその他の検査

心筋梗塞の確定診断のためには、心エコーで心臓の動きを観察します。また、心不全マーカーであるBNPの数値を確認することで、心不全の有無も確認します。

経過をみていく上で再梗塞の恐れがある場合には、トロポニンTを1日2回測定して監視するという方法もあります。ただし、(使用法に対し)保険適用ではないので注意が必要です。

看護のポイント

心電図モニタの波形を注意深く観察

急性心筋梗塞の発症後24時間は、心破裂や致死的不整脈など合併症のリスクが高くなります。心電図データから虚血部位がわかりますが、この症例では下壁の梗塞であることがわかっており、房室ブロックなど不整脈の出現が予測されます。

心電図モニタの波形を注意深くみていくとともに、全身状態を観察し、異常の早期発見とそれに対応できる準備をしておきます。

安静度の管理を行う

急性心筋梗塞の場合、患者さんはCKの上昇がピークに達するまでは絶対安静になります。そのため、患者さんが安静臥床による腰痛を訴えることがあります。

その場合は、医師に安静度を確認し、看護師による他動的体位変換やマッサージなどでその緩和に努めます。また、心原性ショックや急性心不全、心破裂といった合併を考慮し、安静度の管理や確実な薬剤投与、IN/OUTのバランスにも注意します。

心臓リハビリテーションを開始

心筋の破壊が続いている間は、CKは上昇を続けます。CKの上昇が止まった時点で、心筋破壊が止まったとみなされます。これが確認できたら、徐々に安静度を上げ、心臓リハビリテーションを開始します。

リハビリテーションを進めるときは、バイタルサイン(血圧低下の有無)や、心電図モニタ(不整脈の有無)を確認しながら行います。床上での身体挙上→座位→立位→歩行と段階的に運動強度・範囲を上げるようにします。

ADLが向上したら、リハビリテーションの仕方とともに生活指導を行い、患者さんが自己管理できるようにしていきます。

(『ナース専科マガジン』2013年8月号から改変引用)

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