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【連載】Newsのツボ

【虐待】医療者に求められる役割とは?

解説 松田 博雄

淑徳大学 総合福祉学部教育福祉学科教授/小児科医師

今回は子どもの虐待について、解説します。


生活の中に広く存在する虐待

近年度々報道される子どもへの虐待のニュースを耳にして、心を痛めている方は多いでしょう。

しかし、すべての虐待から見れば、それらはほんの一部にすぎません。

虐待とは、家庭のような密室環境の中で、力のある者が弱い者に対して、その力を乱用することです。

それは、子どもだけに限らず、配偶者、高齢者、兄弟、時には親も対象となります。

一つの家庭内で複数の対象への虐待があるケースも少なくありません。

小児虐待についていえば、児童相談所に持ち込まれた相談件数は、

  1. 2009年度は4万4210件
  2. 2010年度は4万6000件以上

と増加しており、要保護児童対策地域協議会(以下、要対協)への相談も合わせると約10万件になると推定されます。

ここには、報道を通し社会的認知が高まったことで、虐待が表在化したという背景もありますが、私自身地域で虐待予防に携わってきて、発生件数自体も増えているように感じます。

さらにまだ潜在していることが予測され、今回の厚労省検討会の報告書案も、これを考慮したものと思われます。

子どもの虐待は、大きく

  1. 身体的虐待
  2. 性的虐待
  3. ネグレクト(育児放棄)
  4. 心理的虐待

の4つに分けられますが、実際その範囲は広く、「child abuse(チャイルド・アビュース)」=「子どもを不適切に取り扱うこと」と定義されます。

例えば、

  1. 親が車中に子どもを置いたままパチンコ→子どもが熱中症で死亡
  2. 親が車中に子どもを置いたまま買い物→子どもが火遊びによる火災で死亡

という2つの事例があったとします。

社会的感覚では、前者は「虐待」、後者は「事故」とされがちですが、

前述の定義で捉えると、子どもを保護する責任が全うされなかったという意味から、どちらも「虐待」になります。

つまり、子どもが持ち得る権利を障害することが虐待であり、それは日々の生活の中に存在しているといえます。

「何か変だな」という「気づきの目」

虐待を受けた子どもには、身体と精神に症状が現れます。

  1. 死亡にも通じる頭蓋内出血や栄養失調
  2. 外傷や精神的虐待・ストレスによる精神障害(成長障害、発達障害など)
  3. 反社会的行動(非行・犯罪)

とその内容は広範囲で、子どもの生涯に重大な影響をもたらします。

これらを防ぐためには、虐待の予防と早期発見が非常に重要になります。

医療機関で働く看護師の場合、診察、健診、予防接種などの際に子どもや家族と接する機会は多いでしょう。

そんな皆さんには、彼らが発しているサインをキャッチできる「気づきの目」を持ってほしいのです。子どもに

  1. いつも同じ衣服を着ている
  2. 身体や衣類が不潔
  3. いつもお腹をすかせている
  4. おどおどした態度である

などの様子が見られたら、「何か変」と思いませんか?

親の場合なら、

  1. 連絡が取れない
  2. 話し合おうとしない
  3. 飲酒していることが多い

などの態度を変に思いませんか?

このように「何か変」と感じることが大切なのです。

皆さんが多くの患者さんと接した体験で得た「気づきの目」を活用することこそ、虐待の予防・早期発見の第一歩なのです。

ただし、何らかのサインをキャッチした場合には、親(家族)を非難するような言葉や視線、態度を表さないように注意し、虐待隠しが行われないよう気を付けることが必要となります。

医療者に求められる地域での役割

虐待は、地域・施設の多角的な情報を集約して診断・対応されます。

これまで虐待等に対応する機関として、都道府県に設置されている児童相談所がありましたが、2004年に市区町村の子ども虐待ネットワーク等を基盤とした要対協が設置され、対応の充実が図られました。

この組織は、児童福祉だけでなく、保健医療、教育、警察、司法、人権擁護などの公共および民間機関で構成され、保護児童へ対応するため、情報や知識を集約し診断する役割を担っています。

ですから、医療機関では虐待の有無を判断する必要はありません。

まずはその糸口となるサインに気付き、それを確実に発信することが役割となります。

しかし現実には、守秘義務や患者さんとの信頼関係などが妨げになり、連絡ができないこともあるかと思います。

医療機関がその役割を確実に果たすためには、やはり施設内における虐待対応体制の整備が急務です。

報告・相談のシステムが明確に確立されていれば、個々のスタッフが悩むことはありません。

もし早急な組織整備が無理な場合でも、サインに気付いたスタッフが、所属部署の師長や主治医、医事課職員、MSWなどと情報を共有し、一緒に検討できるような環境づくりをしていくことが大切になります。

虐待には、疾患と同様に

  1. 原因
  2. 症状
  3. 治療
  4. 予後

があります。

そのため、重要な疾患の一つであるという捉え方もされています。

医療者の皆さんにも、このような認識のもと、虐待も自分たちが対応すべきものとして向き合ってほしいと思います。

次ページでは、「子どもの虐待に関する看護師のコメント」を紹介します。