【連載】看護に役立つ生理学

第3回 低流量酸素投与システムと高流量酸素投与システムの違いとは?

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

「酸素素は5L、マスクで流して」「吸入酸素濃度は50%」「血液ガスの酸素分圧100mmHg」--。

酸素という同じ気体を表すのに、「L」「%」「mmHg」といった、さまざまな単位が用いられます。日常業務で医師の指示に従うだけなら、単位なんてオマケみたいなものかもしれません。

しかし、実はこの単位を理解していないせいで、時に臨床において重大な勘違いを起こしてしまうことがあります。今回はこの「単位」を切り口にして、呼吸管理を中心とした臨床の理解を深めましょう。


【目次】


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酸素療法とは?種類・目的・適応・看護


臨床でよく行われる治療ー酸素投与

 呼吸は生命にとって不可欠な機能であり、呼吸不全は同時に生命の危険を意味します。

 肺疾患を基礎に有する場合のみでなく、敗血症や外傷などの重症疾患に伴って急性に起こるもの(急性呼吸窮迫症候群:ARDS)もしばしば問題となり、緊急の治療を要する事態が少なくありません。その呼吸不全の治療の基本となるものが、言うまでもなく「酸素投与」です。

 酸素供給設備・技術の進歩によって、酸素投与は非常に手軽に行える治療のひとつとして浸透していますが、その一方で、基本的なことを理解しないまま治療現場に接しているという不安を抱える看護師さんも多いのではないでしょうか。

 今回は、単純な具体例を通して、酸素を投与した患者さんにどんなことが起こるのか、追いかけていくことにしましょう。

臨床でよく行われる治療ー酸素投与説明イラスト

「流している酸素」と「吸っている酸素」は違う

 それでは早速、患者さんに酸素を投与してみることにします。具体例として、単純顔マスクで毎分6Lの酸素を流した場合を考えましょう。


 まず意識してほしいことは、「どれだけ流している(供給している)か」と「どんなものを吸っているか」は全く異なる、ということです。患者さんは毎分6Lの酸素を全て吸っているわけではなく、周囲の大気も吸い込んでいます

 最終的に患者さんの気道に入る気体の様子を、おおまかに見積もってみましょう。これはすなわち、酸素の「量」を「濃さ」に翻訳する作業といえますが、この両者の違いがピンと来ない人は、第7回で解説するのでじっくり読んでみてください。

マスクで酸素投与をした場合

 マスクからの純酸素が入るのは、1分間の呼吸のうち、吸気に費やした時間だけです。

 仮に患者さんの吸気:呼気の時間比を1:2(吸気20秒:呼気40秒)とすると、純酸素は毎分6Lのうち2L分しか入りません。

 いま、患者さんは呼吸促迫などには至っておらず、健常人とほぼ同じ吸気量(500ml/回)・呼吸回数(15回/分)であるとします。

 このとき、1分間に500ml×15=7.5Lの気体を吸い込むことになりますが、純酸素は2Lしか入らないので、残りの5.5Lは周りの空気で補う必要があるのです。結局、この患者さんは「2Lの純酸素と、5.5Lの空気」という混合物を1分間に吸い込むことになります。

 純酸素は100%(760mmHg)、空気中の酸素は約20%(約160mmHg)として、吸気中の酸素濃度を求めてみましょう。

計算式

 圧力でいえば320mmHg程度になります。だいたい空気の2倍になりましたが、この値は全くおおざっぱなもので、呼吸状態によっても変わりますし、またマスクに溜まった呼気(空気とは酸素濃度が異なる)も再び吸気に混入しますから、計算どおりにはいきません。

 しかし、ただ単に「毎分6L」という供給量を表面的に捉えるのではなく、それによって実際の吸気がどのような組成になっているのか、おおよそのイメージをつかむことはきわめて重要です。

吸気が増えると?-低流量投与の限界

 それでは、単純顔マスクで毎分6Lの酸素投与のままで、患者さんの呼吸が促迫してくると、何が起こるのでしょうか?

 吸気:呼気の時間比が変わらない限り、純酸素を吸う量は2L/分のまま、周りの空気を吸う量ばかりが増えることになります。つまり、単純顔マスク投与(に限らず、低流量酸素投与)では、「酸素を欲して呼吸を頑張っている患者さんほど、吸入酸素濃度が落ちてしまう」という欠点を抱えています。

 これを補ってくれるのが、ベンチュリーマスクやインスピロンネブライザーのような、高流量酸素投与システムです。

 例えば「毎分10L、35%で」といった指示を受けたとき、「10Lの35%は3.5Lだよね……、じゃあ、『毎分3.5L、100%』じゃいけないのかな?」なんて疑問を感じたことはないでしょうか? この両者は何が違うのか、考えてみましょう。

高流量酸素投与システムで、酸素を投与するとは?

 この「35%」といった値は、最終的に患者さんの吸う酸素の濃度です。つまり、先ほどの例ではあれほど苦労して推測した吸入濃度を、高流量システムでは希望の値に指定できるのです。

 その秘密は「高流量」にあります。ただし、これは酸素を何十リットルも投与できるという意味ではありません。純酸素とマスクとの間に装置を設けて、わざと大気を混入させ、その合計が高流量、という意味です。

 何のためにそんなことをするのかというと、患者さんは顔の周囲の余計な空気を吸わなくて済む、というメリットがあるからです。

 つまり、低流量で大気混入の不安定さに悩まされるくらいなら、初めから大気を混ぜてやって、こちらで酸素濃度を管理してしまえ、というのが高流量システムの発想です。

 これを実現するために必要な混合気の流量は、だいたい60L/分、最低でも40L/分は欲しいところです。これは患者さんの1分間の吸気量よりもはるかに多い量ですが、吸気の「最大風速」の瞬間にも大気の混入を防ごうと思うと、これくらい必要なのです。

40L/分で考えてみよう

 ここでは、最低ラインの40L/分で、35%の吸入酸素濃度を実現する方法を考えてみましょう。

 下図のような天秤で考えれば、35%のところを支えて釣り合うように、合計40L分のオモリを左右両端に配分してやればよいのです。すると純酸素7.5L、大気32.5Lとなります。そこで、35%を指定する際には、純酸素の流量を最低でも7.5L/分に設定すればよく、あとは自動的に大気が混入して希望の濃度が実現されます。

 「10L・35%」で計算すれば大気混入は約43L、合計53Lとなり、余裕をもたせた指示であることが分かります。

 これを「3.5L・100%」と設定してしまうと、単純顔マスクで3.5L/分で流しているのと同じ状態になり、高流量システムのメリットは全く失われます。

 もちろん、吸入濃度は100%に遠く及びません。高流量システムでは、「はじめに酸素流量ありき」ではなく、まず希望の酸素濃度を指定し、そのために十分な流量を確保するのだ、という捉え方が必要です。ここにも「量」と「濃さ」の違いの重要さがよく表れています。

高流量システムで吸入酸素35%を作る場合の考え方説明イラスト

 高流量システムで吸入酸素35%を作るには、このように考えていきます。

(「ナース専科」マガジン2010年7月号より転載)

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