【連載】ケースで考えよう!看護倫理レッスン

【看護倫理・事例】第8回<解決編>マンパワー不足により発生した看護師のジレンマ

解説 児玉美由紀

北里大学病院 がん看護専門看護師

解説 青柳明子

北里大学病院 科長

解説 高野春美

北里大学病院 8B病棟 係長

日々の看護のなかに意外に多く潜んでいる倫理的問題。それらの解決のためには、倫理的問題に気づくセンスが欠かせません。
第7回で紹介したケースマンパワー不足によるジレンマについて、フライの原則をもとに5つのポイントを確認しながら、解決策を考えてみましょう。

5つのポイント「フライの倫理原則」とは


5つのポイントでチェック

1.あなたの看護行為は、患者さんの害になっていませんか?

トイレでの排泄を目標に、上田さんにはベッドサイドでのリハビリが開始されました。
この結果、ポータブルトイレへの移乗では、上田さんに血圧低下や座位保持への不安定さがみられたことから、看護師は安全確保の点を考え上田さんのトイレでの排泄は難しいと判断しています。

しかし1カ月後、リハビリの成果が出て、上田さんは端座位が可能になり血圧も安定したため、看護師は再度、トイレでの排泄にトライしてみることを決めました。
その際には、何人の看護師が必要であるかを検討し、それぞれがどのような役割を担うのかを事前に見極めています。
また実際に上田さんをトイレに移動する際には、必ず3人の看護師を確保してから実施しています。

さらに、トイレ移乗にあたっては、座位の保持が不安定で、かつナースコールを押せない上田さんのために、排泄中も看護師がカーテン越しにトイレの前で全員待機しています。

これらは、患者さんのプライバシーを確保しつつ、いつでも助けられる最低限を見極めた距離といえるでしょう。
以上のことから、看護師として患者さんの安全を守る意識はしっかりと保たれており、害を避ける行動はとられていたということができます。

ただ、トイレへの移動のタイミングは、上田さんの排泄ニーズに合わせることができず、看護師側が人数を確保できるタイミングによって決定されてしまいました。
患者さんが納得していたとはいえ、自分のニーズに合った排泄介助を受けることができないという点で、看護師の対応はベストとはいえなかったでしょう。

2.あなたは看護師としてきちんと役割を果たしていますか?

リハビリが導入された当初、上田さんの座位は不安定であり、移乗に伴う血圧低下や気分不快などの症状もみられたため、「トイレに行きたい」という上田さんのニーズを叶えることは困難と判断されました。
しかし、リハビリの結果、端座位がとれるようになり、気分不快も起こらなくなったことから、

  1. 「やっぱりトイレに行ってみたいのよ」という上田さんの希望がきちんと拾い上げ直され、トイレ移動への再検討が図られたこと
  2. 実施の前にはアセスメントが十分に行われ、安全な方法が検討されたこと

は、患者さんの安全を確保し、ニーズに沿ったケアを提供するという看護師の役割を十分に果たしていたといえます。

さらにトイレ使用の最中にも、排泄中はカーテン越しに待機するなど、患者さんのプライバシーへの配慮がなされており、この点でも看護師は役割を果たしていたといえます。

3.患者さんに情報は正しく伝わっていますか?

トイレでの移動に関しては、

  1. 安全を確保するためには看護師が3人必要であること
  2. 3人の看護師を集めるには、日勤帯の限られた条件でしか実現できず、上田さんのタイミングに応えることができないこと

など、すべての条件は上田さんに伝えられています。

このことから、患者さんに排泄のためのケアプランに関する情報は正しく伝わっていたといえます。

ただ、もう一歩進んで、看護師として上田さんをアセスメントするならば、排尿障害や排便障害があり、導尿と下剤などによる排便コントロールを行っている上田さんにとって、トイレに座ってもスッキリと排便できない理由は、がんによる膀胱直腸障害かもしれません。

しかし、この可能性について看護師は、上田さんに伝えてはいないことから、すべての情報が正しく伝わっていたとはいえない可能性があります。

4.患者さんは自分のことを自分で決められますか?

上田さんの生理的なタイミングに合わせることはできませんでしたが、タイムリーな援助が難しいという条件を納得したうえで、上田さんは「トイレに行きたい」と自分で決定し、看護師に伝え、実現されています。
したがって、上田さんは自分のことを自分で決めることができていたといえるでしょう。

5.あなたはどの患者さんに対しても、公平で平等でいますか?

看護師が、上田さんの希望する生理的なタイミングに応えることができないのは、他の患者さんへの対応が手薄になってしまう影響を考えてのことであり、これは看護師がどの患者さんに対しても、公平・平等であろうという意識の表れであるといえます。

ただし、たとえ人手が多い日勤の時間帯を選んで集まったとしても、一度に3人もの看護師が一人の患者さんにかかわれば、残された看護師には必ず負担がかかります。
場合によっては、ナースコールを押す他の患者さんを待たせてしまうこともあるかもしれません。
また、3人の看護師が揃うまで、上田さん自身をも待たせることになるでしょう。

このように考えると、この状況は、すべての患者さんにとって公平で平等であるとはいえないでしょう。
そして今回のケースのようなジレンマは、マンパワーが不足している職場では、常に起こり得るものです。

どのように対応をすればよかったのか

努力したが、患者さんの満足を得ることが出来なかった

マンパワーが不足しているという現状のなかで、看護師たちは精いっぱいに努力し、役割を果たそうとしていましたが、上田さんは満足を得ることができませんでした。
このことが看護師たちのジレンマに影響を及ぼしたようです。

つまり患者さんの生理的要求に合わせてあげられない悔しさと、満足感をもってもらえなかった残念さが重なり、より強くマンパワー不足を感じてしまったのでしょう。

チームで話し合う必要があった

上田さんにはもともと排便障害があり、たとえタイムリーにトイレに座ることができても、膀胱直腸障害のためにスッキリとした排便はできなかったかもしれません。
そう考えると、特に今回のケースでは、看護師の意識が「患者さんをトイレに連れていく」という点だけに向いてしまっていることが気になります。

たとえ患者さんに満足感が得られなかったとしても「残念だったね」で終わらせず、結果をアセスメントし、これからの排泄ケアにどのようにつなげていくかを、チームで話し合う必要があったでしょう。

例えば、トイレに移動できる看護師側のタイミングに合わせた下剤の使用や浣腸との組み合わせ、下剤の種類の変更など、ニーズを引き出す努力はなされていたでしょうか。
得られた結果を無駄にせず、次のケアにつなげていくと、さらに違った成果を引き出せたかもしれません。

日本はまだ圧倒的に看護師不足

欧米に比べて、日本はまだ圧倒的に看護師不足といわれます。

人手不足だからとケアを諦めたり、潰れてしまうような負担を個人が背負うのではなく、現場にかかわる全員でケアの価値を共有し、チームで負担を分担したり、家族の協力を得る、また今回の事例のように視野を広げて次のプロセスにつなげるなど、方法を模索していくことが大切です。

今回のケースの結果

上田さんのトイレ移動について、チームでもう一度話し合った結果、「トイレに行きたい」という上田さんのニーズばかりに意識が向いてしまい、継続的に上田さんの排泄について考える視点が欠けていたことに気づきました。

そこであらためて担当看護師が、上田さんの身体アセスメントを行い、生活プランのなかに排泄ケアを組み込んだ看護計画を立案し直しました。

また、今後も上田さんへの排泄の援助にあたっては、必ず3人の看護師の協力が必要になることから、上田さんにとって、トイレでの排泄がどのような意味をもつか、その意味と価値とをチームで共有することで、その後も3人による排泄援助が実行されました。

【応用レッスン】患者さんが一人になると不安が高まるケース

今回のケースのように、マンパワーの不足によるジレンマに陥りがちなものとして、不安の強い患者さんのケースなどがあります。

看護師がそばにいれば落ち着いているのですが、一人になると寂しさや不安からナースコールを頻回に押したり、痛みを抑える薬に頼る傾向になりがちです。
看護師はずっと患者さんのそばにいてあげたいと考えますが、実行できずにマンパワーの不足をジレンマとして感じがちです。

今回のケース同様、どのようなケースでも、家族の手を借りる、チームでできることは何かを検討する、さらに視野を広げた対応はないのかなど、患者さんにベストな方法を考える姿勢が大切なのです。

(『ナース専科マガジン2009年2月号』より改変利用)

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