【連載】不安定な血糖値はこうしてコントロール!

【術後】血糖コントロールの実践方法

解説 松田昌文

埼玉医科大学総合医療センター 内分泌・糖尿病内科 教授

【目次】


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【糖尿病】血糖コントロールの指標と方法


ケアのポイント

 1. 糖尿病の有無にかかわらず高血糖
 2. 心臓血管手術では必要インスリンの量の変動に注意
 3. 消化器手術では食事量に応じたコントロールが必要
 4. スケールを使用する場合も血糖測定が重要
 5. 退院後のコントロールにも配慮

【「術前」についてはこちら】
* 【術前】血糖コントロールの実践方法

どんな異常が起こる?

 侵襲の少ない小手術以外、術後の血糖値は高めになります。手術侵襲によってカテコラミンやステロイドホルモンなどのストレスホルモン、組織の破壊や炎症などによるサイトカインなどが分泌されるためです。

 これらのホルモンが、血糖値を上昇させ、インスリンの働きを阻害します。さらに、手術の創や炎症による痛みもストレスとなり、血糖値を上昇させます。

 術後高血糖は、糖尿病の基礎疾患がなく、術前に明らかな高血糖がない人の場合も生じます。特に、インスリンを分泌する膵臓の全摘術、あるいは膵体尾部切除術を行った後は、当然高血糖となり、糖尿病に対するのと同様の治療が必要になります。

 血中からの糖の取り込みの役割を果たす肝臓や骨格筋を切除するような手術でも、切除によりインスリン抵抗性が高まり、耐糖能が悪化することがあります。

 また、整形外科手術では、術後間もなく実施されるリハビリが、運動療法のような効果をもたらし、逆に低血糖のリスクとなる場合があります。

 血糖値の高い状態が続くと、白血球遊走能の低下により、縫合不全や創傷治癒の遅れが高まるので、インスリンを用いた積極的な血糖コントロールが必要です。

どうやってコントロールする?

心臓血管手術の場合

 手術の中でも、血糖値が著しく上昇します。心臓のバイパス術よりも、心臓自体を侵襲する心臓弁膜置換術などは、術後500~600mg/dlと著しく血糖値が上昇することもめずらしくありません。

 この場合も、血糖値に応じてインスリン投与を行いますが、インスリンの必要量が急激に増加したり、低下したりすることがあるので注意が必要です。

 また、人工心肺の使用による機能低下を補うためにカテコラミンを投与すると、急激に血糖値が上がることが知られています。この場合は、血糖値が上がってからインスリンを注入しても間に合いません。あらかじめインスリンを準備しておき、症状が出る前にインスリンを注入し血糖コントロールを行う必要があります。

 基本的には静脈からインスリンを注入しますが、皮下注射による場合は、超速効型インスリンで補正します。脳浮腫に対応してグルカゴンやコルチゾールを使用する場合も同様です。

 術後の血糖値は、一般的に140〜180mg/dl程度とゆるめの目標となります。術後に病棟で血糖管理を行う場合、特に心臓手術後の血糖管理は、「POCT(院内用グルコース分析装置)」などのように、精度のよい血糖測定器で測定することが条件です。

 心臓手術では、インスリン分泌が正常な人は、抜糸するころになると炎症も治まり、血糖値が下がり、インスリンの投与量も減ってきます。

 その後はインスリン製剤にするか、経口血糖降下薬またはGLP-1受動体作動薬の皮下注射薬にするかを検討します。ただし、インスリン依存の糖尿病患者さんは、インスリン製剤が必須です。

 続いて消化器手術の場合と、術後の復食期の場合について解説します。

消化器手術の場合

 術後、消化管障害が大きい場合は、食べられない期間が長くなるので、中心静脈栄養となることがあります。その場合、基本的には速効型インスリンを経静脈的にシリンジポンプで注入します。そして血糖値をモニターしながら、低血糖に対する補正をしていきます。

 ある程度回復してくると、中心静脈栄養から経管栄養に切り替わります。経管栄養では、栄養製剤の注入とインスリン投与にそれぞれ時間がかかり、低血糖を起こす危険もあります。ですから、インスリンは経管栄養の直前に皮下注射します。もし低血糖になった場合は、ブドウ糖を注入します。

術後の復食期の場合

 術後は患者さんの食欲によって食事量がまちまちで、食事内容によって摂取カロリーも変化し、血糖値が不安定になりがちです。そのため食事摂取が安定するまでは、超速効型インスリンの食直後皮下注射による血糖コントロールを行います。

 そのためには、食事の摂取量の把握が重要です。食事量は全体量ではなく、あくまでも主食、つまり炭水化物の摂取量で調節し、「ほとんど食べた(7割以上)」場合は全量のインスリン量を、「半分ぐらい食べた(3~7割程度)」場合は半分を、「ほとんど食べない(3割以下)」場合は0単位とします。

 消化器手術では、術後、1日に5~6回の分割食になる場合もあります。その場合も主食の摂取量に応じてインスリンの量を調節します。

 局所麻酔で行うような小手術の場合は、手術当日の1~2食が中止になるだけなので、そのときどきで経口薬やインスリンを中止して対応します。ただし、1型糖尿病患者さんの場合は、基礎分泌分のインスリンは必ず投与します。

具体的にはどんな方法で行う?

 術後どのように血糖を管理するかは、「Yale大学プロトコル」や「Graphicプロトコル」など施設ごとの決まりに従います。施設によっては「スライディングスケール」を使用していることもあります。

 術後の血糖コントロールでは、低血糖を起こさないように1時間ごとに血糖値をチェックする必要があります。無理な場合は最低でも1日に3~4回の測定が必要です。

 また、食事が始まったら、血糖測定は、食事の摂取とインスリンの皮下注射の前に行います。ただし、食事摂取よりも30分以上前になると、実際に食事を食べる頃にはさらに血糖値が低下してしまい、低血糖を起こしかねません。測定は食直前にするのが望ましいでしょう。

 血糖値を測定したら、1回前の値と比較し、評価することが大切です。それをもとに次のインスリンの投与量を決定します。

 例えば、インスリン持続静注を行っている場合、現在の血糖値が130mg/dlで、1時間前の血糖値が120mg/dlなら、その差は10mg/dlなので、血糖値は比較的安定していると評価し、インスリン静注の速度は変更しません。

 しかし、1時間前の血糖値が210mg/dlなら、その差は80mg/dlなので、このままでは、次は低血糖を起こすことが予測できます。そのため、インスリン投与速度を落とさなければなりません。

 また、食事量が不安定な間は、食事に必要な追加分泌分と、血糖補正に必要なインスリン量を合計し、超速効型インスリンを食直後に皮下注射します。

 一方、点滴補液を実施している場合は、追加分泌分として速効型インスリンを混注します。この場合、安定的に基礎分泌分の補充も兼ねることになります。輸液中のブドウ糖は、一定濃度かつ一定速度で、24時間持続して投与することが望ましいといえます。

 混注するインスリンの投与量は、空腹時の血糖値に従って調節します。基礎疾患に糖尿病のある患者さんは、輸液中のブドウ糖量は5%程度の低めからスタートします。中間型インスリンや持効型溶解インスリンを投与している場合の混注輸液併用は、低血糖を引き起こしやすいので注意します。

ケアの注意点 退院後を考慮した観察・指導を

 抜糸のころをめやすに、糖尿病の患者さんは術前の薬物療法、例えば、経口血糖降下薬を服用している場合は、同じ経口血糖降下薬に切り替えていきます。

 そのため入院中にもう一度、患者さんの服薬状況を確認し、服薬コンプライアンスが向上できるような働きかけが大切になります。インスリン療法の患者さんの場合も、注射の手技を確認したり、血糖コントロールの状況を確認するよい機会といえます。

 また、禁食解除により、糖尿病患者さんが間食を食べてしまう可能性があります。患者さんには術後の血糖コントロールの大切さ、食事に応じた血糖管理が必要であることを説明し、理解してもらうことが重要です。

 一方、膵臓の手術を行いインスリン依存状態になった患者さんは、新たにインスリン療法を受けなければなりません。自己注射の手技の指導など糖尿病教育が必要になります。

(『ナース専科マガジン』2014年9月号より改変引用)

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