【連載】看護に役立つ生理学

第25回 ブドウ糖はどう代謝されるのか?

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

糖質や脂質といった栄養素についての知識は看護師にとって基本的なもののはずですが、これらが摂取・吸収されたあとの行方、つまり「代謝」については、一度は生化学で学んだことがあっても、その意義がよくわからず、無味乾燥に感じられた人も多いことでしょう。

今回はブドウ糖を中心とした栄養素の代謝について、ストーリーを追いながら理解を深めましょう。


ブドウ糖の異化過程

前回、代謝の概観をつかんだところで、主要な栄養素の異化過程をもう少し詳しく見ていきます。ここでも、ブドウ糖の異化を中心に据えて理解することで、多くのことを学ぶことができます。物質名や化学式は最小限に留めますが、それでもいくつか化学反応式が登場します。

これは記憶する必要があるからではなく、C・H・Oの原子の個数を確認してもらうためです。各原子の個数が反応前と後とで一致していることを納得しながら読み進めてください。

第一段階:解糖系(ブドウ糖→ピルビン酸)

ブドウ糖はまず、細胞質に存在する「解糖系」と呼ばれる反応経路によってピルビン酸という分子2個に変化し、その過程で少量のATPが合成されます。この間にも極めて多くの化学反応のステップが存在しますが、ここでは省略します。

ピルビン酸の分子式はC3H4O3ですが、これを2倍にしても、ブドウ糖C6H12O6に比べてHが4個足りません。これは、異化の過程でH原子はすぐにOと結合してH2Oになるのではなく、受け皿となる物質(NAD+などと呼ばれる物質)が、いったんH原子を預かっておくという方式をとっているためです。

(1)C6H12O6-→2C3H4O3 + 4H

この時点ではまだ酸素を使っていないにもかかわらず、Hを預けるだけで同時にATPが得られることを覚えておいてください。

第二段階:(ピルビン酸→アセチルCoA)

次にピルビン酸はミトコンドリアに送られ、

(2)3H4O3-→C2H2O + CO2 + 2H

という反応により、Hを2個預けると同時にCO2を1個放出します。このC2H2Oは、実際には「補酵素A」という物質に結合しているために、アセチルCoAという名でよく知られていますが、ここではC・H・Oの個数だけに着目しておくことにします。

第三段階:TCA回路

さらにアセチルCoAは「TCA回路」という反応系に導入されます。これは、ある物質がアセチルCoAを引き受けて結合し、回路を巡る間にさまざまに変化して、一周まわったら元の物質に戻ってしまうという、美しい反応系です。

回路の各過程もきわめて興味深いのですが、そこに合流したアセチルCoAが持っていたのと同じ個数の原子が回路から排出されるはずですから、ここでもその大局を見ることにします。「歯車に巻き込まれたアセチルCoAが、一周する間に粉々になって出てくる」というイメージを持つとよいでしょう。

(3)C2H2O + 3H2O-→2CO2+ 8H

この反応によって、ピルビン酸に残っていたC原子は全てCO2となって燃え尽くします。その際のOの供給源は、実はO2ではなくH2Oです。一方、Hは合計で何個預けられたことになるか、計算してみましょう。これは、(2)(3)の両辺を2倍にしておいて、(1)(2)(3)の左辺同士・右辺同士を合計し、両辺で共通するものを相殺して整理してみるとわかります。

(*)C6H12O6 + 6H2O-→6CO2 + 24H

これを見ると、1個のブドウ糖からは、途中で水分子を巻き込みながら、24個のHが預けられていることがわかります。

第四段階:電子伝達系

いよいよ、預けていたH 原子を燃やしてH2Oにする最終過程が「電子伝達系」です。この経路もまた、ミトコンドリアを舞台に複雑なステップを辿りますが、すべてまとめてしまえば

(4)24H + 6O2-→12H2O

という反応になります。その際に多数のATPが産生され、ブドウ糖の異化が完了します。この式と、先ほどの(*)を再び加えれば、本編で示した「ブドウ糖の燃焼」の反応式と全く同じものが得られます。全段階を通して産生されるATPの大半は、この電子伝達系によって得られています。

point 1

C・H・Oのゆくえに注目し、大局をとらえましょう。

嫌気的代謝と好気的代謝

ブドウ糖の異化を振り返ると、各段階でH原子が預けられて酸化を待つことになっていますが、これは最後の電子伝達系において潤沢にO2が存在することが前提となっています。激しい運動によって骨格筋が一時的に多量のATPを必要としているときなどは、需要に見合うO2の供給が追いつかないことがあります。

このような場合、せっかくHを預けてもそれを有効利用することができません。実は、ブドウ糖の代謝経路には、短時間であればO2に頼らずにATPを産生するルートがあります。このような代謝方法を「嫌気的代謝」と呼び、O2無しには反応の進まない「好気的代謝」と区別します。

最も有名な嫌気的代謝の経路は、ブドウ糖→ピルビン酸の反応と深くかかわっています。既に見たとおり、この過程はATPを産生しますが、そのためにはH をいったん預けることが必須です。

しかしO2不足では後が続かない上に、受け皿となる物質がHを保持したままでは、ブドウ糖→ピルビン酸の反応そのものが停滞します。そこでピルビン酸は、いちど手放したHを再び取り返して、ブドウ糖→ピルビン酸の反応を繰り返し起こさせることでATP を稼ごうとします。

(5)C3H4O3+2H→C3H6O3

こうしてできる物質C3H6O3 が、よく知られた乳酸です。ブドウ糖→ピルビン酸と(5)×2をつなぐと

(5)C6H12O6→2C3H6O3

という単純な反応式になりますが、これを見てもわかるように、乳酸はブドウ糖を真っ二つに分割したような原子組成をしています。

乳酸は、ブドウ糖が少しばかり化学エネルギーの坂を下り過ぎて、ピルビン酸にまで変化してしまったものを、少しだけ引き返した場所にある代謝物であると考えてください。

point 2

代表的な嫌気的代謝の経路では、ブドウ糖はピルビン酸を経て乳酸に変化します。

糖質と並び、エネルギー源として不可欠な栄養素である脂質の代謝についても見てみましょう。ここでは脂質の主たる構成要素である「脂肪酸」について考えますが、すでに述べたブドウ糖と常に比較しながら理解すれば、その特徴がよく見えるようになります。

ブドウ糖と脂肪酸

ブドウ糖と脂肪酸とでは、その分子構造に大きな違いがあり、これがエネルギー源としての性質に深くかかわっています。図のように、Cと同数のOを有するブドウ糖に対して、脂肪酸はOをほとんど持たず、C・Hの鎖が長く連なった構造をしています。

これらがいずれ燃焼することを考えれば、脂肪酸にはブドウ糖よりもはるかに燃料が凝縮されて詰まっていることが読み取れます。

一方で、この燃料の塊を燃やし尽くすには、O2を充分に用意してやる必要がありそうで、ブドウ糖のように嫌気的な条件下で一時的に燃やすという用途には不向きでしょう。また、「水と油」と言われるように、脂肪酸が水に溶けにくいのも、このHが多くOが少ない構造に起因しています。

この性質のせいで、脂肪酸を吸収したり体内で運搬したりする際に常に困難が伴いますが、それでもなお、生体はさまざまな工夫を凝らして、この極めて効率のよいエネルギー源を有効利用しています。

β酸化

脂肪酸の長い鎖は一度に酸化されるのではなく、まず手ごろな断片に切断される過程を踏みます。これが「β酸化」と呼ばれる反応で、一度につき2個のCが切り出されます。こうしてできる物質は、実はブドウ糖代謝の第二段階で登場したアセチルCoAと同じものであり、それ以降はブドウ糖と共通の代謝経路であるTCA回路に合流することになります。

ちなみに、脂肪酸の炭素鎖の長さはさまざまで、Cが偶数個のものもあれば奇数個のものもありますが、奇数個の鎖に対してβ酸化を繰り返して最後に3 炭素の鎖が残っても、別の経路を通ってTCA回路に合流できるようになっています。

脂肪酸のひとつであるステアリン酸とブドウ糖の分子構造図

脂肪酸のひとつであるステアリン酸とブドウ糖の分子構造図

※次回は、「脂質の代謝はどうなってる?」について解説します。

(『ナース専科マガジン』2012年12月号より転載)

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