【連載】Newsのツボ

就労中のがん患者のさまざな問題

解説 桜井なおみ

キャンサー・ソリューションズ株式会社 代表取締役社長 CSRプロジェクト代表 NPO法人HOPEプロジェクト理事長

働きながらがんの治療を継続する人もいます。そういった人はどんな問題を抱えているのでしょうか。今回は、がん患者さんの就労について解説します。


がん患者を取り巻く就労環境の厳しさ

2010年にCSRプロジェクト(Cancer Survivors Recruiting Project)が実施した「がん患者の就労と家計に関する実態調査」によると、依願退職、解雇、廃業、休職・休暇中など、仕事の継続に何らかの影響を受けた人が、全体の30%に上りました。

また、雇用が継続している場合でも、67%の人は収入が減少。

平均年収減少率は36%となっています。

このように、がん患者を取り巻く就労環境は厳しいといわざるを得ません。

特に、家族のため、あるいは独身で、家計を支える必要がある人にとっては重大な問題です。

「生活を切り詰めている」「(子どもの)進学を変更した」「転居した」など、がんを罹患したことによる減収と治療費による負担の増加が、家庭全体に影響をもたらしているという結果が出ています。

一方、職が断たれるということは、経済面だけでなく、精神面のダメージにもつながります。その結果、がん患者が、生きがいを奪われたり、社会的な喪失感を味わったりすることは少なくありません。

さまざまな問題

働いているがん患者は、収入面以外にもさまざまな問題を抱えています。

例えば、休暇の問題があります。

がんになると、長期にわたって治療や検査による入院・通院が必須です。

多くの人はそれらを有給休暇で賄っていますが、有給休暇を使い切ってしまったら、体調不良や不祝儀など急に休みが必要となったとき欠勤になってしまうことになります。

欠勤が続くと、場合によっては解雇の理由にもなりかねません。

もしがんであると診断されたら、就労の継続にかかわらず、まずは自分の会社に

  1. 傷病休暇(私傷病によって療養が必要な場合に利用できる休暇)
  2. 積立休暇(消化しきれない有給を積み立てて、傷病や介護、自己啓発などにのみ利用できる休暇)

がないかを確認することが大切になります。

また、しびれや浮腫などの副作用、体力の低下などによる業務面への影響もつらい問題です。

仕事の継続を望む患者は、それらを社内の人には伝えず、我慢しがちです。

しかし、そういう場合には、自分の体調に適した部署への異動を願い出たり、グッズなどで症状を緩和する工夫をするなど、対処できる方法が残されていることは少なくありません。

情報を提供してくれる場はまだまだ少ない

このようにちょっとした情報でも、知っているかいないかで、働く環境が大きく変わってくることがあるのです。

しかし、現在がん拠点病院に設置が進められている相談支援センターでも、残念ながら就労関連の問題にはまだ対応できていないのが現状です。

働く(働きたい)がん患者の相談にのって、情報を提供してくれる場はまだまだ少ないのです。

今回の事業によって、どこまで環境整備が図られるか、私たちがん体験者も後押ししていかなければならないと考えています。

看護師の支援が必要

とはいうものの、私は、がんに対する社会の理解がわずかずつですが広まってきているという感触も持っています。

私が代表を務めるキャンサー・ソリューションズ株式会社では、12年1月から本格的に求人紹介業を開始していますが、すでに6例の就業例があります。

これは、企業側からの求人があるということ。

2人に1人ががんを罹患する時代になり、経営者や社員にがん体験者が増えていることが影響しているのかもしれません。

また、がんである(がんを体験した)ことよりも、職業人としてのキャリアを重視する人も増えているようです。

このような動きを生かすには、がん患者自身がどのように生活していけるのか(いきたいのか)を、具体的に想定することが重要になります。

そしてそのためには、看護師の皆さんの支援が必要です。

就労支援に限らず、がん患者の抱える問題にもっと介入し、積極的に情報提供をしてほしいのです。

がんの診断を受け、治療方針を決定するとき、患者はさまざまな説明を受けます。

そこには、タイムスケジュールや副作用など、今後起こるであろうことについての情報は含まれています。

でも、それだけです。

それらが私たちの生活とどのように結びつき、どのような対策があるのか、ということに触れられることはあまりありません。

例えば、手のしびれが出た場合の「キーボードの操作効率が下がるため、あらかじめ仕事量を調節したほうがよい」「包丁は危険なので、食材はキッチンハサミで切る」などの対応は、ちょっとしたことですが、初めてがんを体験する患者にとっては知らないことなのです。

就労支援にしても、「仕事はやめられない」「周囲に迷惑をかけたくない」などの理由から視野が狭くなりがちな患者に代わって、看護師という職業人としての客観的な見方が、解決策を探す道につながるかもしれません。

忙しい看護師の皆さんが、時間をとることは難しいことかもしれません。

しかし、患者にとっては最も身近な存在である皆さんが、「生活者」「職業人」としての意識を持ってかかわることが、がん患者に対する支援を一歩踏み込んだものにしてくれるのではないかと思わずにはいられません。

Nurse’s Comments

●社会復帰して、元の生活に戻りたい患者さんの助けになればよいと思うが、健常者よりも何かしらのリスクがある人を避けるのが企業の心情。就労は難しい問題だと思う。(功徒 奈良県)

●子供に学費がかかるのに、化学療法でお金がかかるのでどうしたらよいかと、患者さんに問われました。その時は医療相談室を紹介し、高額医療費の制度を説明してもらったのですが、今考えれば、社会的立場やスピリチュアル面の訴えも含まれていたのかもしれません。(きゃさりん 大阪府)

●最近、がんになっても、早期発見され、社会復帰が叶うようになってきているので、カウンセラー等がいると、いろいろな意味で心強いと思います。(左近 福井県)

●就労のことまで病院がかかわらなければいけないのでしょうか。(おじょー 愛知県)

●よいことだとは思うけど、治療によって勤務できない場合のフォローを充実させることも必要なのでは。治療を優先できる社会であってほしい。(しゃち 愛知県)

●勤務している病棟では、昼間は仕事に行き、夜は病院に帰ってくるという入院患者さんがいました。仕事が生きがいの人、経済面に不安を感じている人など、仕事に対する思いはさまざまですが、患者さんがその人らしく生きるための支えとなれればよいと思います。(りん 福岡県)

●自分が入院してみてわかったが、確かにいろいろ聞いても曖昧な返事ばかりだった。専門家に相談できるのは心強い。(くぅ 千葉県)

●看護師は聴いてあげることしかできませんが、専門家がいれば、何か方法を見つけられる可能性があると思います。(SAORN 青森県)

●叔父ががんで亡くなる3カ月前まで就労していました。治療の際には休みをもらい、叔母を養いながら働くことで、金銭的不安も軽減し、社会的役割を失うことなく闘病していけたように感じています。病気や治療を受けるために働く場所がないという現状を改善することが、もっと必要だと思います。(さばまろ 兵庫県)

●企業の健康管理室に勤めています。企業側の体制が整っていればよいのですが、中小企業はなかなか厳しいと思います。医療機関だけでなく、企業にも相談対応者を置くことが、不本意な退職の回避だけでなく、スムーズな復帰につながるのではないかと思います。(魔女 兵庫県)

●復職しても結果的に退職を余儀なくされた患者さんが言っていたのは、がんの転移・再発で肉体的にもきつい上に、社会的にも見捨てられ、無駄な存在になってしまった気がして闘病する気力も失くした、ということでした。(piage77 三重県)

●仕事をしながら抗がん剤治療を受けている人にはたくさんの悩みがあると思うが、外来診療の限られた時間の中で、悩みをしっかり聞けている看護師は少ないと思う。(pooh 静岡県)

●がん拠点病院で働いている経験から、就労支援は必要だと思う。妻や母の付き添いのため、働きざかりの夫や息子が仕事を辞めたケースもありました。就労支援は、がん患者さんだけでなく家族のためにも、必要な社会資源になってくると思います。(のの 北海道)

●国民の2人に1人ががんにかかる時代です。治療と仕事との両立は当然だと思います。以前と違って治療も格段に進んでいます。が
ん患者さんへの就労支援はとてもよいことだと思います。(プリン 長崎県)

●がん治療を継続する上で、十分な社会資源が確立していない。これは、患者さんだけでなく、誰にでもかかわってくることだと思う。(angel 埼玉県)

(『ナース専科マガジン』2012年12月号から改変利用)

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