【連載】ケースで考えよう!看護倫理レッスン

【看護倫理・事例】第14回<解決編>抑制をすべきか悩んだケース

解説 青柳明子

北里大学病院 科長

解説 児玉美由紀

北里大学病院 がん看護専門看護師

解説 高野春美

北里大学病院 8B病棟 係長

日々の看護のなかに意外に多く潜んでいる倫理的問題。それらの解決のためには、倫理的問題に気づくセンスが欠かせません。

前回紹介したケース【抑制をすべきか悩んだケース】について、5つのポイントを確認しながら、解決策を考えてみましょう。

5つのポイント「フライの倫理原則」とは


5つのポイントでチェック

ポイント1 あなたの看護行為は、患者さんの害になっていませんか?

古川さんは、長時間の座位や長距離の歩行が困難であり、疼痛部位の浮腫が顕著で、自力では足を動かしにくい状態にあります。
こうした状況での一人歩行は大変リスクが高く、転倒やベッドからの転落が予測されます。

実際に古川さんは、すでに一度、夜間に転倒を起こしています。
そこで二度目の転倒を起こさないように、ナースコールオリエンテーションを繰り返し実施したり、センサーマットを敷いたことは、患者さんへの害を防ぐために正しい看護行為といえます。

しかし一方で、古川さんからセンサーマットを外してほしいという要望がありながら、夜間だけはマットを使用し続けていました。
これは、たとえ古川さんが合意したとはいえ、「自分でできることは自分でしたい」と望んでいる古川さんの意思を妨げる行為ともいえ、精神的な苦痛を与えていたとも考えられます。

また、遠慮がちな古川さんの性格や、自分が動くたびに看護師が飛んできたり、付き添ってもらわなければ歩けないことに対し、「みんなに迷惑をかけて申し訳ない」という言葉がみられたことから考えると、ナースコールを押すことさえも、古川さんのストレスになっていたかもしれません。

ポイント2 あなたは看護師としてきちんと役割を果たしていますか?

転倒・転落リスクのある古川さんに対し、ナースコールオリエンテーションを繰り返し実施したり、移動時にはナースコールをお願いしたこと、また夜間だけでもセンサーマットを使用したことは、いずれも患者さんの安全を考えた上での行為であり、看護師の役割に忠実であったといえます。

ただしこれらの行為は、ポイント1でも挙がったとおり、患者さんの安全面を重視するあまり、古川さんの「自立したい」という意思を損なったり、精神的な苦痛になっていたとも考えられます。

患者さんの安全面だけでなく、精神的なものも含めた安楽を図ることが看護師の大切な役割であると考えると、役割を十分に果たせていなかったともいえます。

確かに夜間のセンサーマットの使用については、古川さんの許可は得られており、積極的な拒否の言葉も出ませんでした。
しかし遠慮がちな古川さんの性格を考えると、自分からは、はっきり拒否を言い出せなかったのかもしれません。

このような患者さんの性格傾向も踏まえた上で、古川さんがナースコールやセンサーマットの使用をどう思っているかについて、看護師がチームの中で話し合ったことはあったでしょうか。
これがなされなかったという点では、看護師は役割を十分に果たせていなかったといえるかもしれません。

ポイント3 患者さんに情報は正しく伝わっていますか?

看護師は古川さんが転倒する前から、ナースコールオリエンテーションを繰り返し実施し、ナースコールの必要性を正しく伝えていました。
また、トイレへの歩行時に古川さんが転倒した後も、再びナースコールオリエンテーションを繰り返すとともに、センサーマットの必要性も説明しています。
また、日中のマットは外したものの、夜間にマットを敷くことについても、その必要性を説明して同意を得ています。

以上のことから、看護師たちは古川さんに必要な情報は、きちんとわかりやすく説明しており、古川さんがそれを理解していることも伺えます。
そこで患者さんに情報は正しく伝わっていたといえるでしょう。

ポイント4 患者さんは自分のことを自分で決められますか?

夜間のセンサーマットは、古川さんの同意を得て使用していました。
しかしその同意も、昼間のマットを外す条件として提示されたものであったなら、古川さんはやむを得ず受け入れていたのかもしれません。
もしかしたら本音は、日中と同様に夜間もマットを外してほしいと思っていたかもしれません。

ポイント2でも述べたように、看護師たちが安全面を重視した結果、センサーマットを使うことに対する古川さんの精神面に対し、十分に目を向けていたとはいえませんでした。
また、本音を聞く機会もありませんでした。

そこで実際には、古川さんがセンサーマットに対し、どのように思っていたのかがわかりません。
もし古川さんがセンサーマットを外してほしいと思っていたならば、古川さんは自分のことを自分で決められずにいたといえるでしょう。

ポイント5 あなたはどの患者さんに対しても、公平で平等でいますか?

この項目は、他の患者さんと比較してケアが一人の患者さんに集中したり、不足してしまったりしていないかをチェックする項目です。
ナースコールへの対応やセンサーマットの使用は、古川さんにとって必要なケアでした。また古川さんへの対応によって、他の患者さんのケアがおざなりになったこともありませんでした。
従って、どの患者さんに対しても看護師は公平で平等であったといえます。

どのように対応をすればよかったのか

大きな視野でみてみよう

患者さんの安全を守るのは、看護師の重要な役割です。
今回のケースの古川さんのように、一度転倒したことがある患者さんだったり、あるいは病棟内に他にも転倒した患者さんがいると、看護師たちの意識が、「二度と転倒をさせないように」ということばかりに向いてしまうのは無理もないことでしょう。
しかし、ひとつのことばかりに意識が集中してしまうと、他のことに気づけなくなってしまう危険性があります。

特に今回のケースのように患者さんから明らかな苦情や訴えがない場合には、看護師たちは現在行っているケアについて立ち止まって考えてみたり、患者さん側の立場から考えてみたりすることを忘れがちです。

客観的な視点をもってみよう

ただし今回は一人の看護師が、患者さんに対してナースコールやセンサーマットの使用を無理強いしているのではないかと気づき、患者さんの気持ちに目を向けることができました。
これはこの看護師が倫理的感性を持っていたことの表れでしょう。

倫理的な問題に早期に気づくためには、チーム内に客観的な視点や第三者の目を入れることをおすすめします。
客観的な視点を入れることによって、患者さんのためを思い一所懸命ケアするあまり、ひとつのことしか見えなくなってしまう状況に、多角的な視点からの気づきが生まれます。

そこで自分たちのケアについて、倫理的にチェックするためにも、定期的に他の看護チームの意見を聞いたり、時には患者さんや家族などを交えたカンファレンスを行うとよいでしょう。

今回のケースの結果

看護師は、古川さんの気持ちについてチームで話し合う必要があると考え、カンファレンスを開きました。
そして、ナースコールの協力が得られているのに、本当に夜間のセンサーマットが必要かどうかを話し合いました。
その後看護師は、話し合いの内容を古川さんに伝え、どのようにしたらよいかを尋ねました。

この結果、やはり夜間のマットは外し、ナースコールは継続することになりました。
また、「体がつらくても自分の足でトイレに通いたい」という古川さんの思いを叶えるために、ベッドサイドにポータブルトイレを置いて転倒のリスクを軽減しました。

また、今回のカンファレンスを機に、看護師たちの話し合いの内容も変わりました。
安全面ばかりでなく、患者さんの思いや療養環境についての意見が出るようになり、さらにカンファレンスも頻回に開かれるようになりました。

【番外編】安全を重視して過剰な抑制をしてしまったケース

麻薬の持続点滴により、がんの疼痛コントロール中の患者さんに、ふらつきによる転倒の危険があったため、移動時のナースコールをお願いしました。
しかし、ふらつきの自覚がなかった患者さんにはナースコールの必要性が理解できず、協力は得られませんでした。

看護師たちは、「非協力的な患者さん」として申し送りをしていましたが、ある日、あらためて転倒スコアでアセスメントしてみたところ、転倒リスクは低く、ナースコールの必要性がないことがわかりました。

このように安全を重視するあまり、過剰な抑制を強いてしまうケースがあります。同様のケースについても考えてみてください。

(『ナース専科マガジン』2009年5月号から改変利用)

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