• 公開日: 2014/1/7
  • 更新日: 2020/3/26

【連載】月刊 小林光恵新聞

月刊 小林光恵新聞【第4号】 「与薬」という言葉、どうでしょう

今月は、「小林光恵の視点 “与薬”という言葉、どうでしょう」と、「突撃! ナースの里帰り④」をお送りします。

第3回 名札の名前をもっと見やすく! はコチラ


小林光恵の視点

以前から、「与薬」という言葉がうっすら気になっていました。

「与」の部分に、ちょっと偉そうな雰囲気があるのではないか・・・と。

「与薬」は、『看護学辞典』第2版(日本看護協会出版会)でdrug administrationという英訳がつき、約800字で解説されています。

それほどにすっかり看護分野に定着しているわけですが、広辞苑には載っていないタイプの看護用語です。

ちなみに「頻回」も広辞苑には載っていません。

一方、医師・歯科医師や薬剤師が使う「投薬」は広辞苑に載っています。

投薬における役割分担はおおざっぱにわけると、

  1. 医師・歯科医師は投薬する薬剤を「処方する人」
  2. 薬剤師は投薬する薬剤を「調剤する人」
  3. 看護師は患者さんに直接に投薬を「実行する人」

となりますね。

看護師が起こす医療事故で最も多いのが誤薬ですから、「実行する人」としてしっかりと責任を持ち、適切な観察・判断・技術が必要だとして、看護界はあえて「与薬」という言葉を選んだのかもしれません。

患者に薬を投げる「投薬」という言葉は失礼なのではないかという感覚が関係していたのでは、という説もあります。

しかし、仏教用語の「応病与薬」※1が由来の「与薬」という言葉を使うことのほうが、患者さんに対して上から目線の印象をもたらすように思うのです。

応病与薬は、お釈迦さまが、衆生、つまり生きとし生けるものの能力に応じてさまざまな教法をといたことの喩えとして使う言葉です。

なので、与薬は悟りをひらいた者から悩める者に薬を与えるという意味となり、そこには完全に上下関係が生じていて、対等な立場ではありません。

その側面からみた場合、いまの時代の、看護師と患者さんの関係とはずれた言葉といえるのではないでしょうか。

また、「投薬」の「投」※2という漢字本来の意味は、単純に物を投げるというものではありません。

「お賽銭を投げる」も「花束を投げる」もそうですが、「投」は相手に敬意をはらって行うことで、投薬も、相手である患者さんに収まるように敬意をもって薬をさしだす、という行為をあらわしている言葉です。

よい結果を期待して薬をさしだすといった謙虚さも含む言葉です。

ほかに、「投」を使った言葉は、投手、投票、投稿、投球、投機などなど。

イラスト

私は、エンゼルメイク研究会を発足する際に、「エンゼルメイク」「エンゼルケア」という言葉を用いるかどうか、大いに悩みました。

「エンゼル」という言葉の一般的イメージと内容がフィットしているとは思えなかったからです。

しかし結局は、「死後処置」の次にポピュラーになっていた「エンゼル」を使うことにしました。

記号としてナースのみなさんに意味が伝わりやすいのが大事だと考えたからです。

「与薬」についても、投薬を実行する場面をさす記号として使用されれば問題はないのかもしれませんが、一考の必要はあるように思うのです。みなさまはどう思いますか?

※1「応病与薬」=病に応じて薬を調合し患者に与えること。衆生(しゅじょう)の素質・能力に応じて仏がさまざまな教法を説くことを喩えたもの。(広辞苑 第六版)

※2「投」=相手の手中に、または先方に収まるようにさし出す。(漢字源)

イラスト②

突撃! ナースの里帰り④

「突撃! ナースの里帰り」では、里帰りをテーマに、家族について、都市と地方について、ナースの人生についてなどを、みなさんと一緒に考える機会にしたいと思っています。ご意見、ご感想など、気軽にお寄せいただけたらうれしいです。

また、連載にむけて、多くのナースのみなさんにアンケートにご協力いただきました。この場を借りてお礼申しあげます。


今月の里帰りナース

前回でもふれましたが、里帰りアンケートのご協力者463名のうち、約3割の方が「時期にかかわらずあまり帰省しない」という回答でした。

実家暮らしのため「帰省はしない」という回答となった方もいるようですが、だとしても3割は私の予想を大きく上回った数です。

多くの場合、帰省先は実家です。その実家の父や母、兄弟との複雑な関係の方もいらっしゃるでしょうし、苦しい家族関係から逃れたくて「帰りたくないから帰らない」という方たちもいるでしょう。

また、帰りたいけど「帰れない」「帰らない」というパターンもあるでしょう。事情はさまざま。

私は、両親が老いるにつれ、帰省したとしても長居をしないようになりました。母が娘の私をもてなすためにここぞとばかりに張り切るため、私が自宅に戻ったあとに母は毎回必ず疲れて寝込んでしまっているということを知ったからです。

「あまり帰省はしない」という回答の3割の方の中にも、「帰りたいけど帰らない」なのかな、と思われる方がいました。今回のイラストでご紹介したいと思います。

 

今月の里帰りナースイラスト


いかがでしたか? 来月号もお楽しみに!

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