【連載】高齢者とくすり

高齢者の服薬に起因する3つのリスク

解説 秋下 雅弘

東京大学医学部附属病院 老年病科 教授


【目次】


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量・数・種類から見る、高齢者の薬物治療

 高齢者の薬物治療においては、薬物の「量」「数」「種類」のさじ加減が重要です。

 量については、加齢による薬物動態の変化により、若年成人の通常投与量であっても、過剰投与と判断されるケースがあります。これは、

 1. 代謝遅延による薬物の血中濃度の増大
 2. 腎機能の低下による半減期の延長

 などによって起こります。

 数については、6剤以上の服用で有害事象のリスクが高まるという結果が出ています。

薬物有害事象の頻度

 このように複数の薬物を併用して服用することを「ポリファーマシー(多剤併用)」と言います。

 多剤併用のいちばんの問題は、薬物相互作用です。実は薬物相互作用について調べられているのは2種類程度までで、3種類以上の相互作用についての研究や調査はほとんどありません。現在、高齢者の服薬数の平均は6~7剤なので、有害事象が起こりやすい状態と言えます。

種類

 種類については、薬剤起因性老年症候群に注意が必要です。
ふらつきや転倒、抑うつ、記憶障害、せん妄などがみられた場合は、どんな薬物を使用しているかをチェックしましょう。

高齢者の服薬に起因する3つのリスク

 高齢者の服薬に起因する3つのリスクについて解説します。

リスク1 転倒・転落

 高齢者の転倒・転落は、筋力の低下だけではなく、薬剤が原因になっていることがあります。特に、半減期の長い(3日)ソメリン®、ドラール®などは、ふらついて転倒するリスクが高くなります。

 転倒によって、骨折して寝たきりになってしまうことがあるので、半減期長い睡眠薬を服用している患者さんには充分配慮しましょう。

ふらつきや転倒を起こしやすい薬剤

 1. 抗不安薬
 2. 三環系抗うつ薬
 3. 抗てんかん薬
 4. 抗精神病薬(フェノチアジン系)
 5. 抗パーキンソン薬
 6. 抗ヒスタミン薬

 などがあります。

リスク2 せん妄

 入院直後のせん妄は、環境の変化が原因と考えられますが、それ以外は薬剤が原因となっていることが多くあります。

 せん妄を引き起こす薬剤を特定できることはまれですが、ハルシオン®はせん妄や健忘症状が発現しやすいことが知られています。夜間に症状が出やすく、高齢者だけではなく若年成人にも取り扱いに注意が必要や薬剤です。

 ニトラゼパムやフルラゼパムは悪夢の訴えが多くみられ、抗コリン薬は即時記憶や短期記憶が障害されることがあります。

せん妄を引き起こしやすい薬剤

 1. 睡眠薬
 2. 抗うつ薬
 3. 抗不安薬
 4. H2受容体拮抗薬(長期服薬により、中枢神経作用が生じることがある)
 5. 抗パーキンソン病薬
 6. 副腎皮質ステロイド薬
 7. ジギタリス製剤
 8. 抗不整脈薬
 9. 気管支拡張薬

 など多岐にわたりますが、薬剤を中止すれば1週間以内に消失します。

リスク3 抑うつ症状

 抑うつ症状は、高齢者の25%以上に見られるという報告があるほど、よくある症状ですが、入院中はさらに有病率が高まります。そのため、薬剤によって引き起こされる抑うつ症状は見逃されがちです。

抑うつ症状を引き起こしやすい薬剤

 1. 降圧薬(中枢性降圧薬、β遮断薬)
 2. H2受容体拮抗薬
 3. 抗不安薬
 4. 抗精神病薬
 5. 抗甲状腺薬
 
(『ナース専科マガジン』2014年12月号から改変利用)

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