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【連載】ケースで考えよう!看護倫理レッスン

【看護倫理・事例】第16回<解決編>恐怖心で役割を果たせなくなったケース

解説 青柳明子

北里大学病院 科長

解説 高野春美

北里大学病院 8B病棟 係長

解説 児玉美由紀

北里大学病院 がん看護専門看護師

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日々の看護のなかに意外に多く潜んでいる倫理的問題。それらの解決のためには、倫理的問題に気づくセンスが欠かせません。
前回紹介した【恐怖心で役割を果たせなくなったケース】について、5つのポイントを確認しながら、解決策を考えてみましょう。

5つのポイント「フライの倫理原則」とは


5つのポイントでチェック

ポイント1 あなたの看護行為は、患者さんの害になっていませんか?

看護師は太田さんから怒鳴られたとき、恐怖心と、同室の患者さんたちの注目を浴びた恥ずかしさなどから、その場で思わず涙を流してしまいました。
そこでこのままでは、お互いにますます疑心暗鬼になり、太田さんとの溝も深まってしまうと考え、勇気を出して太田さんに説明と謝罪をしています。
このように患者さんとの関係修復に努めていることは、患者さんへの害を防ぐ行為であるといえるでしょう。

ただし、それでもなお怒鳴られた恐怖と、また怒鳴られるのではないかという不安から、症状の確認をせずに痛み止めを渡すなど、太田さんからの訴えや希望に、言われるままの対応をするようになってしまいました。

また、きちんとアセスメントせずに痛み止めを渡せば、薬の効果がわからないまま疼痛管理を続けることになり、これは不利益を患者さんに与えていることにもつながります。

さらにもう一歩踏み込んで考えると、自然なコミュニケーションがとれない状態では、患者さんの思いを汲み取ったケアもできなくなってしまいます。
したがって自然な会話ができない状況は、太田さんに害を及ぼすことにもつながりかねません。

ポイント2 あなたは看護師としてきちんと役割を果たしていますか?

太田さんに怒鳴られたままの状態では、関係が悪くなってしまうと考えた看護師は、あらためて太田さんのところに謝罪に行きました。
怒鳴られた恐怖心や、他の患者さんの前で泣いた恥ずかしさを乗り越えて、太田さんの誤解を解こうとした行為は、看護師として患者さんとの関係修復に努めようとした結果であり、役割をきちんと果たしているといえるでしょう。

けれどこの看護師は、その後、太田さんの様子を伺いながら会話し、言われるままの対応をするようになってしまいました。
太田さんから「お前じゃ話にならない、主任を連れて来い!」と言われたことで、“私がやっても納得してくれない” と、心のどこかで思ってしまったのかもしれません。
しかし、この状態では痛みのアセスメントもできず、看護師として患者さんを客観的に観察する視点も欠けています。
患者さんの痛みに早く対応してあげたいと思う気持ちは大切ですが、看護師の役割としては不十分だといえるでしょう。

ポイント3 患者さんに情報は正しく伝わっていますか?

太田さんから怒鳴られた後も、看護師は、症状を確認したかった理由を太田さんに説明しています。
また、怒鳴られる前までは、毎回しっかり症状や薬の効果を確認していました。
これらのことから太田さんに治療や薬に関する情報は、正しく伝えられていたといえるでしょう。

ポイント4 患者さんは自分のことを自分で決められますか?

ポイント3でも述べたように、太田さんに必要な情報はきちんと伝えられていました。
これに基づき、太田さんは自分で自分のことを決め、看護師に要望や訴えを述べています。

看護師たちは、太田さんの希望や要望をチームで情報共有し、統一したケアの提供ができるように努めていました。
したがって、太田さんは自分のことは自分で決めることができていたといえます。
太田さんの希望は十分叶えられ、「主任を連れて来い」など、むしろ自分の要求を一方的に通していた様子も伺えます。

ポイント5 あなたはどの患者さんに対しても、公平で平等でいますか?

この項目は、他の患者さんと比較して、ケアが一人の患者さんに集中したり、不足していないかをチェックする項目です。

太田さんの要望は十分叶えられ、他の患者さんと比べても不公平はありませんでした。
ただし、もしも同室の患者さんなどが気を遣い、「太田さんへのケアを優先してあげて」などの言動がみられたときには、「看護師はケアの必要度をみて、優先順位を決めていますから、患者さんは気を遣わなくて大丈夫ですよ」と伝えるなど、周囲への配慮を行っていくとよいでしょう。

次ページでは、どのように対応をすればよかったのかを解説します。