【連載】ケースで考えよう!看護倫理レッスン

【看護倫理・事例】第19回<問題編>「痛くないですか?」と聞かないで!と言われたケース

解説 児玉美由紀

北里大学病院 がん看護専門看護師

解説 青柳明子

北里大学病院 科長

解説 高野春美

北里大学病院 8B病棟 係長

日々の看護のなかに意外に多く潜んでいる倫理的問題。それらの解決のためには、まず、倫理的な違和感に気づくセンスが大切です。
今回は、「痛くないですか?」と聞かないで!と言われたケースをもとに、センスを磨く練習をしてみましょう。


今回の患者さん

  1. 遠藤三郎さん(仮名)
  2. 80歳代後半
  3. 男性
  4. 白血病

遠藤さんは、糖尿病で当院を受診していましたが、さらに貧血が加わり、精査したところ白血病がわかりました。
キーパーソンは娘さん。
病名は家族の強い希望により本人に告知していません。
しばらく白血病の治療のために入退院を繰り返していましたが、ある年末に、遠藤さんは発熱・嘔吐と肺炎のため入院となりました。

このとき医師から家族には、「化学療法をしても効果の見込みは低く、急変のリスクもあります」と説明があり、これに対して家族は、「自然にみていきたい。苦しまないようにしてほしいです」と答え、化学療法はせずに症状緩和を行っていくことを希望しました。

入院当初、アセトアミノフェンで解熱鎮痛を図ると、薬の効果により遠藤さんの表情は穏やかになり、食事をとることも可能になりました。
しかし、しだいに下肢の倦怠感が増強しはじめ、遠藤さんの表情や呻吟する様子から、痛みがかなり強くなってきていることがわかりました。
そこで頓用薬として、医療用麻薬のアンペックB坐薬が開始されました。

その結果、遠藤さんの表情は和らぎ、呻吟がなくなるなど、鎮痛効果が認められました。
しかし、坐薬使用直後は眠気が強くなり、食事をやめることもありました。

遠藤さんは前回の入院時に、「入浴や食事ができれば退院」という目標が設定されていました。
そのためか、「食事ができないと退院もできない」と思っているようです。

遠藤さんは娘さんに、「薬を使えば楽になるといって、寝かせて食べさせないつもりだろう」と言って怒り、またある日は、娘さんから、「父は痛みに敏感になっているので、『痛くないですか?』『つらくないですか?』と聞くのをやめてほしいです」と言われました。

看護師は、医療用麻薬を使うためのアセスメントとして痛みについて聞いていたことが、実は遠藤さんに苦痛を与えていたのではないか、またアセスメントがしっかりできないまま、麻薬を使ってもいいのだろうかと悩んでいます。

看護師のジレンマ

医療用麻薬を使うにあたっては、使うタイミング、痛みの特徴、部位、薬の効果などをきちんとアセスメントし、評価する必要があります。
遠藤さんの場合にも、痛みの状態を把握するために、勤務帯ごとに看護師が確認してきました。

しかし娘さんから、遠藤さんに痛みについて聞かないでほしいと言われたことで、アセスメントがしっかりできないまま麻薬を使っていいのか、看護師は悩んでいます。

また、娘さんから「父は痛みに関して敏感になっている」と聞かされた看護師は、自分たちが必要だと思って行っていた痛みに関する声かけが、実は遠藤さんに苦痛を与えてしまっていたのではないかと思うようになりました。

患者さんのジレンマ

一方、遠藤さんは、前回の入院時に「入浴や食事ができれば退院」という目標設定がなされていました。
そこで、痛み止めを使うと眠くなってしまい、食事もできないことがあると、このままでは退院できないのではないかと不安を感じてしまうようです。

また遠藤さんは、看護師に繰り返し「痛くないですか?」「つらくないですか?」と聞かれることが苦痛のようです。
もしかすると、この質問によって遠藤さんは、自分の体が思うようにならない現実に直面させられているのかもしれません。

(『ナース専科マガジン』2009年8月号から改変利用)

【解決編】
* <解決編>「痛くないですか?」と聞かないで!と言われたケース

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