【連載】看護に役立つ生理学

第14回 クリアランスを理解するための大前提

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

体液バランスや腎機能を考える際に避けては通れない、「クリアランス」という概念。誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。
同時にまた、多くの人にとって、きちんと理解することの難しい、苦手意識を感じやすい事項でもあります。今回から、何だかよくわからないまま今日まで過ごした人に贈る、「クリアランス再入門」シリーズです。


【目次】


まずはこの問題を考えてみよう

はじめに、簡単な算数の問題を見てください。これが解ける人なら、クリアランスは必ず理解できます。

問題

砂糖20gのうち5gが得られたのですから、もとの砂糖水の1/4だけ取ってきたことがわかります。すなわち、

計算式

が答えになります。もう少しカッコよく解けば、

計算式②

から、

計算式③

つまり250mLとなります。ここからわかることは、たとえ取り分けた砂糖水の体積を測るのを忘れていても、そこに含まれる砂糖の重量と、もとの砂糖水の濃度がわかっていれば、体積を逆算することができる、ということです。

ナトリウム4gの意味って?

1ページ目のことをしっかり頭に入れて、生理学の話に入りましょう。ある人に対して24時間の蓄尿を行い、得られた尿を分析したところ、ナトリウムが4g含まれていました。

この数字だけを見せられて、正常なのか異常なのか、多いのか少ないのか、みなさんは何らかのイメージがつかめるでしょうか? なかなか難しいのではないかと思います。

日本人の1日の塩分摂取量は平均で11gである、ということを知っている人は、この知識をちょっと応用してみましょう。

食塩(塩化ナトリウム、NaCl)はナトリウム(Na)と塩素(Cl)の化合物であり、ナトリウム部分の占める重量は4割弱です。
すると、食塩11gに含まれるナトリウムは4.3gほどになります。これを踏まえると、「1日尿中のナトリウムが4g」というのは、標準的な1日摂取量に近い量のナトリウムを尿中に排泄したのだな、ということがわかります。

摂取量や発汗状況にもよりますが、通常はナトリウム排泄の大部分を腎が担っていますので、ひとまず「これは正常でも見られうる排泄量だろう」と察しをつけることができます。

摂取と排泄だけではなく、身体の内部にも目を向けて考えてみる

上記の考察は、ナトリウムの摂取と排泄、つまり入口と出口だけに着目したものであり、肝心の私たちの身体についてはブラックボックスとして扱いました。
そこで今度はもう少し身体の内部にも目を向けて、同じ「4g」という排泄量をとらえ直してみましょう。

ナトリウムに限らず、物質の尿中への排泄は、腎臓で血漿が処理されることによって実現されます。このことに注目して、排泄されたのと同じ量のナトリウムを、その人の血漿で用意しようと思ったら、どれだけの体積が必要なのか計算してみましょう。

これを知るためには、血漿のナトリウム濃度の情報が必要です。ここでは正常値として3.2g/L(=140mEq/L)を用いることにします。(通常、電解質濃度はmEq/L単位で表されますが、イメージしづらいため、g/L単位に換算しておきました)。
この値さえ与えられれば、前回紹介した砂糖水の問題と同じように体積を計算することができます。

計算式④

血漿でいえば何Lにあたるのか

つまり、この人は「血漿の体積に換算すれば1.25Lに相当するナトリウムを、腎から排泄した」ということがわかります。
腎以外からの排泄に目をつむれば、「血漿1.25L分のナトリウムを日々入れ替えている」と言ってもよいでしょう。
このように表現したほうが、単に「4g」と言われるよりも、排泄の動態がよくわかるような気がしませんか?

実は、この表現こそが「クリアランス」にほかならないのです。
すなわち、単位時間に排泄された物質の量をそのまま表現するのではなく、「血漿でいえば何L分に当たるか」という観点から、わかりやすく言い換えたものを、(その物質の)クリアランスと呼びます。

排泄量は「1分間」あるいは「1日間」など、時間を切らなければ定まらないので、クリアランスを表示するときも、必ず「mL/分」や「L/日」など、単位時間当たりの血漿体積で表します。

解説イラスト

「クリアランス」という概念そのものは、どんな排泄物質についても適用することができます。
しかし、クリアランスが臨床で活躍するのは、やはり腎機能の評価に用いられる「クレアチニンクリアランス」でしょう。
なぜ、この物質のクリアランスが特に重宝されるのか、それを学ぶために、腎機能の基本から見直していきましょう。

腎機能と糸球体・尿細管の関係

糸球体と尿細管の役割、濾過とは?で詳しく述べましたが、腎の排泄・調節能力には「糸球体」と「尿細管」の機能が深くかかわっています。

腎動脈に流れ込んだ血液に含まれる血漿は、まず糸球体で一部が濾過されて原尿となり、これが尿細管に流れ込んで、最終的に尿として排泄されると説明しました(下図)。

腎がきめ細かい調節能力を発揮するのは、主に尿細管の働きによるものですが、その前提として、糸球体での濾過が十分に行われていることが必要です。

解説イラスト②

1分間にどれだけの血漿をさばいているのか?

では、正常な糸球体はどれくらいの血漿をさばいているのでしょうか?
これがこのクリアランスシリーズの最大のテーマですので、そもそも腎という作業場がどのようなフローで仕事をしているのか、全体像をとらえてみることにします(下図)。

正常範囲には幅がありますが、ここでは概要をつかみやすいようにキリの良い数字で説明することにし、「およそ」という言葉も省きます。

腎機能のフローチャート

腎機能のフローチャート

糸球体で濾過されている物質のクリアランス=糸球体の濾過量なのか?

ヒトの血液は5Lであり、心拍出量は毎分5Lです。すなわち、血液は1分間で全身を巡ります。
この1分間の腎の働きを見てみましょう。

5Lの心拍出量のうち、腎動脈に注ぎ込むのは1/5、つまり1Lです。
正常のヘマトクリット値が40~50%であることを考えると、この1Lのうち、半分の500mLは血球であり、残りの500mLが血漿です。
血球はもちろん腎糸球体を通過できませんが、血漿のほうも、全てが濾過されるわけではなく、さらに1/5、すなわち100mLだけが通過して尿細管に到達します。

そして、この原尿の99%は再吸収され、わずか1mLが尿として排泄されます。

「尿は1分に1mL」という記憶法を聞いたことのある人も多いでしょう。1日は24時間(=1440分)ですから、1日尿は1.5Lとなります。糸球体濾過量のほうも換算すれば、100mL/分≒150L/日となります。

この数字はものすごい体積のように聞こえますが、もちろん同じ体液が何度も循環して糸球体を通過しているために、「のべ」の通過量として、このような値になるのです。

さて、この150L/日という糸球体濾過量と、前段で求めたナトリウムのクリアランス(1.25L/日)とを比較してみましょう。

濾過された血漿に含まれるナトリウムは、水とともにほぼ完全に糸球体を通過しています。
従って、仮にナトリウムがその後の尿細管で何の作用も受けずに排泄されたとしたら、ナトリウムのクリアランスは糸球体濾過量に等しくなるはずです。

ところが実際のクリアランスの値は、糸球体濾過量に遠く及んでいません。
これは、せっかく濾過されたナトリウムの大部分が、尿細管で水とともに回収(再吸収)されてしまうことを意味しています。
つまり、ナトリウムのクリアランスを調べても、それがそのまま糸球体濾過量を表しているわけではない、ということがわかります。

糸球体濾過量の簡便な代用品とは

それでは、どんな物質のクリアランスを調べればよいでしょうか?

その物質は、ナトリウムなどと同様にほぼ完全に糸球体を通過するだけでなく、続く尿細管以降でも再吸収されたり分泌されたりすることがほとんど無い──あったとしても差し引きゼロに近い──そんな物質でなければなりません。

この条件を満たす物質はいくつか知られていますが、その中の一つがクレアチニンです。
クレアチニンは生体の代謝物質であるため、人為的に投与する必要がなく、またほぼ一定のペースで産生されるため、その動態も安定しています。

これらの多くの利点から、糸球体濾過量と完全に一致するわけではないものの、これを知るための簡便法として、クレアチニンクリアランスが用いられるのです。

(「ナース専科」マガジン2010年11月号から転載)

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