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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第6回 あなたは、患者さんの手術直後の気持ちや経験を本当に理解していますか?

  • 公開日: 2015/7/5

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、病棟業務の中では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療上の悩みや困難さを訴えるのも勇気のいることでしょう。

そこで今回、患者の病いの語りをデータベース化しているDIPEx-Japanの協力のもと、看護師が患者に対応する上で知っておくべき患者の気持ち・考えを解説します。


術後の患者の孤独感・不安感を想像する

手術後の患者さんは身体的な苦痛を訴えることが多いですが、実は不安や孤独といった精神的な苦痛も抱えています。術創だけでなく心の傷にも気を配ることが看護師の役割です。

77歳で乳がんと診断され、左乳房切除術をうけた女性(インタビュー時83歳)

インタビュー動画

ふっと気が付いたら、腕のね、脇の下の痛みで、目が覚めて。ほんで、ちょっと目開けたんです。そしたら、妹と、嫁のお母さんや、で、嫁の顔があったんですね。

ほいで、その後、また意識がもうろうとして、あのー、集中(治療)室へ連れて行かれました。 で、皆、すぐ帰ってしまう。(集中治療室から)出てしまうんですよ。私はもっといてほしいのにな思ってね、いろいろ私がしゃべるときは皆ね。もう、最初からこう1分だけ言われとったらしいです、面会はね。

ほいで、それ、あのー、そやからすぐ出てしまうんですけど、私はもう主人のときには、ペースメーカー入れてね、そのときは、ずっとそばにおれたもんですから、同じに思ってね。何で出てしまうんやろ思てね、もうさみしくてね。心細いですから。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 乳がんの語り」より

この方は夫がペースメーカーの埋め込み術後の面会の経験があり、自分の手術後も家族がずっと付き添っていてもらえると期待していました。

この語りからは術前に集中治療室に入室することや、面会時間が限られていることを説明されていたかどうかはわかりません。特に高齢者の場合は、説明されていても当日になると思い出せないこともあるでしょう。

手術前に十分に説明すると共に、患者さんが術後の自分の状態についてどのようなイメージを抱いているのか、具体的に共有できるようにしておきましょう。

患者さんは、身体の苦痛だけでなく、手術後にとても心細い気持ちを経験しています。家族の顔を見るだけでホッとし、すこしでも穏やかに術後を過ごすことができるでしょう。ICUの環境でも、家族が長時間付き添えるように調整できるのではないでしょうか。

スタッフの働きやすさを一番に考えるのではなく、患者・家族が穏やかに過ごせる環境とルールをもう一度考え直してみてください。

インタビュー動画②

もう、その夜は眠れなくてね。苦しくて。右腕は時間的に、あのー、何て言うんですか、(自動で)血圧測ってますし。ほんで、もういっぱい管が通ってるんですよね。ほれで、あのー、自分で腰が痛くても動くことできませんし。

ほいで、もう腰は痛いし、足は痛いし、もうそーっとね、あのー、体動かして。そしたら、少し楽になったんです。

【中略】そのうちね、手術着がね、脱げてしまうんですよ。それでね、看護師さんに、ちょっと、もう上寒いから、肩、風邪引いたらいかん思てね。

(毛布を掛けて)いただいたら、今度はかかりすぎて、「あ、すみません。ちょっと、肩、下へ引っ張っていただけませんか」いうて言ったら、看護師さん、「あんた、肩まで、寒い寒いって、肩までかけるんでしょう?」って。怒られたんですわ。「どないしたらええの」言うて。それで、ちょっとだけ引っ張っていただけたらいいのになー思ったんですけど。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 乳がんの語り」より

看護師は、手術創の痛みについてはよく観察します。

しかし、患者さんは、この語りで述べられているように創痛以外に、手術中の体位、テープ・包帯による固定、点滴その他チューブ類や自動血圧計などによる体動制限などによる苦痛、腰の痛み、足の痛みなど、全身に苦痛を経験しています。

さらに、手術着の乱れや寒さなどによる安楽も妨げられています。まして、看護師のきつい言葉が心の痛みの原因になっているのはとても辛いことでしょう。

ナースの役割は患者の安楽・安全を守ることです。看護師自身が患者の苦痛の原因になることは避けてほしいです。


健康と病いの語り ディペックス・ジャパン(通称:DIPEx-Japan)

英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。

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