【連載】看護に役立つ生理学

第17回 誘導酵素と逸脱酵素とは? ALTとASTを理解しよう

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

AST(GOT)・ALT(GPT)といえば、肝機能検査の中でも真っ先に思いつく項目でしょう。両者はいずれも「酵素」と呼ばれる、生体の化学反応を助ける役割を果たすタンパク質です。

今回はこれらの酵素がどのような原因で異常値を来すのか学び、酵素そのものの生理的な機能についても理解を深めましょう。


【目次】


肝臓は生体の化学工場

肝臓は一言で言えば、「生体の化学工場」です。

食物から得られたさまざまな物質(栄養素)は、肝臓で分解され、蓄えられ、必要なものは合成されて、全身の需要に応えます(下図)。従って、これらの化学反応(代謝)に不可欠なさまざまな酵素を、肝細胞が豊富に有していることは全く不思議ではありません。

ASTやALTの場合、その活躍の場は主として細胞内ですが、そのごく一部が細胞外に漏れ出て、健常時には低い血中濃度を保っています。何らかの原因によって、この血中濃度が変化(特に上昇)すると、異常所見として私たちの目に触れることになります。

肝臓説明イラスト

このほか にもさまざまな代謝が行われていますが、すべてを理解する必要はありません。

誘導酵素と逸脱酵素

代謝にかかわるおのおのの化学反応は、生体の状況によって活性を変化させる必要があります。

例えば有害物質の血中濃度が上昇すれば、これを分解・解毒する反応を促進しなければなりません。このような調節を行う手段の一つとして、その反応を担当する酵素の量を変化させることがあり、この現象を「酵素誘導」と呼びます。

そして、誘導を比較的受けやすい酵素や、誘導が主たる原因で実際に血中濃度が上昇しているものを指して、「誘導酵素」と呼ぶことがあります。

例えば飲酒者はγ-GTPという酵素が非飲酒者に比べて高値を示すことが多いのですが、これには酵素誘導が寄与していると考えられています。

一方、臨床で目にするASTやALTの上昇の主たる原因は、酵素誘導であるとはいえません。

肝炎などで肝細胞が障害されたとき、肝細胞の膜の透過性が亢進したり、肝細胞そのものが破壊されたりすることによって、細胞内に存在していた酵素が細胞外に「こぼれ出る」ことにより、血中濃度が上昇するのです。このような酵素を「逸脱酵素」と呼びます。

誘導酵素と逸脱酵素の区別は、検査所見から病態を理解する際には非常に便利ですが、実際には単純にいずれか一方が原因で上昇しているとはいい切れず、さらに別の原因(胆汁うっ滞など)で上昇するものもしばしばあります。

これらの言葉は、酵素そのものを厳密に分類する概念ではなく、血中濃度上昇の主因をおおまかに指し示す言葉だと理解しておきましょう。

どんなときに上昇するのか?

ASTやALTの正常値は、両者の間にわずかな違いがあるものの、おおむね30IU/L以下です。

前節で述べた逸脱酵素のイメージを利用して、これらが上昇する病態を考えていきましょう。

まず、激烈に肝細胞が破壊されるような病態ほど、酵素の逸脱も激しく、著明な濃度上昇を来すことは容易に想像できます。
その典型例が、急性肝炎や劇症肝炎といった急速な肝細胞壊死を来す疾患です。これらの病態では両者の値が数千(IU/L)に及ぶことも珍しくありません。

これに対し、慢性肝炎や急性肝炎の回復期では、比較的ゆるやかな上昇(数十~数百IU/L程度)がみられます。

また肝硬変・肝腫瘍・胆道閉塞など、慢性的な肝障害においても同様の上昇が認められます。

ここで注意しておくべきことは、AST・ALTに限らず、一般に逸脱酵素の値の推移病状を必ずしも反映しないという点です。たとえ病状が改善していなくとも、肝細胞壊死が著明に進行し、「もはや酵素が新たにこぼれる余地もない」ような事態に至れば、検査上の値は低下を見ることになります。

臨床症状に反してこのような低下が見られた場合には、むしろ深刻な予後をも考慮する必要があります。
この他、脂肪肝によるALT優位の軽度上昇がしばしば経験されますが、なぜそのように上昇するのか、詳細はわかっていません。

AST・ALTの機能がわかればアミノ酸代謝がわかる

AST・ALTは、臨床的には逸脱酵素としての特徴が利用される場合がほとんどです。

実際のところ、これらの酵素の生理的な機能について深く勉強しても、異常値をきたす病態の理解にはなかなか結びつきません。

とはいえ、医療従事者としては全く知らないというのも後ろめたい話です。実はAST・ALTの機能を学ぶことで、「そもそも肝臓は何をしているのか」という、知っているようで知らない、肝機能の一端を垣間見ることができます。

肝臓が代謝する物質は多岐にわたりますが、とりわけ、タンパク質の構成要素であるアミノ酸の代謝は重要な任務です。アミノ酸が他の栄養素(糖質・脂質など)と大きく異なる点は、窒素原子(N)を含んだ「アミノ基」を有している、ということです(下図)。
このアミノ基さえ取り外すことができれば、残りの部分は他の栄養素と共通の代謝経路に組み入れることができます。

そこで生体はまず、アミノ酸からアンモニア(NH3)という形でアミノ基をはぎ取り、さらにアンモニアを肝にある「尿素回路」に送って尿素に変え、腎からの排泄に備えます。

肝障害でしばしば脳症をきたす原因の一つは、この尿素回路がうまく働かずに蓄積したアンモニアだと考えられています。

アミノ酸であるグリシンの構造式

もっとも単純なアミノ酸であるグリシンの構造式

グルタミン酸は固有の酵素でアミノ基を遊離させる

ここで、アミノ酸の代表例として、グルタミン酸を考えてみましょう。

グルタミン酸は図1のように、固有の酵素によってアンモニアを遊離させるとともに、自身は「2-オキソグルタル酸」(以下、2-OG)という物質に変化します。

これだけ聞くと、2-OGなる物質は、グルタミン酸の残骸のような印象を受けるかもしれませんが、実はこの物質が、ほかのアミノ酸の代謝にとってきわめて重要な役割を果たすのです(図2)。

生体タンパクを構成するアミノ酸は20種類に及びますが、全てのアミノ酸がグルタミン酸のように直接アンモニアを放出するわけではありません。

いくつかのアミノ酸は、アミノ基を2-OGに渡してしまうのです。これにより2-OGは再びグルタミン酸に戻り、改めてアンモニアの遊離を待つことになります。

すなわち、さまざまな種類のアミノ酸が互いにアミノ基を「たらい回し」にしており、これらの代謝経路の合流点に位置するのが2-OGというわけです。

これにより、多くのアミノ酸代謝が最終的にグルタミン酸の代謝の問題に帰着されます。

このように、2-OGという物質は、単なるグルタミン酸の代謝物質ではなく、普遍的なアミノ基の「運び屋」として忙しく駆け回っているのです。

グルタミン酸のアミノ基の行方

図1 グルタミン酸のアミノ基の行方

ASTやALTは、アミノ酸同士のアミノ基の受け渡しには不可欠な酵素

図2 ASTやALTは、アミノ酸同士のアミノ基の受け渡しには不可欠な酵素

AST・ALTはアミノ基の受け渡しには欠かせない

ASTやALTといった酵素は、この「たらい回し」の反応に関与する酵素です。

末尾のTは「アミノトランスフェラーゼ(amino Transferase)」、つまりアミノ基を転移(Transfer)させる酵素という意味です。

ASTはアスパラギン酸(ASpartate) の、ALTはアラニン(ALanine) のアミノ基を2-OGに移すため、初めの2文字を取ってこのような名前で呼ばれるのです。

ちなみに、ASTによってアミノ基の受け渡しが起こると、2-OGがグルタミン酸(Glutamate)に戻ると同時に、アスパラギン酸はオキサロ酢酸(Oxaloacetate)という物質に変わります。

ASTはかつてGOTと呼ばれていましたが、これは2つの生成物の頭文字(GとO)を並べたものです。同様に、ALTによってアラニンはピルビン酸(Pyruvate)に変わるため、かつてはGPTと呼ばれていたのです。

ここに登場したオキサロ酢酸やピルビン酸も、単なる代謝産物ではなく、有名な「クエン酸回路」において重要な役割を果たす物質です。

AST・ALTは、これらの物質に再びアミノ基を取り戻す、つまり逆反応を起こすことも可能であり、アミノ酸の生合成に役立っています。

AST・ALTは肝臓だけに存在するわけではない!

ここまではAST・ALT異常の原因を、肝障害のみに絞って解説しましたが、実は両者とも、肝臓だけに存在するというわけではありません

特にASTは心筋・骨格筋・腎・赤血球など、全身の臓器に広く分布しています。ALTもいくつかの臓器に存在しますが、ASTと比較すると肝への局在性が高いという特徴があります。

いずれにせよ、肝以外の臓器が障害された場合にも、これらの酵素は逸脱して高値をきたす可能性があることに注意が必要です。

その代表例が心筋梗塞で、CKやLDHといったほかの逸脱酵素とともに、AST・ALTの逸脱がよく知られています。

その他、悪性腫瘍や溶血性疾患、筋疾患、急激な運動や飲酒後の一時的な上昇なども考慮すべきです。

上記の局在性の違いから、特に急性期においては、肝外性の疾患ではAST優位の、肝疾患ではALT優位の上昇が見られることが比較的多くなります。

このため、2つの値の上昇を別個に評価するだけでなく、両者の比を取ってみることも有用です。

健常時のAST/ALT比は1~2程度であり、肝炎の活動期などではこの比が低下~保たれることが多いのに対し、心筋梗塞などでは比が大きく上昇することがしばしばあります。

ただし、病期によって比が変動することも多く、肝障害の慢性期などはこの限りではありません。

(「ナース専科」マガジン2011年1月号から転載)

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