【連載】IN/OUTバランスと輸液

「周術期」への輸液療法|インアウトバランスから見る!

解説 小島 直樹(こじま なおき)

公立昭和病院救命救急センター

脱水や浮腫などの症候だけでなく、腎不全、心不全、糖尿病など、さまざな疾患の原因となるIN/OUTバランス(水分出納)。ここでは、IN/OUTバランスについて解説します。


体内ではこんなことが起きている!

周術期では手術による侵襲に加えて、その前後でさまざまな環境や状態に置かれるので、体液バランスに異常が生じます。

例えば、術前では絶飲食での脱水傾向、術後では滲出液による体液喪失などが挙げられます。

また、術後は手術侵襲や痛み、炎症、ストレスなどによって抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が亢進されることで、腎臓での再吸収が促されて尿量が減るほか、サードスペースが出現することで水分移動が生じます。

ここでは、周術期に特徴的なサードスペースへの喪失を中心に解説します。

サードスペースへの水分移動

手術による侵襲は、出血の少ない外傷と同じであり、外傷による循環血液量減少性ショックと同じような体液の喪失が起きています。

ほかにもさまざまな要因が複雑に絡んでおり、出血や創部からの滲出液、ドレーンなどによる体液喪失に加えて、侵襲に伴うサードスペースへの喪失があります。

サードスペースを厳密に定義する表現はありませんが、一般的には細胞内液や細胞外液(間質液、血漿)に続く第三のスペースという意味をもちます。

サードスペース内の水分は間質液とほぼ同じで、通常、間質液は血漿と比較的短時間で水分やナトリウムを自由に出入りさせています。

しかし、手術などの侵襲が加わると、血管透過性が亢進し、血管内から血管外に間質液が貯留して、その水分はなかなか血管内に戻ることができなくなります。この水分が貯留した部分がサードスペースで、体内では浮腫、腸管壁や腸管膜のむくみ、胸水、腹水として現れます。

サードスペースを器と考えると、その大きさは手術の侵襲の度合いによって異なります。

サードスペースの水分は、侵襲の解除とともに、術後では2~4日程度で血管内に戻ります。すると循環血漿量が増え、その結果、尿量も増えるなど体液バランスに影響が生じます。この時期を「利尿期(refilling)」といいます。

周術期には輸液でこう補正する!

周術期とひとことで言っても、定期手術と緊急手術では前提が大きく異なります。

定期手術は術前の状態が安定していますが、緊急手術では術前の食事が取れていなかったり、出血多量の状態であったりで、バイタルサインが崩れていることも多く、その分侵襲が大きくなります。

また体液のバランスは、手術の大きさや侵襲度でも大きく異なります。

例えば、食道がんでは開胸や開腹などで術野が広範囲に及ぶので、術野からの水分の蒸散、侵襲に伴うサードスペースへの水分移動があり、必要な輸液量がかなり多くなります。

一方、腹腔鏡手術は開放創が小さく侵襲度も低いため、水分の蒸散が少ないだけでなく、サードスペースへの水分移動も少ない分、輸液量も少なくて済みます。

サードスペースに移行するのは細胞外液なので、サードスペースの水分移動が生じて血管内脱水に傾く場合は、原則として細胞外液補充液(等張液)を用います。

また、ドレーンから排出されるのも体液であり、ほとんどが細胞外液に近い電解質組成なので、輸液でその分を補正するという考え方が基本になります。

さらに、水分喪失に対してADHが亢進する傾向があるので、ナトリウム濃度が低い低張液を使用すると、低ナトリウム血症に陥りやすいために、特に侵襲度の高い手術の術後には、細胞外液補充液を用いるのが妥当でしょう。

怠るとコワイ!輸液管理のポイント

◆輸液管理で大切なのは、利尿期です。サードスペースが大きいほど、利尿期を迎えるまでにより多くの輸液が必要になりますが、その分、利尿期には多くの水分が尿やドレーンからの排液として出ていきます。体外に排出される水分の量をしっかりカウントしておくことと、水分がどこから出ているのかを確認しておくことが大切です。

◆利尿期には尿量が急激に増加し、バランスシートではマイナスバランスとなります。そのときに心機能や腎機能が十分であれば、大量の尿を産生することができますが、心臓や腎臓の機能に問題がある場合は、うっ血性心不全に陥る危険があります。利尿薬による補助が必要になります。

◆術後の水分出納にかかわるホルモンとしてカテコラミンやコルチゾール、ADH、アルドステロンなどがありますが、鎮痛によってストレスを回避することで、不要なホルモン分泌を抑制できるので、術後管理を行ううえで鎮痛は非常に重要です。

◆喪失した体液を補充するために、周術期に大量の低張輸液が投与されると、医原性に低ナトリウム血症を生じ、頭痛や錯乱、昏迷などの症状が出現する場合があります。

(『ナース専科マガジン』2015年6月号から改変利用)

ページトップへ