• 公開日: 2014/1/6
  • 更新日: 2020/3/26

【連載】泣いて笑って訪問看護

第6回 『笑いの中に摘便あり』―訪問看護の利用者様から学ぶ排便完了サイン

医療の場が在宅へと比重が高まるものの、まだまだ知られていない訪問看護。ここでは訪問看護の実際について、エピソードを通じてご紹介します。


たかがお漏らし、されど・・・

『便失禁』という言葉を聞いた時、どう思われるだろうか?

別にたいしたことじゃない、すぐにオムツを替えればいいことではないかと思われる方もいるかも知れない。

しかし、頚髄損傷などで意識的に排便をコントロールできない方にとって、便失禁をしてしまうということは、外出への恐怖にさえ繋がる。

想像してみてほしい。 “自分の知らない内に外出先で便が出てしまったら・・・”

自分も恥ずかしい上に、相手にも迷惑をかける。 臭いも気になるため、すぐにでもその場を立ち去りたい。 そういう不安が押し寄せてくるのではないだろうか。

そういう意味でも、排便コントロールは神経麻痺の方にとって非常に重要なのである。

そのため、ほとんどの利用者様が、決められた曜日にどれだけしっかり便を出し切れるかということに、とても気を遣われている。

看護師と相談しながら食べる物を工夫したり、摘便の途中で水分補給をするタイミングを変えてみたりと、その方法はさまざまである。

そんな中、便の出切りのサインを自ら分析し、看護師とヘルパーと連携を組んで、確実に排便を終わらせるという方法を編み出された利用者様がいる。

20代での交通事故で頚髄不全麻痺となられた方であるが、その方は実に御自身の身体を勉強されているのである。

「今、どこを押したら便が出てきましたか?」

「便の性状は液体になってきました?」

「今どんな臭いがしてますか?」・・・

看護師とヘルパーの協力のもと、長年の経験からこの利用者様が編み出した出切りのサインは以下の4つだそうだ。

  1. 便汁が透明になること
  2. 便臭ではなく消化液の甘い臭いに変わってくること
  3. 肛門内壁の触った感じが片栗粉を混ぜたようなキシキシした感じになること
  4. 内肛門が閉まっていること

当然ながら、利用者様本人は手の感覚や動きが思うようにできないため、摘便中は医療者に身を委ねざる得ない。そのため自分では排便状況はわからない。

すべては、摘便を実際にしている看護師やお腹のマッサージをしているヘルパーに情報を貰いながら、司令塔のように分析し、判断されていくのである。これは本当に素晴らしい連携プレイと言えるだろう。

うちの社長も、その利用者様のケアに長年寄り添い、摘便に関わってきた 。そして今もなお、現役でケアを行なっている。

「出て参りました〜!!まあ〜沢山ですこと!!素晴らしい!!」

便が出てくると、社長は本当に嬉しそうに叫ぶため、いつも利用者様は笑ってしまうとのこと。 しかし、便がしっかり出ることがいかに素晴らしいことかを実感している社長だからこそ、叫んでしまうのではないだろうか。

「利用者様から学ばせていただくことは本当に多く、感謝の気持ちでいっぱいです。訪問の仕事ができる幸せ。もったいなくて休んでなんていられません!」と以前社長が話していた。やはり、社長は看護師になるべくしてなったのだなと感じている。

社長には追いつけないかもしれないが、私もいつまでも感謝の気持ちを持って、この仕事を続けていけたら幸せだなと思っている。

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