【連載】看護に役立つ生理学

第21回 貧血の指標となる赤血球数(RBC)、ヘマトクリット(Hct)、ヘモグロビン(Hb)の基礎知識

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

採血検査を行えば必ずと言ってよいほど測定される血算。その中には、貧血の指標となるものだけでも、「赤血球数」「ヘマトクリット」「ヘモグロビン濃度」と、いくつもの項目が存在します。これらのどれ1つが低下しても「貧血」と総称して間違いではありませんが、それぞれの値には異なった意義があります。

この違いに少し目を向けるだけで、貧血の患者さんの体の中でどのようなことが起こっているのか、より深く理解できるようになります。


【目次】


貧血の指標となる検査項目

まずは3つの検査項目について基本的なことを復習しましょう。

赤血球数(RBC)

単位体積の血液に含まれる赤血球の個数です。通常は1μLあたりの個数で表されます。μL(マイクロリットル、百万分の一リットル)というとずいぶん小さな体積のようですが、一辺が1mmの立方体の体積(1mm3)と同じですから、肉眼でも十分見える大きさです。しかし、そこには何百万という赤血球が詰まっています。

ヘマトクリット(Hct)

血液を遠心分離すると、血漿成分と血球成分に分かれます。このうち血球成分が血液全体に占める体積の割合をヘマトクリットと呼びます(hemato-は「血」、-critは「分ける」といった意味です)。

定義上はすべての血球の体積を合計したものを考えますが、実際には赤血球の体積と考えても大差ありません。%(パーセント)で表されるために意識されにくいことですが、単位を丁寧に書けば「μL血球/μL血液」であり、「血球」と「血液」の区別が極めて重要です。

ヘモグロビン(Hb)

単位体積の血液に含まれるヘモグロビンの質量(重さ)です。通常はg/dLで表され、こちらも分母は(血球ではなく)血液の体積です。また、体積の単位がRBC値の場合とは異なることに注意してください。あえて揃えるならば、例えば15g/dLは0.15mg(=150μg)/μLと同じことです。

正常値の一例として(RBC)500万個/μL、(Hct)45%、(Hb)15g/dLという値を考えます。これらはいずれも「濃度」を表す値ですが、「血液1μL」という舞台で考えるならば、そこに500万個の赤血球が、合計で0.45μLという体積を占めており、また合計で0.15mgのヘモグロビンを含有している、という「量」の問題として捉えることもできます。

このように考えれば、RBCが「個数」、Hbが「質量」を表すのに対応して、Hctも単なる割合にとどまらず「体積」という次元を持つことに注意してください。特殊な状況(血漿成分が著明に増加して希釈されている場合など)を除けば、これらの濃度値の低下は、絶対量の低下を意味していると考えて構いません。

3つの検査値を比較して病態を把握する

そもそも貧血が問題となるのは、酸素運搬量が低下するからであり、それを直接左右するのはヘモグロビン量です。従って、貧血そのものがもたらす深刻度の指標としてはHb値が最も重要です。

しかし、そのヘモグロビンの活躍の場である赤血球の個数や体積の情報を加味することで、病態把握、特に貧血の原因を探るのに役立てることができます。

そのためには、値を個別に見るだけではなく、その低下の度合いを比較する観点が重要になります。

ここでいう「低下度」とは測定値そのものではなく、正常値に対する比、つまり「何割くらい減ったか」ということです。

正常値にはもちろん幅があり、男女差や検査施設による差もありますが、このシリーズでは前述の正常値の一例(500万/μL、45%、15g/dL)を基準に考えることにします。

貧血の患者さんが健常時にこの値であったという保証もありませんので、この「正常値」はあくまで説明のための便宜的なものです。

低下度のパターンとしてはさまざまなものが考えられますが、代表的な3つのタイプについて見ていきましょう。

代表的な検査値のパターン

[A] RBC低下≒Hct低下≒Hb低下

代表的な検査値のパターン( RBC低下≒Hct低下≒Hb低下)

3つの値がほぼ並行して低下しているタイプです。造血障害によって赤血球の産生量が低下したり、出血や溶血によって赤血球が失われてしまう病態の多くが、このタイプに該当します。

値がほぼ並行しているということは、全体を見れば低下が明らかですが、互いの比は変化しておらず、個々の赤血球に着目すると異常が隠れてしまうことを意味しています。と言われてもピンと来ないと思いますので、低下度が解離する以下のケースと比較してみましょう。

[B] RBC低下>Hct低下≒Hb低下

代表的な検査値のパターン(RBC低下>Hct低下≒Hb低下)

RBCの低下が最も顕著で、HctとHbの2者が互いにほぼ並行して低下しているタイプです。いま、RBCとHctに着目して、この解離が何を意味しているのか推理してみてください。

既に強調したように、Hctは1μ邃東潔t中の赤血球の「総体積」です。単純に考えれば、赤血球の個数と総体積は比例するはずです。

ところが個数の減少から期待されるほど総体積が減少していないということは……1つ1つの赤血球のサイズが通常よりも大きくなっているに違いありません。

このタイプの貧血は、赤血球の産生に必要な栄養(ビタミンB12や葉酸など)欠乏によることが多く、骨髄における細胞分裂が不十分となるために、体積の大きい赤血球が末梢に現れるのです。

[C] RBC低下<Hct低下<Hb低下

代表的な検査値のパターン(RBC低下<Hct低下<Hb低下)

RBCよりもHctのほうが、さらにそれよりもHbのほうが低下が激しいタイプです。

臨床的な貧血症例の大半を占める鉄欠乏性貧血(特に重症例)は、このタイプになります。詳しいメカニズムは後述しますが、ここではヘモグロビンの原料として不可欠であることと結びつけて理解してください。

またRBCとHctの関係が[B]とは逆ですので、個々の赤血球の体積は正常よりも小さくなっていることがわかります。

低下の程度をもっと簡単に比較するには?

ここまで、検査結果を素朴に眺めて貧血をタイプ分けしましたが、値が得られるたびに低下の程度を比較するのは煩雑であり、根本的なメカニズムも見えてきません。

そこで、値同士の比を計算しておくことで、その解釈が容易となるように考案されたのが「Wintrobe(ウィントローブ)指数」です。

重要なことは、これらの指数は単なる計算値ではなく、それぞれに意味を持っているということです。

以下では、Wintrobe 指数の持つ意味に注目しながら、貧血の各タイプがなぜあのような低下パターンを呈するのか、追究してみましょう。

MCV(平均赤血球体積)=Hct ÷ RBC

すでにタイプ[B][C]で触れたとおり、Hctの低下度とRBCの低下度に解離が生じるのは、個々の赤血球のサイズが変化していることを意味しています。

そこで、Hct(総体積)とRBC(個数)から、赤血球1個の平均体積を求めてしまうのが合理的です。

例の正常値を用いれば、これは500万個の血球の総体積が0.45μLということですから、1個あたりの体積は、0.45μL÷5,000,000=0.00000009μLとなります。

これではあまりに煩雑ですので、μLの十億分の一の体積を表すfL(フェムトリットル)という単位を用いて、「90fL」と表記します(下図を参照してイメージを深めてください)。

このように赤血球の体積は計算で求めることができますが、よく考えてみれば「まず個々の赤血球の体積があって、それを合計したものがHctである」と理解するほうが、話の順序としては素直かもしれません。

実際、最近では赤血球の観察像から直接MCVを測定し、HctのほうをMCV×RBCによって算出する検査方式が多くなっています。

[A][B][C]のMCVを実際に求めてみましょう。計算の便法としては、Hct(%)の後ろにゼロを1つ付けて、RBC「★百万」の★で割ってやれば求まります。

MCVは90±10fL程度に収まるのが正常で、[A]なら300÷3.4=88.2fL(正常)、[B]は113fL(高値)、[C]は75.0fL(低値)となります。

MCV(平均赤血球体積)=Hct ÷ RBC説明イラスト
1µm(マイクロメートル)は0.001mmです。図の容器には一辺が1µmの立方体が10×10×10=1000粒詰まっていますが、その1粒(1µm3)の別名が1flです

MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)=Hb ÷ Hct

改めて(Hb)15g/dLという値の意味を考えたとき、これは「血液1dL(100mL)にヘモグロビンが15g含まれている」ということですが、実際にはヘモグロビンは血液全体に均一に含まれているのではなく、そのほとんどが赤血球の細胞内に存在しています。

(Hct)45%であれば、15gのヘモグロビンは0.45dL(45mL)の血球部分に局在しているのです。それならば、血液ではなく血球1dLあたりで論じるほうが実情に即しているのではいか、と考えるのも自然でしょう。

実際に上記の値で計算すると、15g÷0.45dL=33.3g/dLとなり、血液全体で考えた場合よりも高い値になります。

つまり、血液のどこかに本当に15g/dLの場所があるわけではなく、血球部では33.3g/dL、血漿部ではゼロに近い濃度であり、その平均が15g/dLである、ということです。

これがMCHCで、30~35g/dLという範囲に収まるのが正常です。

各タイプについて計算してみると、[A]10.2÷0.30=34.0g/dL [B]9.0÷0.27=33.3g/dLでともに正常範囲に収まっているのに対し、[C]は8.0÷0.285=28.1g/dLと低下しています。MCHCは上昇することもありますが、主として「低下しているか否か」に眼目が置かれます。

なぜMCHCが低下するのか?

このMCHC がなぜ有用なのか、それは赤血球の成熟・産生に関係しています。赤血球は、その前段階である赤芽球などの成熟過程において、ヘモグロビンを合成しながら細胞分裂を行います。

そのうちにMCHCが次第に上昇していき、これが分裂にブレーキを掛ける役割を果たして、やがて細胞核を失って末梢に現れるのです。

従って、末梢血のMCHCが低下しているということは、何らかの原因でヘモグロビン合成がままならず、目標濃度に達しないまま末梢に送り出されてしまっていることを意味します。

このメカニズムを考えれば、[C]のように、MCHCの低下する多くのケースが同時にMCVの低下を伴う理由にも説明がつきます。

すなわち、軽度の鉄欠乏などによってMCHCの上昇が少しくらい停滞しても、状況に応じた細胞分裂が行われる結果、最終的な細胞体積を少し小さくすることによって、所定のMCHCに到達することができます。

これがMCVの低下となって現れますが、やがて病態が進むと、MCVを下げることでは対応しきれなくなり、MCHCの低下が明らかになってきます。

典型的な貧血はMCVの値を見れば分類できる

以上2つの指数によって貧血を分類するとき、MCVの値によって「(小・正・大)球性」、MCHCの値によって「(低・正・高)色素性」といった言葉が冠されます(下図)。

これに従えば[A]は「正球性正色素性貧血」、[B]は「大球性正色素性貧血」、[C]は「小球性低色素性貧血」ということになります。組み合わせを考える限り、もっとたくさんのタイプがありそうなものですが、そのすべてが臨床的に見られるわけではありません。

鑑別を[A][B][C]だけに限ることができるならば、典型的なものに関してはMCVを見るだけで分類できてしまいますので、臨床においても特にMCVの値はよく参照されます。

ただし、これらの指標は貧血をざっくりと分類するには極めて有用ですが、さらに原因を探索していく上では、他の検査所見の併用が不可欠です。

[A]は「正球性正色素性貧血」、[B]は「大球性正色素性貧血」、[C]は「小球性低色素性貧血」のグラフ

MCV、MCHCは、隣り合う棒グラフの比(右÷左)に相当し、矢印が右上がりなら高値、右下がりなら低値になります。

さらにワンポイント

MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)=Hb÷RBC

MCVとMCHCのほかに、Wintrobe指数にはもう1つ、MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)というものがあり、赤血球1個あたりが含有するヘモグロビン量を表します。

すでに述べたとおり、(Hb)15g/dL、(RBC)500万個/μLのとき、500万個の赤血球が0.15mgのヘモグロビンを有していることから、1個あたりでは、0.15mg÷5,000,000=0.00000003mgのヘモグロビンを含んでいることになります。

これまた気の遠くなるような小さな値ですが、1pg(ピコグラム)=10-12g(一兆分の一グラム)という単位を用いれば「30pg」となります。MCHの正常値は30±3pg程度です。

このMCHは、既に学んだMCVとMCHCを用いて書くこともできます。MCHCが「赤血球の単位体積あたりのヘモグロビン含量」ですから、それに赤血球体積であるMCVを掛けてやれば、MCHが求まるはずです。

正常例で求めたMCHC(33.3g/dL)の単位を換算すると0.33pg/fLとなり、これを用いればMCH=MCHC×MCV
=0.33pg/fL×90fL=30pg
と求まります。

MCHは他の2つの指数に比べると診断的価値は低いですが、貧血の軽症段階において、典型的なパターンが完成する前に変化の見られることがあります。

次回からは、クロールについて解説します。

(『ナース専科マガジン』2012年6月号より転載)

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