• 公開日: 2014/1/6
  • 更新日: 2020/3/26

【連載】泣いて笑って訪問看護

第4回 『QOLか介護負担か』―アルツハイマー型認知症の胃瘻造設

医療の場が在宅へと比重が高まるものの、まだまだ知られていない訪問看護。ここでは訪問看護の実際について、エピソードを通じてご紹介します。


治療の選択は誰にとっても人生の分岐点

在宅医療において、嚥下障害に伴い、胃瘻の造設をするか否かにの場面に直面することは多い。特に今回は本当に決断が難しい事例であった。

利用者様は65歳女性。4年前にアルツハイマーと診断。

初期の症状は近所の花を持ってきてしまう位であったが、徐々に徘徊が始まってきたため、息子さんが仕事を辞め、全面的に自宅で介護せざるを得なくなった。それでもはじめのうちはデイサービスにも行くことができていたが、徐々に動けなくなり、二年前から寝たきりに。

介護者は40代の息子さんのみで2人暮らし。姉と妹もいるが、家庭を持っていない自分が介護をするのが一番だからと全面的に引き受けている。しかし、全介助のため、息子さんは24時間365日どこにも行けず介護をしている。

息子さんを休ませるために、ショートステイも何度か試みるも、床擦れの処置が上手く行かなかったり、内服薬のミスなどトラブルが続いたため、他者に預けることに対し不信感が高まり、結局は、自分がしっかり看るのが1番安心だから…と1人で抱え込む形となってしまった。

そのため、少しでも息子さんの介護負担を減らそうと訪問看護を週5日のペースでフォロー中。

医療不信で心を閉ざしていた息子さんも、徐々に看護師には本音を話して下さるようになり、今後の治療方針についても相談できるまでになってきた。

現在、利用者様の状態は、発語がほぼ消失し、追視のみ。唸りは日によりムラがあるが多い時は一日中。唸りをおさえるための頓服薬を使用すると寝込んでしまい、経口摂取が半減してしまうため定時では使えない。

全身の関節拘縮は進み、かなり固く、多動的に動かしてやっと可動域の半分位動かせる程度。

最近は嚥下機能が低下してきて食事や水分が充分にとれなくなってきた。食べさせないと体力が落ちてしまう…でも無理にやると誤嚥させてしまう…中々進まない食事介助に息子さんがイライラすることも。

関係説明図

私の看護介入

さて、このような事例の場合、今後どのように介入すべきか―。

病状的には、この若さで嚥下機能が落ちてきているならば胃瘻造設を勧めるのが普通かと思う。 しかし、胃瘻造設は延命処置ともいえる。

このまま胃瘻造設をせず、自然な形で見守るならば誤嚥性肺炎を繰り返し、衰弱していくことは予想がつく。

その点、胃瘻を造設すれば、今のところ、特に嚥下機能以外に臓器的にも問題はないため、かなりの率で寿命を延ばせるのではないかと期待はできる。

しかし、それは同時に息子さんの介護生活がそれだけ長くなるということも意味する。

もちろん、介護生活を続けるかの決定権は息子さんにあるが、この事例、息子さんが40代であるというのが悩むところではないだろうか。

息子さんとしてできる限りのことをしてあげたいという気持ちも強いだろう。 もしかしたら、お母様の介護をすることが今の生きがいになっているのかもしれない。

しかし、もしお母様が意思を言えるならば、もしかしたら、「息子には自分の人生を歩んで欲しいから」と造設を希望されないかもしれない…。

お母様は今はもう意思の確認すらできず、それはもはや想像でしかないが…。

そんないろんな想いを考えると、胃瘻の造設が果たしていいことなのか迷ってしまうのが本音である。


今回の選択

結局、長い話し合いの末、息子さんは胃瘻の造設を選択した。

「俺は中学の時からさんざん母ちゃんに迷惑をかけてきたから、俺が今度はお世話する番なんだよ。胃瘻をしないで母ちゃんが痩せ細っていく姿なんてみたくないし、この先何年かかるかわからないけど、俺は大丈夫だよ。それが俺の人生だと思ってるよ」と息子さんは優しく笑いながら言った。

この結論に正解はない。

息子さんがそれでいいならそれが答えだと思う。

しかし、何故だか息子さんと話しながら涙が止まらなくなった。

何故涙がでるのか自分でも分からない。お母様には苦しまないでいて欲しい。でも息子さんにも大変な思い?(それは息子さんにしか分からないが)はさせたくない…。

いろんな思いが頭を巡り、何がいいのか分からずただただ涙が溢れてきた。

「なんで看護師さんが泣くの〜(笑)。ていうか、ちょっと!摘便用のトイレットペーパーで鼻かんじゃダメじゃん。ティッシュ位あげるから待ってなよ(笑)」と息子さん。

このシリアスな胃瘻造設の話し合い、実は摘便をしながら話していたため涙も拭くにに拭けず、私は涙でグズグズの状態。

ティッシュを差し出しながら

「いつもいっぱい考えてくれて本当にありがとうね」と息子さんは笑った。

こんな時、医療者は涙を見せるべきではないのかもしれない。

でも、一緒に四年間闘ってきたからこそなので、そこは許してもらえたら…と思っている。

人生の分岐点ともなるこの決断。

いろいろ思うところはあるが、息子さんが決断した以上、とことんフォローしていきたいと思っている。

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