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【連載】看護に役立つ生理学

第23回 カルシウムはどう調節されている?

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

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カルシウムは、ナトリウムやカリウムに比べれば臨床検査で測定される頻度が少ないですが、一般には最もよく知られているミネラルと言ってよいでしょう。その血中濃度は厳密に調節され、体内でさまざまな生理作用を発揮します。

また、カルシウムには他のミネラルとは異なった特色が数多くあります。今回はこのカルシウムについて、基本的な知識を身に付けましょう。


カルシウムの特徴

まずはカルシウム(以下Ca)というミネラルの特徴を、ナトリウム(以下Na)やカリウム(以下K)といった他のミネラルと比較しながら見ていきましょう。Caについて第一に挙げるべき特徴は、その「量」です。

ヒトの体にはおよそ1000g、つまりキログラムのオーダーのCaが含まれています。これは、NaやKが各々100g程度しか存在しないことを考えると、破格の量であることがわかるでしょう。

この莫大なCaのほとんどは骨に存在していますので、骨の構造について少し復習しておくことにします。

骨は骨芽細胞・骨細胞・破骨細胞といった細胞成分の他に、骨基質と呼ばれる間質成分が多量に存在し、むしろこの骨基質の海に各種細胞がはまり込んだような構造をしています。

「海」と言っても水分は1 割程度で、残りのおよそ1/3 は有機物、2/3は無機物で構成されています。

有機物の代表がコラーゲンであり、これにリン酸カルシウム等の無機塩の結晶が沈着して、骨は絶妙な頑丈さを獲得します。

もしも無機結晶の沈着が乏しければ骨の硬さは低下してしまいますが、その一方、コラーゲンを欠くと骨は弾性(しなやかさ)を失い、硬いわりに「もろい」ものとなってしまうでしょう。

無機塩の結晶が沈着しているという事実は、当然ながら、その物質が水に溶けにくいことを意味しています。

実際、骨基質に含まれるリン酸カルシウム、特にその代表格であるヒドロキシアパタイトは極めて水に溶けにくい物質です。しかしこのことは、後述するCaの消化管における吸収性にも影響を与えます。

カルシウムの特徴説明イラスト

図1 骨の細胞成分と間質成分。カルシウムはこのうちの間質成分(骨基質)に大量に貯蔵されています

カルシウムは吸収されにくい!?

前節の説明を読むだけでは、Ca の大部分は骨に静的に存在しているような印象を持つかもしれませんが、実際にはCa はダイナミックに移動しながら全体としてのバランスを保っています。

ここではCaの動態をつかむために、大まかな値でその出納を見てみましょう。実際には個人差や変動がありますので、以下はあくまで一例と考えてください。

Ca の摂取量は500 ~ 1000mg、日本人の平均は600mg 程度と言われています。

Ca は主として空腸で吸収されますが、その量は摂取量の約半分に過ぎません。この点が、摂取すれば大半が吸収されるNaやKとの大きな違いです。

これにはいくつかの理由がありますが、Ca が消化管腔内でリン酸などと出会うと、前述のように水に不溶の塩を形成してしまい、腸管から吸収できなくなってしまうことも一因となっています。

さらに、体内から消化液として分泌される(消化管に差し戻される)Ca が、吸収量のそのまた半分程度存在します。

このため、正味の吸収量は摂取量の約1/4 に過ぎず、これと同量が腎から尿中に排泄されます。残りのCa、つまり摂取量の実に3/4 程度は便中に失われることになります。

骨吸収・骨形成のスピードは?

血中のCa は、単に腸管で吸収/腎で排泄されるだけでなく、骨に貯蔵されたCa との間にやりとりがあります。

すなわち、骨に沈着しているCa はそこに永続して存在するわけではなく、その一部は血中に溶け出し(骨吸収*1)、それに見合う量の血中Ca が骨に沈着しなおす(骨形成)ことで、わずかながら常に入れ替わっているのです。

この骨吸収・骨形成のスピードは、(正味の)腸管吸収~腎排泄のスピードとほぼ同程度です。

つまり、骨から溶け出た量に相当するCa が腎から排泄され、それと同量が腸管から吸収されて、溶けた骨基質を補う、というイメージで捉えておけば大きく外れないでしょう。

水に不溶な塩であったはずのリン酸カルシウムが、骨吸収の際には溶け出すことが可能なのは、破骨細胞が酸を放出し、結晶を溶解させるためです。

こうして見ると、リン酸カルシウムという物質は、その溶解性の面において絶妙な位置づけにあることがわかります。

「水に溶けないことは骨の硬さを保つには好都合だが、それゆえに消化管からの吸収の効率が悪くなる」というジレンマや、「水には溶けないが酸には溶ける」という性質によって、「大半は沈着したままで、それでいて血中に溶け出すことも可能」という状況を実現している点に注目してください。

*1「 骨吸収」という語は、骨が血中からCa 等を吸収するのではなく、その逆の、骨の貯蔵庫から血中のほうに吸収・調達してくる作用を意味します。また、「骨」を付けないと腸管からの吸収と紛らわしくなるので注意してください。

カルシウムの動態説明イラスト

図2 カルシウムの動態。摂取カルシウムの一部のみが吸収され、骨のカルシウムを入れ替えながら排泄されます