【連載】看護に役立つ生理学

第24回 栄養素の代謝ってどういうこと?

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

糖質や脂質といった栄養素についての知識は看護師にとって基本的なもののはずですが、これらが摂取・吸収されたあとの行方、つまり「代謝」については、一度は生化学で学んだことがあっても、その意義がよくわからず、無味乾燥に感じられた人も多いことでしょう。

今回はブドウ糖を中心とした栄養素の代謝について、ストーリーを追いながら理解を深めましょう。


生体内で起こる化学反応ー同化と異化

代謝とは、広い意味で「生体内で起こる化学反応」全般を指します。生物の体を構成する原子は、生物以外の物質の原子と何ら変わりはなく、その「組み換え」である化学反応についても、本質的には無生物の世界と同じ法則に従って起こります。

しかし、生物の化学反応には、無生物には見られないような特徴が数多くあり、極めて複雑・精巧なシステムを形成しています。

この化学反応をおおまかに眺めると、エネルギーを使って物質を生合成する反応(同化)と、逆に物質を「燃やして」エネルギーを放出させる反応(異化)の2つの方向に分類されます(図1)。

同化のために必要なエネルギーは、他のどこかで起こる異化によってまかなわれることの説明図

図1 同化のために必要なエネルギーは、他のどこかで起こる異化によってまかなわれる

生体は必要に応じてさまざまな物質を同化によって得なければなりませんが、そのためのエネルギーは、他のどこかで異化が起こったおかげで調達できるのです。今回は、このうちの異化を中心に見ていきましょう。

日常会話でも「脂肪を燃やす」といった表現がなされることがありますが、栄養素が異化される過程も「燃焼」にほかなりません。もちろん目に見えて炎が上がっているわけではありませんが、化学反応式で表現すれば同じものと言って差し支えありません。

通常、物を燃やしたときは光や熱などのエネルギーが得られますが、これは何も無いところから「タダで」生じるのではなく、化学変化という代償を払っています。つまり、燃える前の状態は、燃えた後よりも(エネルギー的に)「高い」状態にあったと考えることができます。

異化によるエネルギーの発生は、このように「化学的な状態」という形で蓄えられていたエネルギーが、他の形態のエネルギーに「変換された」と表現するのが正確です(図2)。

位置のエネルギーが運動エネルギーに形を換えた例

図2 高いところで静止していた物体が坂を転がると、物体はスピードを持って運動するようになる。これは、もともと高所の物体に蓄えられていた「位置のエネルギー」が運動エネルギーに形を換えたと考えられる

ブドウ糖を燃やしてみよう

化学が苦手な人も、この作業は一度だけでも経験しておいて損はありません。

生体を構成する有機化合物は主として炭素原子(C)、水素原子(H)、酸素原子(O)からなっています。「燃焼」とは酸素と結合する(酸化される)ことにほかならず、完全燃焼すればC とH がそれぞれCO2(二酸化炭素)とH2O(水)になるのが基本です。

ブドウ糖の1分子はC6個、H 12個、O6個からなっていますので、これを燃やせばCO26個、H2O 6個が生じるはずです。

C6H12O6 + [  ]O2-→ 6CO2+ 6H2O

右辺のO原子は合計18個ですが、ブドウ糖自身がOを6個持っていますので、外から加えるべきO原子は12個、O2分子で言えば6個になります。

C6H12O6 + 6O2-→ 6CO2+ 6H2O

実際に起こっている代謝の過程を化学反応式で書けば、途方もなく複雑なものになりますが、それらをすべて合算して初めと終わりだけを見れば、この式と同じものになるのです。

この化学反応式は、私たちが酸素を取り入れて二酸化炭素を排出している(つまり呼吸している)ことの意味を、端的に教えてくれます。

まずはこのような大局観を持った上で、詳細に踏み込むことが大切です。

物質のバランス、エネルギーのバランス

実は異化によって得られたエネルギーは、すぐさま特定の同化のために使われるのではなく、いったんATPという物質を合成する形で蓄えられ、同化の際にはこれを再び分解してエネルギーを利用します。

このように、さまざまな栄養素の異化過程がいったんATPという共通の物質になだれ込んで集約されるために、ATPがしばしば「エネルギーの通貨」とたとえられることはよくご存知でしょう(図3)。

ATPがしばしば「エネルギーの通貨」とたとえられる例

図3 異化によって放出されたエネルギーは、いったんADPとリン酸(図中のP)を結合させてATPを合成するために使われる。同化の際には、このATPを分解して得られるエネルギーを利用する

ところで、この燃焼によって得られる(変換される)のと等しい量のエネルギーを、逆にCO2やH2Oに対してつぎ込んでやれば、ブドウ糖に戻すことができるのでしょうか?

エネルギーの収支だけを考えればその通りなのですが、一般に化学反応を起こすためにはさまざまな条件を整えてやらなければならず、この反応を実際に逆行させるのは(少なくともヒトにとっては)至難のわざです。

そこで私たちは、生じたCO2には無理に手を加えず排泄することにして、新たな栄養素を食事によって継続的に補充する戦略をとっています。

これは、エネルギー的に「高い」ものを摂取して「低い」ものを排泄していることを意味しますから、差額に当たるエネルギーを体外へ放出することも同時に必要となります。

その大半は熱放散という形で体表から捨てられ、体内の熱産生量と釣り合って体温を一定に保っています。放出エネルギーのうち、骨格筋を動かしてものを運ぶなど「外への仕事」になるのは一部に過ぎませんが、これが再び食事行動などの形でエネルギー摂取に貢献することになります。

このように、複雑な化学反応を組み合わせつつ、全体として「物質の収支」「エネルギーの収支」の両面でバランスを保つことが、代謝というシステムの大きな特徴のひとつです。

(『ナース専科マガジン』2012年12月号より転載)

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