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【連載】これで対応に困らない! せん妄の基本

第7回 せん妄を見逃さないためには?③うつ病との見分け方

執筆 井上 真一郎(いのうえ しんいちろう)

岡山大学病院精神科神経科 助教

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大きな手術後やがんの終末期などに極めて高頻度にみられる「せん妄」。せん妄は、注意力や意識が低下することで患者さんが転倒・転落したり、幻覚が見えて暴れたりと治療を大きく阻害するものです。特に低活動型のせん妄は見落としがち。本連載ではそんなせん妄へのアプローチ法をやさしく解説します。


今春から外科病棟に配属された看護師のAさん。 担当患者さんが手術後にせん妄を発症してしまい、日夜悪戦苦闘・・・。これを機に、せん妄について体系的に勉強したいと考えています。

せん妄とうつ病の違いって?

看護師さん:「今回のテーマは『うつ病との見分け方』ですね。せん妄とうつ病は全然違うように思うのですが、実際間違われることがあるのでしょうか?」

井上先生:「まずはそこから説明しましょう。

前に低活動型せん妄について勉強したと思います。低活動型せん妄ではどのような症状があったか、覚えていますか?」

看護師さん:「無関心や動作緩慢といった症状だったと思います」

井上先生:「よく覚えていましたね。でも、考えてみると、それらの症状はうつ病でもみられませんか?」

看護師さん:「確かにそうですね。活動性が落ちたりや集中力が低下するといったことも、低活動型せん妄とうつ病に共通した症状でしょうか」

井上先生:「その通りです。では、鑑別のポイントはどこでしょうか?」

看護師さん:「難しいですね。例えば、気分の落ち込みがあるかどうかで判断するというのはどうでしょう?」

井上先生:「それはよいところに気がつきましたね。うつ病の場合は抑うつ気分や悲哀感がみられることが多いのに対して、低活動型せん妄はいわば「困惑」といった感情を呈することが多いようです。

 そのほか、低活動型せん妄とうつ病の違いについては次の表の通りです」

表 低活動型せん妄とうつ病の違い

低活動型せん妄とうつ病の違い

看護師さん:「認知症の時と同じように、思った以上に鑑別ポイントはたくさんあるのですね。ベッドサイドではどのようなことを尋ねるのがよいでしょうか?」

井上先生:「見当識障害の確認が有用です。うつ病の患者さんは、思考力が落ちたり、レスポンスが遅くなったりしても、日にちや場所の感覚が大きくずれることはありません。

それに対して、低活動型せん妄では見当識が大きくずれる可能性があります」

看護師さん:「となると、意識がしっかりしているようにみえても、念のため見当識障害があるかどうかを確認するのが大切ということですね」

井上先生:「その通りです。ぜひ実践して下さい」

看護師さん:「わかりました。すぐにやってみたいと思います。

でも、私だけでなく、私の周りの看護師の多くは、低活動型せん妄とうつ病との見分けが十分でないように思います」

井上先生:「それは決して看護師さんに限った話ではありません。治療や検査目的で身体科に入院した患者さんに『うつ病の疑いがある』として身体科の医師から精神科に紹介されることがありますが、実際には低活動型せん妄だったことは何度も経験しています」

看護師さん:「そうなんですね。その場合、精神科に紹介したから診立てが間違っていたことに気づけたわけで、もしかするとうつ病として治療やケアが行われていた可能性がありますね」

井上先生:「その通りです。低活動型せん妄であるにもかかわらずうつ病として抗うつ薬を投与された場合、抗うつ薬の抗コリン作用でさらにせん妄が悪化する可能性があります」

看護師さん:「良かれと思ってしたことが、かえって悪い方向へ導いてしまうわけですね。

ケアについてはどうでしょうか?」

井上先生:「低活動型せん妄であれば、睡眠と覚醒のリズムを整えることが大切ですので、日中は積極的に声かけをしたり散歩を勧めたり、リハビリテーションを取り入れたりするのが効果的です。うつ病であれば、むしろゆっくり休むように促しますよね」

看護師さん:「なるほど。低活動型せん妄とうつ病では、ケアのしかたがまるで逆になるのですね」

井上先生:「そうですね。もう一度念を押しておきますが、患者さんにうつ病を疑った場合は、低活動型せん妄の可能性も頭に入れて十分評価をすることが大切です。

今回はここまでです。次回は、なぜせん妄が起こるのかについて説明します。せん妄へのアプローチを考える上で最も大切な、「せん妄発症の3要因」に触れたいと思います」

看護師さん:「せん妄が少しずつわかってきた気がします。次回もよろしくお願いします!」

次回は「せん妄はなぜ起こるの?」について解説します。

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