【連載】“何かヘンだ”がわかる! 急変前に気づく五感アセスメント

第9回 急変の予兆を知る 意識・精神活動の変化と「お決まりの抵抗手段」⑤「冬眠」行動

解説 佐仲 雅樹(さなか まさき)

津田沼中央総合病院内科/東邦大学医療センター大森病院総合診療・救急医学講座 客員講師/城西国際大学薬学部 客員教授

はっきりとした予兆もなく、患者さんが急変したり、重篤な疾患が進行していたりする経験があると思います。そのような急変に先立って、先輩の看護師や医師から「あの患者、何かヘンだよね」という直感的な台詞を聞いたことがあるかもしれません。

この連載では、急変前の「何かヘン」と感じる患者への直感的な違和感について解説し、急変を見抜く力を養います。


「冬眠」のような行動とは?

教科書にある「危険なサイン」は「言葉のサイン」であり、リアリティがありません。この「リアリティの欠如」の最大の原因は、「冬眠」行動が理解されていないことです。
「危険なサイン」の本質は、「生き残りシステム」が戦っているときの「全体的イメージ」です。「冬眠」行動は患者さんの「全体的イメージ」を「日常」モードから「非常事態」モードへと大きく変えます。

「冬眠」の様子について

「冬眠」行動とは、じっとして「冬(危機)」をやり過ごす「守りの姿勢(非常事態モード)」です。呼吸促進、自律神経反応、炎症反応といった「お決まりの抵抗手段」や、適切な治療によって生命の危機を乗り越えるまで、「体力を温存しながら静かに耐え忍ぶ」ことです。

患者さんが「耐え忍ぶ」様子とは、意欲の低下、関心の低下、集中力の低下、眠気、食欲低下、倦怠感などです(典型的にはインフルエンザの患者さんの様子)。

「身体の動き(行動)」と「心の動き(精神活動/「頭の回転」)」の抑制的な変化です。アバウトに言えば「元気がない」、「活気がない」、「ぐったりしている」といった淀んだ雰囲気(全体的イメージ)です。

「冬眠」の様子について説明図

「冬眠」の意義とは

「お決まりの抵抗手段」を使い続けるためには、多量のエネルギーが必要になります。従って、不要なエネルギー消費を抑制するために「冬眠」が必要です。

行動が減少し、精神活動の停滞することで、「省エネ」効果を生むのです(脳は多量のエネルギーを消費するので、集中力を要する思考や判断も抑制されなければなりません)。まさに「冬眠/フリーズ」を思わせる様子です。

「生き残りシステム」が活性化しているときは、患者さんはだるさや眠気を訴えます。これは、身体が動かなくなるようプログラムされているためです。

また、食欲がなくなるのは、消化吸収につかう大きなエネルギーを「抵抗手段」に割り振るためです。生き残るために「強制的」に不要なエネルギー消費が抑制されるのです。

「冬眠」行動を背景にして、バイタルサインの変化や自律神経反応がみられると、「ぐったりしているのに何となく息が荒い」、あるいは「額にじっとり汗をかいて動こうとしない」といった危険な全体的イメージが形成されます。

急変のプロセスと「冬眠」

敗血症とショックは「冬眠」を促進します

急変のプロセスで重要な病態は、敗血症とショックでしたね。敗血症は重症感染症による全身性の炎症(SIRS)であり、血中にサイトカインが増加します。

ショックは「全身臓器への酸素供給不足」ですから、血中の酸素不足とみなしてよいでしょう(必ずしも動脈血酸素分圧や酸素飽和度が低下するわけではありませんが)。

いずれも血液環境(ホメオスタシス)の乱れです(第1回)。

サイトカインが脳に作用すると、「冬眠」のような状態になります(炎症反応に伴う「冬眠」行動を正式にはacute sickness behaviorといいます)。

また、急激に血中の酸素が低下すると、「身体の動き」と「心の動き」が迅速かつ「計画的」にシャットダウンされます。

「冬眠」行動は「場つなぎ」です

患者さんが「冬眠」行動で耐え忍ぶといっても、いつまでも頑張れるわけではありません。「お決まりの抵抗手段」で太刀打ちできない場合や、適切な治療がされなければ、全身状態がさらに悪化して、「身体の動き」と「心の動き」はさらに抑制されます。

この状態はもはや「冬眠」行動という抵抗手段ではなく、全身の機能不全です(「生き残りシステム」の敗北)。

また、全身状態が悪化するなかで不穏状態(せん妄)になることがありますが、その場合は「冬眠」と言える様子ではないでしょう。生命の危機に対する「冬眠」行動は、有効な治療法が効果を上げるまでの「場つなぎ」なのです。

「冬眠」行動は患者さんの「全体的イメージ」を大きく変えます

「冬眠」行動による患者さんの「雰囲気」の変化は「何かヘンだ」という直感につながります。

しかし、直感しても、急変プロセスのごく初期には、バイタルサインの変化や自律神経反応がみいだされないこともあります。このような場合は「はっきりした異常はないけど、何か重症感がある」などと表現されます。

連載第1回目のイラストを思い出しましょう。何となく「固まった」ような抑制的な様子は、「冬眠」行動かもしれません。

次回は「炎症反応」について解説します。

ページトップへ