• 公開日: 2014/1/6
  • 更新日: 2020/3/26

【連載】泣いて笑って訪問看護

第8回 『認知症の方との会話術』―摘便介助を説得するコツ

医療の場が在宅へと比重が高まるものの、まだまだ知られていない訪問看護。ここでは訪問看護の実際について、エピソードを通じてご紹介します。


摘便拒否、説得はしたけれど…

訪問看護はどうしても高齢者との関わりが多いため、認知症の方とコミュニケーションをとることが多いのは事実。

ただ、認知症と一言で言っても、アルツハイマー型やら、レビー小体型やらいろいろあるが、全てに共通して有効な関わり方が一つある。
もちろん、進行具合により適応しないこともあるが、一番大切なのは、ご本人の訴えを受けとめること。
今回は認知症のある方の摘便介助での例を紹介したいと思う。

レビー小体型認知症の76歳女性、慢性便秘で2週間位便が出ないこともあるとか…。

もちろんこのような場合、下剤での排便コントロールが第一優先だが、この方の場合、薬が何も効かないため、自然に任せてるとのこと。
とはいえ、肛門からはもう硬い便が見えている状態。看護師としては、やはり出して差し上げたい。

ご家族も出して欲しいと希望はあるものの、無理にやると本人が暴れるためできないと諦めている。

この症例、実は一回目の関わりでは失敗している。

もちろんはじめにご本人に説明はした。
「便が溜まっていて大変だから出しましょうね」と説得し、了解も得た。
しかし、実際肛門に指を入れたら激怒。
「馬鹿野郎!何すんだ!」
暴れ出す相手を、「すぐ終わるから頑張って!」と無理やり抑えこみ、なんとか無事に終了…したかにみえた。

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しかし、これを2週続けて実施したところ、目を合わせるだけで関わりを拒否されるようになり、結局その看護師は出入り禁止となってしまったのである。

さて、その次に入ったN先輩ナース、先日摘便をしてきたというため、「大変だったでしょう?」と聞くと、「え?全然?とっても穏やかに協力してくれたよ」と。

そこで、どう関わったのかを詳しく聞いてみた。するとこんな会話のやりとりがあったことを教えてくれたのである。

「ご本人にね、まず便が溜まってることをお伝えして、本人にも『どうですか?』って聞いてみたの。そうしたら『そうね…』って。
でね、『娘さんがとってもお母様のことを心配されていて、私に出して欲しいってお願いされたんだけどどうしよう…』って相談したのよ。そうしたら、『浣腸やるとお腹痛いから嫌なのよね…』と意外にまともな返事。
そこで、『そうだよね?』って同調してから、病院から処方されたかなり大きな浣腸を見せて、『こんなのが先生から出されてるんだけど大きくて嫌だよね?でも、娘さんが、赤ちゃんにでも使える小さな浣腸をお母様のために買っといてくれてるみたい、ほら、こんなに小さいけど、どっちが良いかな?』って本人に選んでもらったの。
そうしたら、もちろん小さいやつ選ぶよね。それで、『じゃあ大変だけど、ちょっと頑張ってみようか』って話したら、『うん』って。
で、やってみたら、全然抵抗しないでやらせてくれたよ』と。

認知症であっても人格を尊重する

N先輩のやりとりと、はじめのナースのやりとりと、大きな本筋は変わらない。
はじめのナースも説明はした。しかし、N先輩ナースとの会話の中では、何度も相手に問いかけ、相手に選択をさせたり、自分で考えたりさせているのが分かるだろうか。

認知症の方との関わりは、「深い説明をしても仕方ない。時間のない中ではこっちのペースで仕事をするのも仕方ない…」となりがちであるが、できればそんな関わりはしたくない。

いくら認知が進行していて意味が分からないにしても、相手が自分に対して誠実に向き合おうとしているかということは、認知症の方は、より敏感に感じとるのではないだろうか。

はじめに入ったナースが、「一人で摘便するのが大変で」と相談された時、「じゃあ、ヘルパーさんと被せて2人がかりで便だしできるようにしてみようか…」と、方向としては強制的に便を出すという提案しかできなかった自分が恥ずかしくなった。

N先輩ナースの関わり方を見ていて、やはり、認知症の方はもちろんのこと、どんな方に対しても、一人一人誠実に、人格を尊重して向き合わないといけないなと、改めて考えさせられたエピソードであった。

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