• 公開日: 2014/1/5
  • 更新日: 2020/3/26

【連載】泣いて笑って訪問看護

第10回 『血糖コントロール 対応困難事例』―在宅看護での決定権

医療の場が在宅へと比重が高まるものの、まだまだ知られていない訪問看護。ここでは訪問看護の実際について、エピソードを通じてご紹介します。


どんなにナースががんばっても

訪問看護はやりがいのある仕事であるのは事実。しかし、いくら自分が頑張っても思うようにケアが展開できないケースもある。

それはどんなケアに関しても起こりうることではあるが、一番対応が困難なのが、利用者様本人に病識がない場合である。

今回の事例は、糖尿病で血糖コントロールが必要で、内服薬とインスリンの自己投与と血糖チェックの指示が出ている方。
加えて仙骨部にはまさに石鹸がスッポリ入る位のサイズの褥瘡もある。

この方は、これまでも糖尿病の意識消失で何度も入院をされているが、教育入院生活もままならず喧嘩する形で自主的に退院。
そのため病院側も、もう受け付けない体制になり、それを繰り返すため、かなり受け入れ先がなくなってきている。

そんな方の訪問看護依頼があり、ほぼ毎日の形で介入し始めたのであるが、これがなかなか…。

薬がしっかり飲めるようにするため、必要性を説明をしながらセットをするも、その日の気分で自分で薬を選んで捨てていたり、古い薬を被せて飲まれていたりで全くまともに飲めていないことが判明。
しかしながら訪問では、病院ではないため、本人が拒否をしたら無理には薬の管理はできない。

また、インスリンも打ちたくない、血糖測定も痛いからやらない、看護師が訪問時に測定しようとしても拒否。
先生に提出する血糖測定ノートには、適当な数値をまとめて記入して提出する…

こうなると、ほぼ血糖コントロール管理はお手上げ状態となった。
本人に病識がなくても、家族がいてフォローできる場合も多いが、独居なのでそれも望めない。

さて、どうしたものか…。

ケアの決定権は本人にあり

往診の先生とも連携をとりながら対応を検討していく。

この方は正論で必要性を説明したところで、「めんどくさいから放っておいて!」と逆効果なため、まずはじっくり話をきき、信頼関係を作ることから始めなければということになった。

そうこうしているうちに、漢字が読めないため、薬の飲み方が書いてある説明書も理解できなかったことが判明。
ならばと、『あさ、ひる、ゆう』とひらがなで記載し、その日毎の薬をセットしてみた。
しかし、それでもなかなか自己流の飲み方は変わらない。

血糖チェックも、その話をだすだけで機嫌が悪くなり、その先の処置が進まなくなるため、まずは褥瘡の処置を先に済ませてから、難関の薬管理やチェックに移ろうなど、いろいろ検討もした。

このような困難事例には、1人の看護師でいくと対応に煮詰まることもあるため、複数の看護師で対応するようにしている。
利用者様との相性も大きく作用することもある上に、いろんな看護師が介入することで、いろんな対応の仕方を相談できるメリットがあるからである。

結局、この方のケアでまともに対応できているのは今のところ褥瘡の処置のみ。

血糖コントロールや薬管理は模索中としか言えないが、現在、うちのステーションの看護師がほぼフル出動してこの利用者様の対応を検討している。

幸い、褥瘡に関しては処置のかいもあり、日毎に良くはなってきているため、とりあえずは良しとしてもよいのではないかとも思う。

もちろん、血糖コントロールが不良になれば傷の治りも悪くなるため、今後も根気よく血糖管理指導は続けていかなくてはならないが、とりあえず、できることから一つずつ、一つずつ、地道に対応していくしかないのではないだろうか。

自分の生活が急に変えられないように、相手の生活をいきなり変えることは難しい。
いくら命にかかわることであっても、本人の中での優先順位が違えば、それはいた仕方ないとも言える。

食べたいものは食べたい、薬は自分の納得いくようにしか飲まない。どうしてもそれが譲れないならば、それに合わせて先生と連携してフォローしていくしかない。

本人の決定権が強いのが在宅看護であり、それが良くも悪くも病院とは大きく違うところなのかもしれない。

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