「プライマリ・ケア看護師(仮称)」とは?どうやったらなれますか?

執筆 森山 美知子(もりやま みちこ)

広島大学大学院医歯薬保健学研究院成人看護開発学 教授/日本プライマリ・ケア連合学会看護師養成プロジェクトメンバー

治療のシーンが病院から在宅・地域にシフトしていくなか、看護師は患者や利⽤者のプライマリ・ケアを担う役割を期待されています。そのような背景を受けて、⽇本プライマリ・ケア連合学会が⽬指しているのが“プライマリ・ケアを担う看護師”です。本記事ではプライマリ・ケア看護師(仮称)について解説します。


【目次】


そもそも、「プライマリ・ケア」って何ですか?

プライマリ・ケアとは、「患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップの構築によって、家族及び地域という文脈の中で責任を持って診療する臨床家によって提供される、統合された、受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである」と定義されます1)

重症度の高い複雑な疾患を治療する病院ではなく、誰もがかかる風邪などの疾患や、高血圧や糖尿病などの慢性疾患を主として治療する診療所などの規模の小さな医療機関を中心とします(地域ケアを担当する保健センターなどもプライマリ・ケアの機能を果たします)。

世界的にみると

ヨーロッパ諸国、カナダやオセアニア諸国など、国際的にみても、住民は看護師も含めたチームとしてのかかりつけ医をもち、そのかかりつけ医に継続的に診てもらうプライマリ・ケアの仕組みが主流です。

欧州など、プライマリ・ケアをヘルスケアシステムの主体とする国々の中では、診療所*1に勤務する看護職*2がプライマリ・ケア機能を担っています。

*1:公的機関が中心, 複数のGPや看護師、リハスタッフが勤務

*2:NP・CNSレベルからRN(ここが中心)、無資格者まで多様

デンマークのGPクリニック ナースの診察室(マイナーイリネス、予防接種、健康診査、慢性疾患定期検査と療養指導を行う) デンマークのGPクリニック
ナースの診察室(マイナーイリネス、予防接種、健康診査、慢性疾患定期検査と療養指導を行う)
トリニダード・トバゴ、PHCCで看護師による糖尿病教育・定期検査 トリニダード・トバゴ、PHCCで看護師による糖尿病教育・定期検査

なぜこの制度が必要となったの?

生活環境が改善され、医学も進歩し、感染症を主とした時代から生活習慣を原因とする慢性疾患を主とする時代へと、疾病構造は変化しました。また、高齢化も進んでいます。

これには、専門とする診療科を中心にしか診ない専門医では対応は困難で、総合的かつ包括的に、疾患や症状を生み出す心理社会的背景を把握した上で全身を診ることのできるプライマリ・ケア医が重要となります。

また、日本では、2017年度から第19番目の専門医として総合診療専門医(プライマリ・ケア医)の養成が、先進国の中では最後に始まります。そうなると、この時代、この制度に対応できる看護師も必要となってきます。

【日本にもプライマリ・ケア制度が必要というスタンス】

  1. 日本のプライマリ・ケアを支える看護師の専門性は検討されてこなかった
  2. キャリア・パスや卒前・卒後教育が制度的に不十分
  3. 国際的にも、看護師の活動がプライマリ・ケアを支える
  4. 総合診療専門医の養成開始:ペアで動ける看護師の存在が必要

上記のような背景から、わが国においても戦略的に看護師を機能強化・養成する必要性があります。

その方向性としては、

  1. 看護師の役割の強化
  2. 看護師の教育の整備
  3. 看護師への業務委任
  4. 看護師は、プライマリ・ケア・センターでの重要な役割を担う(図1)

となります。

プライマリ・ケアが地域医療を支える図1 プライマリ・ケアが地域医療を支える

「プライマリ・ケア看護師(仮称)」って?

プライマリ・ケア看護師(仮称)の役割は、上記の定義と同様、地域で患者・家族の健康を、継続的に責任をもって支える役割を持ちます。

国際的には、①トリアージ、②健康診断、③予防接種、④マイナーイルネス対応、⑤慢性疾患管理が主な役割です。

日本では、プライマリ・ケア機能を主に担っているのは地域の診療所で、診療所は実に多様な役割を担っていることから、(1)外来機能、(2)在宅支援機能(訪問診療・看護等)、(3)地域支援機能(地域包括ケアなどの担い手)を有しています(図2)。

プライマリ・ケア診療所看護師(仮称)の担う役割
図2 プライマリ・ケア診療所看護師(仮称)の担う役割

日本には入院機能を有する診療所もあることから、急性増悪時やレスパイトが必要なときに、自宅に近い存在として受け入れてもらえ、在宅療養を身近に支える機能としての(4)入院機能も含まれます。

そして、プライマリ・ケアを支える看護師には、日本看護系大学協議会が示す基本実践能力(コア・コンピテンシー)が必要であるとともに、上記の役割・機能を果たすための能力も必要となります。これは、病院(病棟)で必要とされる能力よりも高く幅広い能力が要求されます。

ナース・プラクティッショナー(NP)とどう違うの?

NPは高度実践看護師(Advanced Practice Nurse;APN)に位置づけられ、大学院の修士課程において教育され注)、一定レベルの診断や治療(薬剤の処方等)が許可された資格を有する看護師です。クリティカルケア、小児、プライマリ・ケアなどの専門領域に分かれます。プライマリ・ケアにおいては、通常は医師とペアを組み、患者に対して診断と治療を行っていきます。

これに対して、プライマリ・ケア看護師(仮称)は、患者の診断を中心とせず、診断と治療がなされている者に対して、慢性疾患の患者指導など上記に示す業務を行います。また、症状の重篤度などから、受診の時期などを判断するトリアージを行います。

次回は、日本プライマリ・ケア連合学会が推進するプライマリ・ケア看護師(仮称)の教育についてお話いたします。

注)米国については、高度実践看護師(APN)としてのNPは、現在、教育課程を従来の修士課程から博士課程(DNP;Doctor of Nursing Practice)へ移行している。

「プライマリ・ケア」って資格ですか?

日本にも、世界的にも「プライマリ・ケア看護師(仮称)」という国家資格も、認証資格もあるわけではありません。しかし、前段でもお話ししましたように、地域でプライマリ・ケアを担う看護師には専門性を有する実にたくさんの業務内容があります。

日本プライマリ・ケア連合学会は、「連合」の名が示す通り、現場の第一線を担う多職種の実地医家達の実践の発表の場であった「日本プライマリ・ケア学会」、家庭医の養成を目指した「NPO法人日本家庭医療学会」、大学病院等の総合診療部の医師たちが参加した「日本総合診療学会」が2010年に合体して発足した学会です。

この学会では、すでに、医師や薬剤師については研修制度や認定制度を有しています。これに次いで、平成28年度(2016年度)から「プライマリ・ケア看護師(仮称)」の学会認定制度を、日本看護協会等と連携しながら、開始する計画です。

計画というのは、学会での認定といえども、まだまだこれから、日本医師会や日本看護協会との調整が残っているからです。

「プライマリ・ケア看護師(仮称)」はどのような位置づけになるの?

日本プライマリ・ケア連合学会では、プライマリ・ケア領域に責任を持つ看護師を図1のようなピラミッド構造で考えています。

図1 プライマリ・ケアに従事する看護師のレベル(段階)設定(試案) 図1 プライマリ・ケアに従事する看護師のレベル(段階)設定(試案)

日本プライマリ・ケア連合学会:プライマリ・ケア看護師養成チーム 議論から(森山美知子・塚本容子・大塚真理子・クローズ幸子・松下 明・石橋幸滋ほか)

まず、トップの一番高い専門性を有する階層(スペシャリスト)を「プライマリ・ケア・ナース・プラクティッショナー(NP)」、それから、「プライマリ・ケア認定看護師(仮称)」、そして、ジェネラリストとしての「プライマリ・ケア看護師(仮称)」です。

プライマリ・ケアNPは、医師とペアになり、患者の診断や治療を行っていく職能で、米国で生まれ、先進諸国では地域の中核的な役割を担っています。この制度を有する諸外国では、NPになるには、専門の大学院教育を終了し、国や州の定める資格認定試験を受けて合格する必要があります。

日本では、国が認める正式な資格ではありませんが、すでに数カ所の大学院で養成が始まっており注)、地域やナーシングホームでの卒業生の活躍が報告されています。また、日本看護系大学協議会でも、平成27年度から「プライマリ・ケア・ナース・プラクティッショナー」課程の申請を受け付けるようになりました。

注)大分県立看護科学大学、北海道医療大学等には大学院での養成プログラムがあります。

認定看護師については、公益社団法人日本看護協会が認定しています。そのため、学会等が新しい課程の設置を申請して認められなければなりません。現在は、プライマリ・ケア領域についてはまだこの動きはなく、教育課程は存在しませんが、日本プライマリ・ケア連合学会では、将来的には認定看護師の養成を目指しています。

「プライマリ・ケア看護師(仮称)」の学会認定プログラムはどんなもの?

一方で、主に診療所で小規模病院で地域を支えるプライマリ・ケア看護師(仮称)については、平成28年度から日本プライマリ・ケア連合学会での養成を検討しています。教育期間は何カ月とは定めず、ここに示されている教育内容を終えた段階で学会認定が取得できると考えています。

診療所では規模の大きな病院のように研修のために勤務時間を使うことがなかなかできません。ですので、診療所が休みになる曜日や時間帯の講義を考えています。また、e-learningによる学習教材を作成し、これを使って、いつでも、どこでも学習できる環境を整えていく計画です。

教育内容は、日本の診療所で看護師が担っている看護業務の調査結果2)と海外の診療所の調査結果に基づき、図2のような構造を検討しています。

図2 プライマリ・ケア看護師の教育の構造 図2 プライマリ・ケア看護師の教育の構造

現在は、この構造に従って、教科書を作成しているところです。2016年5月には出版予定になっています。

みなさま、この教育内容や認定制度が発表される、第7回日本プライマリ・ケア連合学会(2016年6月11日~12日:東京、浅草)に是非とも参加して、情報を得てみてください。

文献

1) Donaldson, M. et al:Committee on the future of primary Care, Institute of Medicine: Primary care: American's health in a new era. The National Academies Press, 1996. Summary. http://www.nap.edu/openbook.php?record_id=5152&page=1 (参照2013-7-1).

2)斜森亜沙子,森山美知子:わが国のプライマリ・ケア機能を担う診療所における看護師の担うべき役割と必要な能力.日本プライマリ・ケア連合学会誌, 38(2), 2015,102-110.

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