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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第15回 検査が怖いという患者さんの不安を和らげるには?

解説 菅野 摂子

電気通信大学 特任准教授 認定NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン 運営委員

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、看護の現場では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療や生活上の悩みや困難を訴えるのも勇気のいることでしょう。

そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


多くの人が手術や化学療法など痛みや副作用を伴う治療も、病気を治すためにはやむを得ないと考えますが、特に自覚症状もないときに検診などで苦痛を伴う検査を受けることについては、何かと理由をつけて回避しようとする人が少なくありません。

大腸内視鏡検査は、腸壁を直接カメラで見る精度の高い検査ですが、身体的・精神的負担が大きいため、受検を先延ばしにして、がんが進行してしまう場合もあります。治療と同様、本人が納得して受けられるよう、医療者による支援が求められます。

具体的な説明が患者さんの安心感・信頼感につながる

職場の検診で大腸内視鏡を受けた経験のある男性(インタビュー時72歳)

インタビュー動画

―― お医者さんから前もって、何か、こう説明はありましたか。
ええ、ありますよ。
―― 痛いかもしれないとか。
ええ、突き上げられる感じがあるかも分からないよ。……その突き刺さるような痛さとかそういうのはないから安心しなさいよとかね。
―― それはないからっていうことですかね。
大丈夫ですよと。……ま、一番いいのは、「自分のね、いっぺん、おなかの中をね、その画面で見るのもいいんじゃないの」って、先生、言ったからね、「そうですね」と。 「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 大腸がん検診の語り」より

この男性は、毎年便潜血検査を受けてきましたが、45歳の時に、費用の一部を会社が負担して、内視鏡検査を検診として受ける機会があったため、会社の仲間と受けたといいます。

医師は、検査に伴う苦痛について、痛みの感じ方を、「突き上げられるような感じ」であって「突き刺さるような痛み」ではない、と具体的に説明しました。また、検査の目的を「自分のおなかの中を見てみない?」と自分の身体に関心が持てるように話したのは、普段から健康診断をきちんと受けているこの男性にとって受け入れやすかったのではないでしょうか。

この男性とは対照的に、職場の検診で便潜血検査を受けて陽性になった女性は、事前の説明を十分に受けずに内視鏡検査に臨みました。

下剤を飲むなど検査の準備も含めて想像以上に辛い思いをしたため、その後、大腸炎で病院にかかった時にも、恐怖が先に立って内視鏡検査を受けることができませんでした。

検査を受けたくない理由はさまざまですが、このように最初の苦痛や恐怖感は以降の検査に影響を及ぼすこともあります。

検査の説明をどこまですれば良いのかは難しいところですが、検査のビデオを視聴して恐怖を感じたものの、病院や医師に信頼感を持った、と語った人もいました。

64歳の時に大腸がんと診断された男性(インタビュー時67歳)

インタビュー動画

最初からの、うーん…検査そのものの主旨の説明があって、それで、実際の行動ですね。どういう順番で、どうやって検査をするか。それから、現実に、その内視鏡が中に入っていった状況等ですね。ちゃんと、あの、わかりやすくビデオ化されたものですね。そうですね。10分かそこらのあれじゃないでしょうかね。
(中略)
―― ああ。それ見られて、どう思いましたか?
ちょっと(笑)あの…恐怖感も覚えましたけど、まぁ、逆に言うと、安心感も出てきたっていうような感じがしますね。逆に。まぁ、信頼感みたいですかね。 (中略) 検査そのものに対する信頼感と、うん、そうですね。病院っていうか、ドクターに対する、まぁ、信頼感も、自ずと出てくるんでしょうかね。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 大腸がん検診の語り」より

この検査で大腸がんと診断された男性は、早期で発見されたため転移はなく、定期的に検査を受けながら現在も元気で過ごしています。ビデオという視覚化されたツールを使うことで、検査で何をするのかイメージしやすかったのでしょうし、詳しく知ることで安心できたようです。

さらに、事前のオリエンテーションをこういった形できちんと行うことは、施設や医療者に対する信頼感にもつながるようです。

ただ、ビデオを見せればそれで良いということではなく、患者さんの個別の疑問をフォローすることが必要です。

ここでは、自覚症状のない人の受診の語りをご紹介しましたが、検査を受ける際の不安はさまざまです。不安がどこからきているのかよく聞き、戸惑うことなく検査を受けられるよう、体の準備だけではなく、心の準備ができるよう配慮する必要があります。

「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)

会社紹介

英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。

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