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【連載】看護に役立つ生理学

第28回 体温調節ー熱産生のメカニズム

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

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ヒトの深部体温は37℃程度で、多少の変動はあるにせよ、極めて狭い範囲に保たれています。さまざまな状況の変化に乱されることなく体温が一定しているのは、生体が常に熱のバランスを取ってくれているからです。

今回は熱産生・熱放散のメカニズムを振り返ることにより、調節機構が合理的に作用していることを納得するのが目標です。


エネルギーの行く末は?

熱放散の理解には物理学的なメカニズムが重要でしたが、熱産生はそれ自体が生命活動の結果として起こるため、生理学的な知識、特に代謝の知識に関連づけて理解する必要があります。

そもそも熱はどのような局面で発生するのでしょうか。

栄養素の異化によって、つまり栄養素を「燃やして」得られたエネルギーは、ATPという物質の形で蓄えられ、生体のさまざまな機能を発揮するために利用されます。

しかし、異化の際に取り出されるエネルギーのすべてがATP合成に用いられるわけではなく、大半が熱となってしまいます。

実は、熱が発生するポイントはここだけではなく、いざATPを分解してエネルギーを利用する際にも、有効に使えるのは一部であり、残りはやはり熱となります。

さらに、有効なエネルギーを利用して筋を動かしたり血液を循環させたりすれば、ここでも摩擦によって熱が生じます。

一方、エネルギーを用いて生体物質を合成した(同化を行なった)場合には、当面はその物質にエネルギーが蓄えられますが、遅かれ早かれ分解されて入れ替わることを考えると、その際にも熱を発生することになります。

結局、生体物質の組成が恒常性を保っている状況のもとでは、外に対して行なった仕事(荷物を下から上に持ち上げるなど)の分を除いては、消費したエネルギーは熱という姿に行き着かざるを得ないのです。

ここで重要なことは、エネルギーは何も無いところから生じたり、あるいは消失したりするものではなく、さまざま形態に変化したり、場所を移動したりしているに過ぎない、ということです。

エネルギーを「消費して」生体機能を果たしたからといって、エネルギー自体が消えてしまうわけではありません。

そこで、体温の低下が危ぶまれるような状況では、この「無駄」をあえて増加させてでも、体温を保とうとする方向に調節がなされます。

反対に熱産生を抑えたいような状況でも、最低限の生体機能を維持するためにはどうしても熱の発生を伴いますから、熱産生をゼロにすることはできません。

結局、熱産生の調節とは、できるだけ基礎代謝に近い熱産生にとどめるか、あるいは余剰の熱産生をどれだけ増やすか、という選択であると言えます。

熱が発生するポイント説明イラスト

図 熱が発生するポイント

熱は「無駄」か?

このように考えると、熱の発生というのは「無駄の発生」のような印象を受けます。

エネルギーの有効利用という観点からは確かに無駄であるとも言えますが、その一方で、生体機能を充分に発揮するためには体温が適切な温度に保たれている必要があります。

熱産生の調節

前回列挙した「熱が発生するポイント」は、熱産生を効果的に調節するためにはどこに干渉すればよいかを教えてくれます。

ここでは熱産生を増加させる方法を追求してみましょう。

まず考えられるのは、ATPから取り出して利用可能となったエネルギーを、できるだけ摩擦が発生しやすいような使い道で用いるという方法です。

そのためには骨格筋を動かすのが早道であり、意識的に筋を動かして体を温めるほかに、互いに拮抗する筋同士が持続的に収縮して細かい振動を起こすことで、摩擦熱を大量に発生させることができます。

後者がシバリング(shivering, ふるえ)と呼ばれることはよくご存知でしょう。

骨格筋による摩擦熱以外の、さまざまな代謝を亢進させて熱を発生させる方法を、「非ふるえ熱産生」と呼びます。

「非ふるえ」とは奇妙な言葉ですが、non-shivering に対応する訳語です。

例えば甲状腺ホルモンは、全身の細胞に作用して代謝を亢進させ、熱の発生を促します。

非ふるえ熱産生を行う場としては、特に「褐色脂肪組織」というものが有名です。これは成人のヒトにおいてはごく限られた箇所にしか存在しない特殊な脂肪組織です。

この組織は、「熱の発生ポイント」の最初に述べた、栄養素の異化によってATP 合成する過程に深く関係しています。

素朴に考えれば、この過程で熱の発生が多いほど、ATP の形で蓄えることのできるエネルギーが少なくなってしまうので不利なはずです。

しかし褐色脂肪組織には、あえてこのATP の産生効率を低くして、代わりに熱の発生を増やす仕組みが備わっています。