【連載】“何かヘンだ”がわかる! 急変前に気づく五感アセスメント

第17回 急変の予兆を知る 「顔」で捉える“何かヘンだ” ③「目」と「表情」

解説 佐仲 雅樹(さなか まさき)

津田沼中央総合病院内科/東邦大学医療センター大森病院総合診療・救急医学講座 客員講師/城西国際大学薬学部 客員教授

はっきりとした予兆もなく、患者さんが急変したり、重篤な疾患が進行していたりする経験があると思います。そのような急変に先立って、先輩の看護師や医師から「あの患者、何かヘンだよね」という直感的な台詞を聞いたことがあるかもしれません。

この連載では、急変前の「何かヘン」と感じる患者への直感的な違和感について解説し、急変を見抜く力を養います。


「経験」としての「視線(目の力)」と「シンクロ状態」

私たちは相手の「顔」から、何となく「圧迫感」を感じます。おそらく「目の力」です。一方、「顔」と「顔」の「シンクロ状態」は、あまりにも日常的で、意識されることはないでしょう。私たちの「経験」にマッチした「目の力」と「シンクロ状態」の記述を以下に挙げます。みなさんも納得できるのではないでしょうか。

眼が「かち合う」とき、われわれの眼はたちまち、それを吸い寄せる求心的な運動とそれを撥ね付ける遠心的な運動とを同時に発生させるようなある磁場のうちに閉じ込められるのであって、ある対象を見るときのように相手をじっとまなざすことはできなくなるのである。 鷲田清一:「顔の現象学」(講談社学術文庫)

顔というものは、実際には純然たる視覚像としてよりもむしろ、ひととひとのあいだの共同的な時間現象として出現する。表情はたえず移ろい、揺れ動き、漂うものであり、その前にわたしが立てば、わたしのそれとシンクロナイズするかたちで噛みあったり反撥しあったりするものである。そしてその変容や変換の速度がまなざすわたしのそれと異様に違うとき、われわれはそのひとの存在を「ふつうでない」と感じる。  鷲田清一:「顔の現象学」(講談社学術文庫)

「顔」と「顔」は、表情や視線の動きによって、互いに「目の力」を感じとり、無意識のうちにリズミカルな「シンクロ状態」を形成します。全身状態の悪化によって患者さんの「心の動き」が乱れ、コミュニケーションの日常的な「シンクロ状態」が乱れると、私たちは「ふつうでない(危険な「全体的イメージ」)」と直感するのです。

「目の力」と「目の輝き」

相手が視線を向けると、こちらの目をそらさせるような「圧迫感・圧力」を感じますね。目元や眉の形は、「キリリ」と引き締まっています。これらが、私たちが「目の力」と感じるものでしょう。

全身状態が悪い患者さんの容態が改善しつつあるときは、「目の力」も出てきますね。心の動きが活発化して、注意力、意欲、関心が高まってきたのです。

関心あるものを見るときは瞳孔が大きくなり、機敏に視線で追い続けます。機敏に動く目が、大きな瞳孔で光を反射すると、私たちは相手に「目の輝き」を感じるのかもしれません。

乏しい表情、ゆるんだ表情

「生き残りシステム」の観点では、患者さんの「全体的イメージ」を大きく変えるのは、「軽い意識障害」と「冬眠」行動でした。「冬眠」行動は非常事態に際して、生き残るためにエネルギーの節約をするのです(第9回)。この「省エネ」効果は、全身の筋肉にも及びます。身体がだるくなって、力がはいらなくなります。

ところで、「顔」にも多くの筋肉があり、日常的には絶え間なく緊張して表情をつくっています。非常事態の「省エネ」効果が及ぶと、表情筋も緩みます。表情が乏しくなり、ゆるんだ感じです。

表情模倣反応(第16回)はなくなるか、あってもスローになり、コミュニケーションのシンクロ状態が乱れます。痛みなどによる「苦渋」の表情は、その背景に乏しい表情、あるいはゆるんだ表情があります。

乏しい表情、ゆるんだ表情イメージイラスト

表情の繊細さや豊かさは目元と口元で表現されます。したがって、相手の「顔」から“何かヘンだ”と感じたら、目元と口元に注意しましょう。目じりや口角に「鋭さ」がなければ、表情筋の緊張が低下しているのかもしれません。

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