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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第1回 摂食嚥下障害とは

執筆 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。


はじめに

みなさんの病棟・外来に摂食嚥下障害(嚥下障害)の患者さんはおられませんか?

おそらくほとんどの看護師さんが、「ムセる」「食事が進まない」「食べこぼす」といった患者さんが数名思い浮かぶことと思います。摂食嚥下障害は専門分野や診療科によらず、あらゆる場面で遭遇する症状です。

では、これほどありふれた症状である摂食嚥下障害について、これまで看護教育で取り上げられてきたかというと十分とはいえないのが現状です。その理由の一つに摂食・嚥下障害という学問分野の歴史の浅さがあります。

「摂食嚥下障害」の歴史

表1に摂食嚥下障害分野の歴史をまとめました。

摂食嚥下障害分野の歴史についての表

1980年代までは、嚥下造影や嚥下内視鏡といった嚥下の検査もなく、よくなる患者さんは勝手によくなり、よくならない患者さんは肺炎になったり経管栄養になったり、というように医療者の介入はほとんどありませんでした。

1990年代になってようやく臨床で嚥下の検査が行われるようになり、『摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)学会』が組織され、摂食機能療法という保険点数ができました。

ですので、『摂食嚥下』や『嚥下』というコトバが広まったのも90年代に入ってからのことです(実際にそのころはワープロソフトで『えんげ』と入力しても変換されませんでした・・・)。

そこからの嚥下リハの広がりはご承知の通りです。

医療・介護に携わっていない一般の方にも“嚥下リハ”は知れ渡り、メディアにもよく取り上げられるようになりました。

しかし、歴史が浅いために、臨床ではいろいろと混乱がみられます。新しい分野なので、日々新しい研究・発見がなされ、臨床でのリハ・ケアのポイントも日進月歩に変化しています。

この連載では、嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるように“嚥下とは”という基本を数回に分けて説明し、そのあとは臨床症状や実際の症例をあげて、最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説していきます。

嚥下初心者の方にとっても、臨床で嚥下障害に携わっている方にとっても、明日から使える知識と技術が満載の連載です。こうご期待です!

『嚥下』とは

1回目の今回は、嚥下の5期について復習します(よくご存知の方は読み飛ばしてもらってかまいません)。

嚥下は「先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期」の5つの期に分けられます(図1)。

嚥下の5期説明図

「ごっくん」と飲みこむだけが嚥下ではありません。「食べる」という行為すべてを「嚥下」として捉えることがポイントです。

実際の嚥下動作では5つの期が1つずつ順番に起こるのではなく、同時に起こることもあり、厳密には区別できないときもあります。しかしながら、漠然と嚥下を診ようとしてもわかりにくいため、この5期に分けるという考え方が重要です。

1.先行期(食物の認知)

食物を認知してから口に入れるまでの段階です。認知機能や意識レベルが低下していると嚥下するものを認知できなくなり先行期が障害されます。手を動かして食物を口に入れる、口唇で取り込む、といった動作も先行期に含まれます。初めて聞くとあまり嚥下とは関係ないように感じますが、これは非常に重要な期です。

例を挙げると、認知症で食べ物に気付いていない、嗜好に合っていないので口に入れない、手に麻痺があって食べ物を口に運べない、といった症状があります。

2.準備期(食塊の形成)

口に取り込まれた食物を粉砕、唾液と混合し飲み込みやすい形にまとめ上げる(食塊形成)期です。咀嚼もここに含まれます。米飯などを咬まずに丸飲みすることは困難です。食塊形成することで、それ以降の期がスムースに進むようになります。準備期の障害の例は、舌が麻痺していて上手に咬めない、唾液が少なくて口に食べ物が張り付く、などです。

3.口腔期(咽頭への抽送)

準備期で形成された食塊を口腔から咽頭へと運ぶ期です。「口腔」とついていますが咀嚼は含まれません。舌が麻痺していて送り込めず、食べ物がずっと口に残っている症例は口腔期の障害です。

4.咽頭期(食道への抽送)

咽頭の食塊を食道へと運ぶ期です。喉頭が前上方に持ち上がって食道の入口が開き、同時に咽頭が収縮して食塊を食道へと押し込みます。

この時、喉頭蓋(と披裂部)がフタをすることで、気管に食物が入らないようになっています。ここで誤って食塊が気管に入ると「誤嚥」になります。咽頭期の障害は、嚥下後に激しくせき込む(むせる)、ノドがゴロゴロ鳴るなどです。

5.食道期(胃への抽送)

食道に入った食塊を、食道の蠕動運動で胃へと送り込む期です。食道期の障害の例は、飲みこんだものがまた咽頭や口腔に逆流してくること(胃食道逆流)などがあります。

イラスト

以上が嚥下の5期と呼ばれるものです。いろいろと例を挙げましたが、そういう目で見てみると、自分が担当している患者さんにも「○○期の障害かな?」という方がいませんか?嚥下障害の臨床は「まず気づく!」。そこから始まります。
次回は嚥下障害の原因について解説していきます。

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