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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第2回 摂食嚥下障害の原因となる疾患

執筆 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。


摂食嚥下障害の原因疾患とは?

摂食嚥下障害(嚥下障害)は「病名」ではありません。そう言われると違和感があるかもしれませんが、厳密には嚥下障害は「ムセる」、「食べこぼす」などの症状に対して付けられる「症状名」です。嚥下障害という「症状」を呈するということは、その原因となる「疾患」があります。今回は、その嚥下障害の原因疾患について主要なものを上げ、嚥下障害に対応するにあたり大切な考え方を解説します。

脳卒中

嚥下障害の原因疾患として最も多いのは脳卒中と言われており、脳卒中で加療中の症例は全国で約134万人であると推察されています。そのうち嚥下障害を呈する割合はさまざまな報告がありますが、仮に3割で嚥下障害が出るとすると、30万人以上の脳卒中後の嚥下障害症例が存在することになります。

脳卒中はそのステージによって臨床経過が異なります。急性期・回復期は、訓練や自然経過で嚥下機能はよくなっていきますが、慢性期まで残存した嚥下機能はよくならない場合がほとんどです。慢性期に対しては機能回復(=キュア・治す)を目指すよりも、「今ある機能を活かしてよりよい生活を送る」という支援(=ケア・支える)の比率が高くなります。

認知症

認知症症例は、厚生労働省の統計によると2012年の時点で約462万人と報告されました。認知症の初期は嚥下機能に問題はありませんが、中期以降になると食べこぼしや食事の中断、ムセなどの嚥下障害が現れてきます。認知症の3、4割に何らかの嚥下障害がみられるといわれており、概算すると130~190万人の認知症の嚥下障害症例が存在することになります。こうやって計算すると嚥下障害の原因で最も多いのは脳卒中ではなく、認知症かもしれません。

認知症もその多くは進行性の疾患ですので、認知症に起因する嚥下障害に対してはキュアよりもケアの視点からのアプローチが重要です(実は認知症も症状名なのですが…ここではスペースの都合上、病名のように扱っています)。

神経変性疾患

神経変性疾患も多くは嚥下障害の原因になります。パーキンソン病の患者数は約14万人であり、疾患の進行にともない嚥下障害が出現します。パーキンソン関連疾患(進行性核上性麻痺と大脳皮質基底核変性症)やパーキンソン症候群(薬剤性、脳血管性、など)も同様に嚥下障害の原因になります。その他、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、多系統萎縮症も比較的よくみられる嚥下障害の原因疾患です。

基本的に神経変性疾患に起因するものはケアで対応するべき嚥下障害です。

頭頸部腫瘍

口腔腫瘍や咽頭腫瘍も嚥下障害の原因となることは容易に想像できると思います。手術により嚥下に関わる筋や神経、組織、器官を切除されると、何らかの嚥下障害の症状を呈します。放射線治療は組織損傷をともなわないイメージがありますが、照射後も組織破壊が進むことがあり、晩発性に嚥下障害が出現してくることがあります。

腫瘍術後は回復期であり訓練などのキュアのアプローチが効果しますが、術後長期経過している場合はケアが主体となります。

その他、食道腫瘍、外傷性脳損傷、小児ではミオパチーや筋ジストロフィーなどの筋疾患、脳性麻痺、先天性代謝異常など、さまざまな疾患が嚥下障害の原因となります(表1,2)。疾患ではありませんが、薬剤性の嚥下障害や加齢にともなう嚥下機能低下も最近増加傾向にあります。

大阪大学歯学部付属病院における嚥下障害の原因疾患表

大阪大学歯学部付属病院における嚥下障害の原因疾患表②

なぜ摂食嚥下障害の原因疾患を理解すべきか?

これまで嚥下臨床では、症状に対して対処法やリハビリが考えられてきました。「ムセる(症状)場合は一口量を少なく(対処法)」「咽頭残留する(症状)場合は頭部挙上訓練(リハビリ)」などですが、これらの方法論ではうまくいかない症例がいるのも現実です。

その理由の一つに、対処法やリハビリに「嚥下障害の原因疾患」が反映されていなかったことが考えられています。同じ症状があったとしても、原因疾患が異なれば対処法やリハビリは変える必要があります。

イラスト

今回の連載では、できる限り疾患や病態にもとづいた解説を加えていきますので楽しみに(?)しておいて下さい!

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