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【連載】栄養療法のチカラ

グルタミンによる周術期合併症軽減の取組み―栄養素の域を超え、グルタミンの特性を利用して―①

解説 太田 哲生(おおた てつお)

金沢大学消化器・腫瘍・再生外科 教授

周術期の合併症軽減を目的としたグルタミン強化療法は、そのエビデンスが確立されないままでした。しかし、我々はグルタミンの特性を知り、周術期に『グルタミン+BCAA療法』を経口摂取にて施行することで、術後の合併症を減少でき、安全で質の高い医療を提供することできました。


従来のグルタミン強化療法では、十分な効果がない?

従来ICUやHCUで集中治療を必要とする重症患者さんに対して、積極的にグルタミンを経口的または経静脈的に投与し、死亡率や感染症合併症の発生率を有意に抑えたとする報告で “グルタミン強化療法”の有用性が注目されました1)

しかし、期待ほどの改善が得られなかったとの報告もあり2)、集中治療を必要とする重症患者さんにおけるグルタミン強化療法の有用性は、明確なエビデンスがないまま現在に至っています。

2006年に報告された集中治療下のグルタミン強化療法のメタ解析3)で、死亡率や感染性合併症の発生率は、グルタミンの経口・経管経腸的投与群ではコントロール群に比べ全く有意差は見られず、一方、経静脈的投与群では死亡率や感染性合併症の発生率は有意に抑制され病態の改善が得られております3)

そこで、当院ではグルタミンの経腸的投与でも十分な効果を得るために、グルタミンにおける栄養素の域を超えた重要な役割に着目し、グルタミン強化療法である『グルタミン+BCAA療法』を施行するに至りました。

まず、小腸でのグルタミンの働きを知る

グルタミンは、小腸の粘膜免疫能とバリア機能を強化する

小腸は食事などによる雑多な病原微生物などが次々と流入し、ある意味で最も危険な場所です。そのため、末梢リンパ球の70%近くがパイエル板などの腸管関連リンパ組織に集結し、主に自然免疫として防御機構に深く関わり、我々の身体を感染から守っています。

末梢リンパ球は特に腸管の粘膜免疫として免疫グロブリンを作り、腸管内腔に分泌された免疫グロブリンは抗菌物質として病原性微生物に作用しています。

さらに、小腸粘膜の絨毛には、小腸粘膜上皮細胞10個につきおよそ1個の割合で存在する腸管上皮間リンパ球のおよそ20%がγδ(ガンマデルタ)T細胞から構成され、このγδT 細胞が抗サイトメガロウイルス、抗ヘルペスウイルスとして作用します。

これを日常の臨床で説明すると、『臓器移植術後の免疫抑制剤を服用している患者さんや抗がん剤治療を受けている癌患者さんが、サイトメガロウイルスやヘルペスウイルスに感染した場合、副作用として下痢を引き起こす強い免疫抑制剤や抗がん剤などが、小腸粘膜上皮を障害し、特に腸管上皮間リンパ球であるγδT細胞を障害した結果、ウイルス感染が惹起された』となります。

経口投与されたグルタミンは、プリン塩基やピリミジン塩基合成の材料や、小腸上皮細胞や腸管関連リンパ組織での代謝の燃料源としても使われるため、十分なグルタミンが小腸に供給されて初めて小腸の粘膜免疫能やバリア機能が強化されます(図1)。

図1 グルタミンと小腸の機能 図1 グルタミンと小腸の機能

グルタミンが欠乏する状況下では、容易に腸管粘膜が萎縮し、その結果として bacterial translocationが起こり、腸内細菌に起因する感染症が惹起されます。

次ページ:グルタミンの特性―経口摂取と骨格筋細胞内で産生される、それぞれのグルタミン

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